日本の経済システムは、他の先進国とかなり異質だとよく言われる。具体的には経済の官僚統制や日本的経営などだが、これが外部との関係では貿易摩擦や規制緩和、内部的には政官と企業の癒着、そして働き過ぎや過労死の問題として現れている。
それではこのシステムは、どのようにして形成されたのか。戦時体制がその起源だ、というのが一つの有力な仮説である。今回はこの観点から書かれた本を二冊。
NHK取材班他著「『日本株式会社』の昭和史」(創元社・一八〇〇円)は、放送された番組をもとに書き下ろされたもの。最も興味深いのは、関東軍参謀の石原莞爾と彼に支えられた若い官僚たちが、旧満州を舞台に日本型システムの原型を築き、この経験をもって戦時、そして戦後体制をデザインしていく過程を描いた部分。写真が多く、生存者の肉声も伝えるなど、テレビ番組を下地にしたことが良い結果を生んでいる。
野口悠紀夫著「一九四〇年体制」(東洋経済新報社・一五〇〇円)は、戦時期に形成されたこのシステムを「一九四〇年体制」と規定し、その確立過程と問題点を明らかにするもの。明せきな記述で一気に読ませる。最後の部分では、官僚主導のシステムへの対案として、消費者優先と政策形成過程における透明性を原則とした社会民主主義の可能性を論じていて興味深い。
この二冊、テーマも結論も共通点が多いのだが、相違点もある。それは、後者が終身雇用などの雇用慣行を戦時下の産物だとしているのに対し、前者はこれを主に戦後の労働運動の産物だとしている点である。これは研究者の間でも見解の分かれる問題だが、一般の人々にも無縁ではない。
日本的経営の見直し論議が盛んである。これが戦時期の産物だということになれば、見直し論も勢いを増すだろう。しかし、そこに含まれた雇用の安定という側面まで捨ててしまって良いものか。慎重な検討が必要である。
(1995.8月配信)