今回は、翻訳が出るたびに必ず書店のビジネス書のコーナーに山積みになる、ビジネスマンにはおなじみの二人の著作を紹介しよう。
一冊目は、ダニエル・ベル著「知識社会の衝撃」(TBSブリタニカ・二〇〇〇円)。最近日本の雑誌に掲載されたものを中心に、一三の論文が収められている。全体は三部に分けられ、来るべき「知識社会」の展望、著者の元来の専門であるイデオロギー論、そして世界の政治経済情勢についての論文が、それぞれにまとめられている。主題の広さと博識ぶりはさすがである。
しかし読んでいくうちに、やはりこの著者は過去の人なのだな、という印象が残った。たとえば第一部は、知識の発展段階と社会の発展段階が必然的に対応するという、あたかも一九世紀前半の社会進化論のような議論だ。本人は時折、技術が社会を決定づけるのではないと述べるのだが、記述の全体がそういう構造になっているので、苦しい言い訳にしか見えない。
また第二部の多くはマルクス主義批判に当てられているが、彼の理解しているマルクス主義は、ソ連が圧倒的な権威を誇っていた時代のそれである。何かにつけて過去の米国政府の立場を弁護しようとする姿勢も気になる。
二冊目はP・ F・ドラッカー著「未来への決断」(ダイヤモンド社・二五〇〇円)。市場の変化と知識労働者の役割の増大、これに対応したマネジメントの役割について、平易に語っていく。「五つの大罪」「六つのルール」などといった列挙の仕方も、まるで披露宴のスピーチみたいで分かりやすい。事例も豊富で、確かにビジネスマンが読んで損のない本である。
二冊に共通の誤りについて。両者とも、技術の進歩によって必然的に女性の地位が向上するという楽天的な議論を展開している。そんな単純なものではないということは、労働統計を少し眺めればすぐ分かることである。
(1995.10月配信)