私のように社会学などというマイナーな学問をやっていると、経済学に対して劣等感を感じることがある。顧客は多く、日本の大学生の四分の一は経済・商学部生だ。文科系では唯一、自然科学のような体系性・論理性を備えた学問とされ、社会的影響も大きい。そのためか社会学者には、経済学の理論となると無批判に信用してしまう人もいる。
ポール・オルメロッド著「経済学は死んだ」(ダイヤモンド社・二三〇〇円)は、この一見科学的でエレガントな経済学理論が、実は空虚で害の多いものであることを明らかにしようとするもの。
著者によると、「正統」派の経済理論には非現実的な仮説命題が多く含まれている。経済学者たちは現実の経済の研究よりも、こうした仮説命題からさまざまな命題を数学的に導出すことに専心しており、経済学はまるで中世の神学のような、非現実的なものとなってしまった。
それだけではなく経済学者たちは、こうした理論から導びかれた、たとえば市場経済に対する政府の干渉はすべて有害だといった命題を声高に主張する。その弊害は大きい。経済学はいま、経済の動きを理解することを通じて人類の運命を改善しようとした古典派経済学に学ぶべきではないか。著者はこう主張する。
本書に出てくる心理学の実験によると、経済学部生は他の学部の学生に比べ、利己的な行動をとる者が多いという。だとすると多数の経済学部出身者の存在が、日本の経済や政治のあり方に影響していても不思議ではない。オウム事件との関連で理工系教育のあり方が話題になったが、問題はそれだけではなさそうだ。
ロバート・アイスナー著「経済の誤解を解く」(日本経済新聞社・二二〇〇円)は、同様に主流派経済理論の非現実性と弊害を論じたもの。どちらかといえば、ケインズ経済学の立場から新古典派経済学を批判するという色彩が強い。目新しい議論ではないが、先の本とともに、一種の解毒剤として役立つだろう。
(1995.7月配信)