毎年この時期になると、「予測本」とも言うべきジャンルの本が多数出版される。来年の政治・経済・社会、とりわけ経済動向がどうなるかについて、一般向けに解説されたものである。今回はその中から、三菱総合研究所著「全予測日本1996」(ダイヤモンド社・一八〇〇円)と三和総合研究所「1996年日本はこうなる」(講談社・一六〇〇円)を紹介しよう。
いずれも銀行系シンクタンクがまとめたものであり、タイトルも酷似している。内容にも共通点が多いが、微妙な違いもある。
第一に、両者とも戦時中または敗戦後に形成された日本経済の仕組みが限界に達し、構造転換を迫られているという点では一致している。しかし、三菱総研の方が構造転換なしに停滞の打破はあり得ないといった危機的ニュアンスが強いのに対し、三和総研の方は政府の積極財政や規制緩和に期待するなど、やや楽観的である。
これと関わって第二に、三菱総研は当面日本経済の低成長からの脱出はないとしているが、三和総研は一九九六年には円安と政府の経済対策の効果が現れて景気回復が始まるとみる。また価格下落についても、三菱総研はデフレ側面の強いものとみて警戒しているが、三和総研は消費拡大と内外価格差解消につながるものとみて歓迎している。
第三に全体の構成やテーマ設定から言うと、三菱総研の方が消費市場の動向やエレクトロニクスを中心とした技術開発の動向、地域社会のあり方などについて多くのページを割いているのに対し、三和総研の方はやや「経済」に特化した記述が多い。
一度目を通した上で、来年の暮れにどちらの予測が当たったか点検してみるというのが、こうした本の一番意地の悪い読み方だが、広いテーマを平易に解説しているという点で、日本経済への入門書としての価値も高い。私としてはテーマの広さと二色刷の見やすさで、三菱総研の方に軍配を挙げたい。
(1995.12月配信)