求められるシステム革新 奥村宏著「大企業解体のすすめ」他


 近ごろ、「会社人間」は大変に旗色が悪い。もともと良い意味で使われてきた言葉ではないが、会社人間からの脱却が必要だ、という認識が一般化してきたのは最近のことだろう。しかしこの問題は、個人の心がけの問題ではなく、人々を会社人間へと追いやる企業システムの問題である。つまり、企業システムの革新が求められているのだ。
 奥村宏著「大企業解体のすすめ」(東洋経済新報社・一五〇〇円)は、「法人資本主義」論で知られる著者の、現代日本経済に関する評論集。証券スキャンダルや政界汚職に表われた大企業の腐敗の構造を解明するともに、二一世紀に向けた新しい企業像を大胆に論じている。
 著者によると、日本社会の特徴である法人資本主義、その構成原理である会社本位主義こそが、会社人間を生み出す基盤である。
 それだけではない。企業が株式を持ち合っているので、企業の思惑で株価が乱高下する。「会社本位」だから、人間の格は企業の格で決められることになる。格の高い企業、つまり大企業ほど一流大学卒業者を採用するから、大学の序列意識が広まり、受験地獄につながる。大企業信仰のために企業規模は大きくなるばかりで、管理不能状態が広がっていく。大量生産・大量販売が時代遅れとなる、これからの経済にも適応できない。
 一言でいえば、「大企業の時代」は終わったのだ。これに対して著者が提案するのは「大企業解体」、具体的には大企業の分割と株式持ち合いの禁止である。論点自体には、著者がこれまで書いてきたことの繰り返しが多いが、題材が新しいだけに多くの人々に興味深く読めるだろう。
 長銀総合研究所「尊厳なき企業の崩壊」(PHP研究所・一六〇〇円)も、「会社至上主義」や企業モラルといった共通の問題を扱っている。ただ、日本企業をめぐる問題の現状分析には興味深い部分が多いのだが、これを受けた提言の部分は、企業の善意を信じ過ぎている印象が強い。

(1993.10月配信)

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