2001年10月に聴いたCD

ヘルベルト・ケーゲルの音楽
ケーゲル指揮 ライプチヒ放送響/他
(ede 0002332CCC)

ヘルベルト・ケーゲルの演奏を集めた15枚組のCDが、5000円程度で売られています。安い上に、曲目も近現代ものを中心に魅力的。聴いてみると、これがまたただ者ではない。セル好きのお前には似合わないと言われそうですね。しかし音楽性はともかく、アンサンブルや音響の精密さという点からみれば、まったく正反対というわけではありません。しばらくの間、聴いていきたいと思います。

ショスタコーヴィチ 交響曲第1番/シベリウス 交響曲第4番/シェンカー 大オーケストラのための「情景」

1枚目。ショスタコーヴィチの1楽章から快調そのもの。バイオリンのトレモロ強奏が、完璧なアンサンブルで扇情的に響き、管楽器も切れば血の出るような生々しさです。終楽章も、精密な音響が熱気いっぱいに駆け抜ける快演。シベリウスはライプチヒ放送響のひんやりした音色を激情的にドライブするケーゲルには、適した曲かもしれません。厳寒のなかで、見えない巨大な敵に備える魂の青白い炎とでもいうべきか、冷たさと情熱が見事に共存しています。シェンカーの曲は、1942年の作品。現代音楽を熱っぽく聴かせる、ケーゲルの本領発揮です。パーカッションの生々しさは、心臓に悪いほどです。(2001.10.1)

マーラー 交響曲第1番/ゴルドマン 交響曲第1番

マーラーはもともと激情的な要素が強く、また激情的な演奏も多いので、とくに個性的な演奏という感じはしません。しかしときおり見せる弦の強い表情と、最終楽章のスピード感は印象に残ります。ゴルドマンの交響曲は1972-73年の曲とのこと。バリバリの現代曲というわけですが、ケーゲルが演奏しているせいかそれほど新しいという印象は受けず、第1楽章などは初期のウェーベルンのように響きます。うるさいだけのような部分が多く、さほどの曲ではありません。(2001.10.4)

ベルリオーズ 幻想交響曲/デッサウ 嵐の海

ベルリオーズの「幻想」はミュンシュの演奏の印象があまりにも強く、これと比べてしまうのは仕方のないところです。細身の精妙な音楽で、それはそれで良いのですが、やや音楽に乗り切れない部分が目立ちます。たとえば第二楽章、絶対的にリズム感と熱気が欠けています。断頭台への行進は、ちょっと聴くと端正で、よく聴くと荒涼としています。こういうタイプの「幻想」もいいかなとは思わせますが、だとしてもあまり成功した演奏ではないようです。デッサウは東ドイツの作曲家で、おそらくケーゲルとは同志的関係にあったのではないかと思われます。曲そのものも大胆かつ充実した曲ですが、演奏がまた凄い。すべての楽器が鳴りきっており、とくにバイオリンは、凄絶なほどです。好きになるかどうかは別として、これを聴くと、無機的あるいはうるさいだけという現代音楽演奏のイメージが変わる人もいるかもしれませんね。(2001.10.6)

ムソルグスキー(ラヴェル編) 展覧会の絵/プロコフィエフ 「三つのオレンジへの恋」より/バルトーク 弦楽のためのディベルティメント

「展覧会の絵」が何とも強烈です。荒々しく咆哮する金管、鋭く切り込む弦、張り倒すようなパーカッション、驚異的なダイナミック・レンジ。とくに「キエフの大門」など、鳥肌ものです。これはどう考えても、ラヴェルの音ではありません。例えるならばバルトーク、あるいはストラヴィンスキー、でなければウェーベルンです。しかし、ただ奇をてらった演奏ではなく、十分に考え抜かれ、成功を収めた名演奏といっていいでしょう。バルトークも、鋭く力強いアンサンブルに多彩な表情を加え、愉悦と緊張感を兼ね備えた名演。これに対してプロコフィエフは、リズムに問題がある上に音響的にも魅力が乏しく、あまり良い演奏とはいえません。(2001.10.7)

バルトーク ヴィオラ協奏曲 バイオリン協奏曲第2番/マイヤー ヴィオラと管弦楽のための詩/ヒンデミット ヴィオラと弦楽オーケストラのための葬送曲

ヴィオラ協奏曲はバルトークの遺作で、今回はじめて聴きました。1度や2度聴いただけでは把握しきれませんが、ただならぬ深遠な響きと緊張感をもった曲であることは分かります。第2協奏曲は、中期の傑作。第1楽章は単純な民族風の楽想から始まりながら、第2主題では12音技法が用いられ、12音の音列がいずれも、民族色をたたえた見事な旋律になっているというとんでもない曲で、バルトークの力量が遺憾なく発揮されています。マイヤーは1905年にベルリンで生まれ1988年に東ドイツで亡くなった作曲家。戦前から左翼的な主張を含む音楽を書き、ヒトラーの政権掌握後は英国に渡って反戦音楽を書き、戦後は東ドイツで活躍しました。彼もまた、ケーゲルの盟友ということでしょう。1962年の作品ですが、前半はユーモラスな舞曲風、後半は叙情的という比較的親しみやすい曲。ヒンデミットは悲しみをたたえた美しい曲です。ケーゲルの演奏もさることながら、曲の魅力でおすすめできる一枚です。(2001.10.14)

