威勢の良いアジテーション ウォルフレン「人間を幸福にしない日本というシステム」他


 カレル・ヴァン・ウォルフレンといえば、数年前に「日本/権力構造の謎」という本で評判になった世界的ジャーナリストである。日本の官僚支配と無責任体制、それに支配に従順な国民の姿を容赦なく描き出し、新手のジャパン・バッシャーとみなす向きもあったが、丸山真男の日本政治分析を拡張したような鮮やかな日本社会論として、新鮮な感動を覚えた記憶がある。
 「人間を幸福にしない日本というシステム」(毎日新聞社・一八〇〇円)は、彼の最新作。「これまでの私の読者層より広い日本人に語りかける」ために書かれたとのことで、寄せ集めではなく書き下ろしというのがうれしい。
 前半部分では、いくつかの独自の概念を中心に日本の現状が解き明かされていく。マスコミや知識人が振りまく、例えば「日本は調和のとれたユニークな国である」といった「偽りのリアリティ」。官と民の区別が失われ、官僚たちが社会を統制する「政治化された社会」。そして政策を実行する理由や効果について国民への説明が行なわれない「政治的説明責任の中枢の不在」など。テーマの多くは前著と共通だが、簡潔で見通しの良い議論になっている。
 前著と違うのは第三部。ここで著者は、直接請求による市民立法やマスコミへの働きかけなど可能な方法を例示しながら、読者一人一人が日本の変革に立ち上がるよう呼びかける。はっきり根拠も示さずに小沢一郎を持ち上げるところや、反差別運動への批判など気になる点もあるが、久しぶりに見る威勢の良いアジテーションである。
 田麗玉著「悲しい日本人」(たま出版・一五〇〇円)は、韓国人ジャーナリストが東京特派員の経験から日本について論じたもの。仕事への態度や酒場での生態など、様々な場面での日本人への鋭い観察を通じて、日本人は国家と企業に飼いならされ、すすんで支配されるおとなしい国民だと指摘する。洋の東西、視点は異なっても、結論は共通なのである。

(1994.12月配信)

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