2001年11月に聴いたCD

ブルックナー 交響曲第8番
セル指揮 コンセルトヘボウ管
(Audiophile APL101.556)

1951年6月28日のライブです。セルは、1969年に手兵のクリーブランド管と決定的ともいえる名盤を録音しており、これに比べればやはり見劣りするのは仕方のないところです。しかし意外なほどにデュナーミクとアゴーギクを駆使した演奏には、壮年期のセルのライブの特徴が現れていて、これはこれで存在意義があります。録音も、思ったほど悪くありません。(2001.11.8)

シューマン マンフレッド序曲・4つのホルンのための小協奏曲・交響曲第2番
ティーレマン指揮 フィルハーモニア管
(DG 453 482-2)

新鋭ティーレマンの演奏を聴くのは初めてです。大体は遅めのテンポを基本に、かなり振幅の大きい表情をつける演奏で、時には思わぬテンポの変化で、パウゼかと思ったりします。オーケストラの響きは、あまり整理されているとはいえません。この曲の演奏としては、中の下といったところ。小協奏曲は、初めて聞きました。演奏形態のせいもあるでしょうけれど、シューマンの管弦楽曲としては珍しく屈託のない曲で、R.シュトラウスを思わせる部分さえあります。(2001.11.10)

モーツァルト バイオリン・ソナタ集
ゴールドベルク(vn)/クラウス(pf)/シゲティ(vn)/他
(KC-1013)

これは駅売りの廉価盤。録音は1936年ですから、海賊盤というわけではありませんね。曲は4曲ですが、ゴールドベルクが2曲、シゲティとハイフェッツが1曲ずつという豪華盤です。いずれも「新即物主義」を代表する若手バイオリニストだった頃の録音ということになります。現代の演奏よりも現代的で、芯の太い構成感ある表現で聞かせます。いまの時点でこういう演奏をすると、時代遅れで個性がないということになるのでしょうか。しかしスタンダードな演奏スタイルとして、継承して欲しい気がします。(2001.11.12)

ブレンデル ザルツブルク・ライブ
ブレンデル(pf)
(PHILIPS 470 023-2)

ブレンデルは最近まで、私のもっとも好きなピアニストでした。しかし近年のブレンデルは、「円熟」と表されるのをしばしば目にしますが、私には考えすぎて迷宮に入り込んでいるように見えます。単純なパッセージも、愛らしい旋律も、彼は考え込みながらでなくては弾けなくなってしまったようです。このライブは、1981年から1985年に録音されたもの。曲はハイドンの小品とソナタ、シューベルトの中期のソナタが2曲、そしてリスト編曲の「イゾルデの愛の死」。彼の絶頂期の最良の演奏を、ここに聞くことができます。叙情と覇気、繊細さと力強さが、見事に両立しています。録音は、やや痩せた音ながら、いちおう合格点。(2001.11.17)

日本管弦楽名曲集
沼尻竜典指揮 東京都響
(NAXOS 8.555071J)

確かに、快挙には違いありません。ナクソスのラインナップに、日本人作曲家の作品集が加えられたのですから。演奏も万全。アンサンブルは完璧に近く、音色も美しい。これらの曲の最高の演奏のひとつでしょう。しかし私は、この作品集は日本の現代音楽に対する誤解を世界中にまき散らす、最悪のCDだと思います。収録された曲は、管弦楽のためのラプソディ(外山雄三)、越天楽(近衛文麿)、日本狂詩曲(伊福部昭)、交響管弦楽のための音楽(芥川也寸志)、管弦楽のための木挽歌(小山清茂)、朱鷺によせる哀歌(吉松隆)。何ですか、この選曲は。いかにも「日本の伝統的な旋律を生かした日本らしい曲」というような曲が大半です。民族的な旋律やリズムを新しい芸術へと昇華させたバルトークのような独創性は、どこにも見あたりません。辛うじて吉松隆の最高傑作が含まれているのが救いですが、武満徹、一柳慧、湯浅譲二、松村禎三など、独創的な作風でインターナショナルな評価を受けてきた人々の作品は、どうしたのですか。しかもジャケットには平安期(?)の絵と、「日本作曲家選輯」の文字。「輯」なんて漢字、今どき誰が使うのですか。ナクソスは直ちに、まったく別の企画による続編を制作し、日本の現代音楽への誤解をまき散らした償いをすべきです。(2001.11.17)

ジョージ・セル ライブ・イン・ロシア
セル指揮 クリーブランド管
(ARS 001)

ARS NOVAというレーベルから最近発売されました。今まで希少盤のLPでは知られていましたが、CD化はたいへんありがたい。1965年5月19日、レニングラードでの録音です。曲は、ロッシーニ「どろぼうかささぎ」序曲、ドビュッシー「海」、ブラームス交響曲3番、ドボルザークのスラブ舞曲第3番。なかなか盛りだくさんの多彩なプログラムですね。いずれもスタジオ録音でセルの演奏が残されている曲です。ドビュッシーにはルガノ・ライブもありますが、こちらの方がやや不完全燃焼でしょうか。ブラームスは得意の曲だけに、完全に曲を手中に収め、しかもライブらしい熱気を感じさせる好演。録音はあまり良くなく、強奏部ではかなりビリつきます。セル好きは必携の一枚ですが、一般に広くおすすめできるというほどのものではないでしょう。(2001.11.26)

モーツァルト ピアノ協奏曲第20番/22番
オコーナー(pf)/マッケラス指揮 スコティッシュ室内管
(TELARC CD-80308)

1991年の録音。メリハリをつけ、ときおり金管を咆哮させるピリオドスタイルを意識した管弦楽をバックに、オコーナーが安定したソロを繰り広げます。オコーナーは初めて聴くピアニストですが、モノトーンで表情に乏しいのですが、ときおり即興的なパッセージを見せます。しかし全体としては、あまり印象に残るものではありません。管弦楽は、奏法には好みが分かれるものの、ニュアンス豊かで優れていると思います。(2001.11.29)

マーラー 交響曲第5番/大地の歌
テンシュテット指揮 ロンドン・フィル
(EMI 7243 5 74849 2 3)

5番は1979年、大地の歌は1982年と84年の録音。実は私、テンシュテットの演奏を聴くのはこれが初めてです。それなりに長い間、いろいろな演奏を聴いてきたつもりですが、それでもこんな演奏者がけっこういます。5番はよく考えられた、かつ情熱的な演奏という気はしますが、この曲についてはショルティ/シカゴの印象があまりにも強く、金管のもたつきや、音が整理されていない点が気になってしまいます。しかしアダージェットは、濃密な表現で聴かせてくれます。「大地の歌」の方は、私にとってあまり馴染みのない曲。しかし、今まで聞いたなかでは比較的いい印象の演奏で、とくにバルツァが歌う偶数楽章が好演です。テノールのケーニッヒは、音程が不安定ですね。(2001.11.29)