指導力の重要性説く 信田智人著「総理大臣の権力と指導力」他


 首相とは一体、何をする人なのだろうか。ここ何代かの首相を見ていると、よく分からなくなってくる。政権与党の指導者というわけではないし、行政府を掌握しているというわけでもなさそうだ。
 信田智人著「総理大臣の権力と指導力」(東洋経済新報社・一六〇〇円)は、戦後歴代首相がどのように政権を維持し、政策を決定してきたかを豊富な具体例に基づいて分析した意欲的試みである。
 著者によると首相権限の強さは、政権基盤や野党・官僚との関係などの「内的な政治資源」と、人気と世論、財界や米国の支持などの「外的な政治資源」をどれだけ持つかによって決まる。そして歴代の首相たちはしばしば、これらの資源を有効に利用して強力な指導力を発揮してきたとし、日本が大きな変革を必要としている今、首相は強い指導力を発揮すべきだと説く。
 豊富な実例やエピソードの数々は興味深いし、結論にも共感できる。ただし、気になる点も多かった。
 まず、特定の首相に近かった人々の回想を無批判に援用しているのはいただけない。例えば田中元首相側近へのインタビューから、田中は国土開発について官僚も到底及ばない知識を持っていたとする箇所がある。田中を長年追ってきた立花隆によると、彼の知識は土地と土建業に関係する部分に限られていたというのだが、果たしてどちらが信用に値するだろうか。
 また、官僚に従った結果、米国に逆らうことになる場合もあれば、財界に従った結果、官僚に逆らうことになる場合もあるはず。それぞれ後者の側面を強調すれば、首相には指導力があるようにも見えるだろう。断片的な事実を積み上げた結果、こうした誤った推論に陥ったのではないかと思われる箇所も散見する。
 官僚に関する本が相次いで出版されているが、毎日新聞取材班「霞ヶ関しんどろーむ」(毎日新聞社・一六〇〇円)もその一つ。中でも省益保護のために審議会を操る手口を描いた部分が圧巻である。

(1994.10月配信)

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