精力的な取材で汚職を告発 立花隆著「巨悪VS言論」他


 ここ二十年ほどの間、繰り返されてきた政界汚職事件の解明と告発に立花隆氏が果たしてきた役割は小さくない。特に、一九七四年の「金脈」問題からロッキード事件での田中逮捕に至る二年ほどの間は、あたかも日本の政治状況が「田中・対・立花」を基軸にしているかの観さえあったのを記憶している。
 「巨悪VS言論」(文藝春秋・    円)は、田中逮捕から最近まで十数年間にわたる氏の政界汚職に関する言論活動のうち、単行本になっていない主要作品を集めたもの。八〇〇ページ近い大部な書物で、全四五章から成る。
 どの問題を取っても、精力的な取材にもとづく圧倒的な情報量が氏の告発を支えている。それに加えて、田中裁判批判の特集を組んだある雑誌編集部との論争(第一七章)に見られるように、あらゆる批判や中傷に耐えうるだけの周到さをも兼ね備える。いまさらながら、希有なジャーナリストという他はない。
 事件としてはよく知られているテーマが多い中で、今回特に興味をひかれたのは、児玉誉士夫、ハリー・カーンという日米の「黒幕」、そして最近の皇民党事件で世間の注目を浴びた右翼・暴力団と政界の関係についての部分である。新聞報道では断片的にしか伝えられない「裏世界」を垣間見せてくれる、貴重なレポートである。
 共同通信社社会部編「利権癒着」(共同通信社・1400円)も、この「裏世界」と政界の関係に焦点を当てる。登場するのは、右翼・暴力団、仕手グループ、画廊社長から長野山中の奇妙な禅寺の僧侶まで。これらの人々がいずれも、首相経験者を含む自民党幹部たちと持ちつ持たれつの関係を繰り広げる。迫真のレポートである。
 細川新政権の存在理由は「政治改革」である。しかし単なる選挙制度改革ではなく、政治腐敗の構造そのものにメスを入れることができるのか、注目する必要がある。健全なジャーナリズムに一層の奮起を期待したい。

(1993.8月配信)

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