不平等の実態にも迫る 苅谷剛彦著「大衆教育社会のゆくえ」他

 ある調査によると大学への進学率は、親が大卒の場合と中卒の場合で三倍から四倍も違う。家庭の収入の影響も大きい。大きな不平等があるのに、日本ではこれがあまり注目されない。どういうわけか、生活水準が上がったので、努力次第で誰でも大学に行ける、という見方が常識化してしまっている。そのせいか国立大学の授業料もうなぎ登りで、今では私立とそれほど変わらない。この問題は教育改革論議の盲点の一つである。
 なぜこんなことになったのか。苅谷剛彦著「大衆教育社会のゆくえ」(中央公論社・七二〇円)によると、その理由は第一に「学歴社会」という社会認識、第二に日本独特の平等主義にある。 日本は学歴社会だ、という認識には、誰でも努力次第で学歴を獲得し、氏や生まれに関係なく高い地位につくことができる、という前提がある。学歴社会の議論は、不平等の存在を無視しがちなのである。他方、教育界に広まった平等主義は、すべての子どもを平等に扱うべきだと主張するあまり、子どもの家庭環境の違いを無視する傾向を生んだ。
 それだけではない。この二つは受験競争を広める役割も果たした。誰でも平等に、競争に参加できる。みんな同じように、競争に参加する。こうして生まれたのが、大部分の人々が受験競争に参加するという、世界的にもユニークな「大衆教育社会」である。
 新進気鋭の著者だけに、やや欲張りすぎて、新書サイズでは窮屈かなと感じる部分や、舌足らずな部分もあるが、意気込みは大いに伝わってくる。教育機会の不平等の実態を明らかにした第三章は、資料的にも貴重。特に教師にすすめたい一冊である。
 天野郁夫著「教育改革のゆくえ」(東京大学出版会・一七五一円)は、教育改革のお目付役ともいうべき著者の、最近の講演録を集めたもの。急ピッチで進む高校・大学改革の意味と課題を、わかりやすく解説している。教師にも、また受験期の子をもつ親たちにも一読をすすめたい。

(1995.7月配信)

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