日本的雇用の特質さぐる 伊丹敬之・加護野忠男・伊藤元重編「人的資源」他


 日本的経営について書かれた本が、次々と出版される。その主要な争点はほぼ三つ、日本的経営は、いかに日本の経済成長に貢献したか、崩壊しつつあるのか否か、海外に移植できるか否か、である。しかも単なる学問的関心ではなく、個々の企業経営のレベルでの関心が高まっているのが、最近の傾向だ。
 いずれも大きな問題だが、どれを考えるにしても、日本的経営、特にその中核といえる雇用システムの特質を理解しておくことが必要だ。伊丹敬之・加護野忠男・伊藤元重編「人的資源」(有斐閣・二五七五円)は、そのための優れた手引きになるだろう。
 本書は「日本の企業システム」と題されたシリーズの一冊で、「日本的」といわれる雇用システムと生産管理システムを扱った一二編の論文から成る。論文の大半は過去に発表されたものだが、今回の出版にあたって加筆・修正されたものが多く、タイムリーかつ充実した内容である。
 特に、終身雇用や年功序列賃金と労働者の知識・技術の関係を扱ったいくつかの章が優れている。世界的に知られるトヨタ・システムについて、賛否両極の論文が収められているのも興味深い。
 研究者の論文が中心だが、編者たちによると、高度に専門的な論文は避け、学生・ビジネスマン向けの編集を目指したという。確かに、比較的読みやすい論文が多いが、気軽に読み飛ばすという訳にはいかないかもしれない。
 デニス・ローリー著「ヤンキー・サムライ」(東急エージェンシー・二〇〇〇円)は、米国の日系企業で働く労働者の調査を通じて、日本的経営は米国に十分定着できると結論している。米国の習慣に妥協することはない、日本的経営をそのままの姿で推進せよ、中央集権的で厳格な日本の教育システムを米国にも導入せよ、とまで言われると、何だかほめ殺しにあっているような気にもなってくるが、日系企業のナマの姿を知ることができるのは貴重である。

(1993.7月配信)

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