転機迎えた男の人生追う 滝田誠一郎著「男四十代を正面から生きる」他


 一昔前まで、結婚を別にすれば男の人生にとって最大の節目は、就職と退職だと考えてよかった。終身雇用の下、四十年にもわたる職業生活のあり方は、ほぼ就職の時点で決まってしまう。その後は自分の会社の中で大過なく勤め上げるだけ、そう考えてもそれほど間違いではなかった。
 しかし、終身雇用は一部で根強いもののかなり崩れてきたし、そうでなくても能力主義の浸透によって、誰もが就職から退職まで一本道のキャリアをたどるとは言えなくなった。それでは就職と退職の間の新しい節目はどこか。
 滝田誠一郎著「男四十代を正面から生きる」(講談社・一六〇〇円)によれば、それが四十代である。四十代をどう生きるかによって、その後の人生は決まる。定年まで勤め上げるにせよ、転職するにせよ、分岐点は四十代にやってくる。そういう視点から著者は、四十代で岐路を迎え、その後の人生を自力で切り開いていった十五人の人々を追っていく。
 登場するのは、関連企業で新しい分野を開拓した技術者、会社をやめて趣味を生かした仕事に転じた元経営者、解雇や転勤の不当性を訴えて裁判を闘う人々など。経済の変動と企業の論理、そして自分の意志。その狭間で揺れ動く男四十代の意味を、読者は考えさせられることになるだろう。
 気になるのは、一部を除いて家族のことがほとんど出てこないこと。シングル派はともかく、人生の転機を考えるのに家族を無視して良いはずはないのだが。
 山田智彦他著「男たちの転機」(プレジデント社・一六〇〇円)も、四十代以降の男の生き方がテーマ。会社と家庭とは別の、第三の居場所を求めてさまよう男たち、会社で自分がどう評価されているか不安になり、興信所に「自己調査」を依頼した中間管理職、そして無気味に拡がる神経症と過労死。
 主題は共通だが、こちらはどちらかといえば、自信ありげな外観とは裏腹の、「男の不安」が中心である。

(1994.10月配信)

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