コンパクトな啓蒙書 内田雅敏著「『戦後補償』を考える」他


 村山内閣の最大の懸案の一つは、戦後補償問題だろう。外交政策を引き継ぎ、日米安保も認めた以上、平和・外交政策で自民党政権時代との違いを強調できるのは、ほぼこの一点に限られる。官僚は抵抗しているようだが、首相の真価が問われるところだ。
 内田雅敏著「『戦後補償』を考える」(講談社・六五〇円)は、アジア・太平洋戦争中の日本の行為をめぐる戦後補償の問題を解説したコンパクトな啓蒙書。
 前半部では戦争中の、主にアジアでの日本の行為の数々が手際良くまとめられ、後半部では戦後補償に関する各国の対応と、補償に消極的な日本の態度が論じられる。通読すれば、この問題について一通りの基本知識を得ることができる。特に若い人に一読を勧めたい。
 注目されるのは、日本の戦後補償のあり方が日米関係によって規定されたという指摘である。米国は極東政策への配慮から、昭和天皇の責任を不問とし、周辺諸国からの賠償要求をも抑え込んできた。このため日本では戦争責任があいまいになり、しかも戦争がアジアとの戦争だったことも忘れられがちになった。
 日本は米国との戦争に負け、原爆の投下と平和憲法の制定を経て平和国家になり、こうして戦争責任は免責された…。このような認識が、戦後補償問題を放置する結果につながったのではないか。著者はこう指摘する。
 倉橋正直著「従軍慰安婦問題の歴史的研究」(共栄書房・一八〇〇円)は、堅苦しい題名だが明快で読みやすい歴史書である。
 著者によると従軍慰安婦は、伝統的に兵隊を消耗品扱いしてきた日本軍が、安上がりに兵士の戦闘力を維持する手段として考え出したものである。そしてこの日本軍のあり方を、社員たちを酷使する一方で、時には接待費で遊ばせる日本企業のあり方と対比し、「時代は変わっても本質は変わらない」と指摘する。なるほど、「企業戦士」とはよく言ったものである。

(1994.9月配信)

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