モルガン、ロックフェラーといえば、ここ一世紀ほどにわたって米国の(ということは世界の)経済と政治を支配し続けてきたとされる二大財閥である。日本でも広瀬隆氏の著作などで紹介されているので、ご存知の方も多いだろう。この二つを扱った翻訳書が相次いで出版された。
一冊目は、ロン・チャーナウ著「モルガン家」(日本経済新聞社・上下各二五〇〇円)。一族の祖がロンドンで金融業を営んでいた一九世紀半ばから始まり、大恐慌や世界大戦を経て今日に至るまでのモルガン一族と世界経済を描き出す、経済学的大河ドラマとでもいうべき作品である。
ここに描かれたモルガン家像は、少なくとも第二次大戦前後までについては一般的なイメージに近い。一種の影の政府として米国政府の政策を動かし、帝国主義の主要な担い手となり、一方で中央銀行としての機能も果たす。戦争初期には日本の軍部やムッソリーニを擁護する立場を取っていたというのも興味深い。
これに対して著者は、戦後におけるモルガン家の役割については控え目な評価を下しているようである。そして、日本では戦後になってもモルガン系の企業を統合された強力なグループと考える傾向があるが、それは間違いだとも指摘する。この点については議論もあると思われる。
二冊目のギル・リービル著「青い血族」(メディア・ファクトリー・一八〇〇円)は、ロックフェラー家一五〇年間の記録。実録小説の手法で書かれており、読み物としてはこちらのほうが面白い。
表題の「青」とは、一族の基盤を作ったスタンダード・オイル社の石油樽の色。一族の祖であるジョン・Dが、自由競争とは名ばかりのあくどい手段で富を成していく過程が圧巻。政府を自由に動かしてラテン・アメリカで富をむさぼり、資源を独占するために環境保護運動まで利用する強欲さにも圧倒される。世界的な富というものは、決して公正な自由競争で築かれるものではないようである。
(1993.8月配信)