ヴィヴァルディ 協奏曲・シンフォニア集

4曲の協奏曲と2曲のシンフォニアを収めています。短調の曲は何ともいえぬ悲壮感をたたえ、長調の曲も決して明るくはなくバッハのように壮麗に響く、かなり特異な演奏です。いちばん驚いたのは、ロ短調のシンフォニア P Sinf.21「聖なる墓に」。暗い情感たっぷりに歌わせまくった演奏で、まるでシェーンベルクの「浄夜」か、マーラーの9番です。特殊な演奏ですが、聴く価値はあります。(2001.10.15)

ブリテン 戦争レクイエム/ペンデレツキ ヒロシマの犠牲者に捧げる哀歌/ベルク バイオリン協奏曲

戦争レクイエムが長いので二枚にわたっていて、この3曲で2枚です。戦争レクイエムは1989年に録音された、ケーゲル最後の録音。社会主義の崩壊を前に、ケーゲルはどのような思いでこの曲を演奏したのでしょうか。よく分からなくても感動したとか何とか言いたくなるところですが、やはりよく分かりませんね。実演で一度聴いたことがありますが、編成がやたら大きく、凝っているわりに演奏効果はそれほどではないという印象を受けました。今回も、ほぼ同じ印象です。しかし、鮮烈なサンクトゥスは聴き物です。ペンデレツキは切り裂くような弦が明確なメッセージを持って迫ってくるすばらしい演奏。ベルクは、あまり印象に残らない演奏です。(2001.10.15)

シェーンベルク モーゼとアロン

2枚に収録されています。こういう現代オペラというのはどうも苦手です。そもそも固定した調や様式を否定する現代音楽は、基本的にオペラには向かないと思います。少なくとも、視覚を伴わない録音では、人を引きつけることはできないでしょう。古典派・ロマン派のオペラが、音楽だけで人を引きつけることができる(一部の優れた作品だけだとしても)のとは対照的です。ケーゲルらしい扇情的な演奏だということは分かりますが、聞き流すしかありませんでした。(2001.10.21)

ベルク ヴォツェックからの3つの断片 アダージョ/ウェーベルン 管弦楽のためのパッサカリア 弦楽オーケストラのための5章 オーケストラのための6つの小品 オーケストラのための5つの小品 交響曲op.21

ベルクはすばらしい熱演で、言うことがありません。表現主義の代表者としての彼の音楽性が、見事に示されています。ウェーベルンは、もともと一枚物として発売されていたもので、これもウェーベルンの管弦楽曲の代表的な名盤といっていいでしょう。とくにパッサカリアは、曲の魅力とケーゲルの音楽性がマッチした名演です。独立して発売して欲しい一枚ですね。(2001.10.23)

オルフ カルミナ・ブラーナ

この演奏は、凄いですね。最初はやや抑制気味に始まりますが、だんだん紅潮してきて、最後の方は熱狂状態です。しかも合唱のアンサンブルは完璧で、オケも万全。ソロでは、ソプラノがすばらしい。熱狂しながらも俗っぽくならず、最後まで構成感が持続し、シンフォニックであり続けます。この曲をすばらしいと思ったのは、初めてです。単売もされているはず。おすすめです。(2001.10.23)

ストラヴィンスキー プルチネルラ 交響詩「うぐいすの歌」 ピアノとオーケストラのためのカプリッチョ

聞いたことがあるのはプルチネルラだけですが、これは好演だと思います。シンフォニックに切れ味よく、愉悦も不足していません。他はどうでしょうか。ケーゲルは、古典でも前衛でもないストラヴィンスキーには合わない指揮者なのかもしれませんね。他の比較できないので、何ともいえませんが。(2001.10.25)

シェーンベルク グレの歌

最後の2枚。初めて聴いた曲です。これは「モーゼとアロン」と違って、シェーンベルクがまだ表現主義音楽にとどまっていた時期の作品で、調性感があり、美しいメロディと音響美が魅力です。ケーゲルの指揮も、振幅の大きい訴求力のある表現で聞かせてくれます。ずっと前に買って、聞かずにほったらかしにしておいたアバド盤も聞いてみましたが、ケーゲルの方が上ですね。(2001.11.1)

モーツァルト 大ミサ曲K.427
フリッチャイ指揮 ベルリン放送響/他
(Grammophon 463 612-2)

冒頭のキリエは、映画「アマデウス」でモーツァルトが父の反対を振り切ってコンスタンツェと結婚式を挙げる場面で使われた美しい短調の曲。この曲のイメージが先行しがちですが、全体としては明るい曲です。この演奏、キリエでテンポを大きく揺らす情緒的表現が目立つため、少し心配になったのですが、2曲目以降はスケールの大きい壮麗な演奏で、一安心どころか大満足。とくに、ソプラノのシュターダーが好演です。(2001.10.7)