2001年2月に聴いたCD

カーター ピアノと管弦楽のための協奏曲/管弦楽のための協奏曲/他
ギーレン指揮 SWF響/オッペンス(pf)
(ARTE NOVA 74321 27773 2)

エリオット・カーターは1908年生まれの米国作曲界の長老。私は初めて聞きました。いわゆる「ゲンダイオンガク」を絵に描いたような作品で、ベルク、シェーンベルク、ウェーベルンらをごたまぜにしたような印象が強く、オリジナリティーが感じられません。ただし500円程度で売られていますから、この作曲家のものを一枚ほしいという場合には、重宝だと思います。録音も演奏も、クリアです。(2001.2.3)

ベートーベン 交響曲第9番/他
フリッチャイ指揮 ベルリン・フィル
(DG 463 626-2)

孫弟子さん絶賛の一枚。THE ORIGINALSシリーズで再発されたので買いました。聞くのは今回が初めてです。全体に完成度が高く、すべての表現に必然性を感じさせる名演ですが、とくに第3楽章の充実した表現が魅力です。この楽章、情緒的に歌いまくったり、ひたすら神々しくみせようとする演奏が多いですが、これは正面から堂々勝負といった趣の演奏。ただ、録音のせいもあるかもしれませんが、ベルリン・フィルのキンキンした金属質の弦がやや耳障りです。こういう演奏を聴くと、切れ味と柔らかさを兼ね備えたセル/クリーブランドの弦楽セクションのすばらしさを再確認してしまいますね。(2001.2.4)

コンセルトヘボウの名指揮者たち
ベイヌム、ベーム、ケンペン、モントゥー、セル、コンドラシン指揮 アムステルダム・コンセルトヘボウ管
(PHCP-3476/8)

1950年代から1970年代までのコンセルトヘボウ管の名演奏を集めた3枚組。もちろん私は、セルの指揮によるモーツァルトの交響曲第34番が目当てで買いました。セルとこのオーケストラのよい関係がうかがえる演奏で、まるでクリーブランド管を指揮しているかのように自然な、セルのモーツァルトになっています。ベイヌム、ケンペンは、私にはちょっとピンとこない指揮者ですね。ベームはモーツァルトの交響曲第26番が好演。モントゥーの「未完成」は、あまり印象に残りません。ちょっと驚いたのが、コンドラシンの「英雄」。ダイナミックレンジが大きく、随所に強弱や緩急をつけながらも、全体としてはきわめて自然でスムーズな音楽。この人の演奏では、ソ連時代のショスタコーヴィチをかつてよく聴きましたが、亡命後にこんな名演を残していたのですね。というわけで3枚目のセルとコンドラシンだけが単独で発売されればまちがいなく買いですが、3枚組6000円となると、あまりお勧めはできませんね。(2001.2.7)

バルトーク 管弦楽のための協奏曲/「中国の不思議な役人」組曲/二つの映像
オーマンディ指揮 フィラデルフィア管
(SBK 48263)

「ジョージ・セル談話室」でHさんが絶賛していたので、聴いてみました。確かに、見事な演奏だと思います。絶妙のテンポ設定、鋭く切り込む弦楽、多彩な管楽器。しかし「管弦楽のための協奏曲」には、もう少し骨太で芯のある演奏が似合うような気がします。私には、ちょっと物足りないですね。これに対して表題音楽的な後の二作品は、名演といっていいと思います。(2001.2.15)

モーツァルト 交響曲第39番/ホルン協奏曲KV495/他
ギーレン指揮 SWF響/他
(ARTE NOVA 74321 52247 2)

ARTE NOVAが、都内のショップで安く売られています。500−580円くらいが相場でしょうか。良いものを選べば、すばらしい買い物になります。これはViennese Classicsと題されたシリーズの第1巻で、上の二曲の他にシューベルトのロザムンデの音楽が収録されています。冒頭の39番第1楽章では、アクセントが強く、弦が切り込み、金管が咆哮するピリオドスタイルの演奏に驚きました。ギーレンまでが、やるようになったのですね。ただしホルン協奏曲は通常のスタイル。録音は1987年から94年にわたっていて、この間にギーレンの演奏スタイルが変わったのでしょう。どれも広くすすめられる演奏で、コストパフォーマンスの高い一枚です。(2001.2.18)

モーツァルト ロンドK.382/ピアノ協奏曲K.414&449
キルシュネライト(pf)/ベールマン指揮 バンベルグ響
(ARTE NOVA 74321 72117 2)

ソリストも指揮者も、初めて見る名前です。演奏は堅実に品よくまとまっていますが、「おっ」と思わせる部分も、印象に残る点も、また目立った欠点もありません。過不足のない演奏とでもいいますか。値段は格安。K.382はともかく、協奏曲はいずれもあまり知られていない曲なので、一度聴いてみたいという人は買っても損しないでしょう。(2001.2.19)

モーツァルト ピアノ協奏曲K.491&K.595
カサドシュ(pf)/ミトロプーロス&シューリヒト指揮 ウィーン・フィル
(ORFEO C 536 001 B)

ザルツブルグ音楽祭のライブで、録音は1956年と1961年。いずれも、モノラルです。K.491の方は、冒頭から鋭く、乾いた管弦楽で、この曲のイメージとやや違った感じを抱かせます。全体に生気のない感じが否めません。シューリヒトの個性はK.595に合いそうなのですが、ここでは管弦楽がややモタモタした感じで、精彩を欠きます。モーツァルトの場合、リズムやアクセントがぴったり決まって初めて、悲しみも寂寥感も出てくるのですね。カサドシュのピアノはたいへん美しく、しかもライブのせいか、抑揚の多い表情豊かな演奏になっています。(2001.2.22)

ジョージ・セル コンセルトヘボウ・ライブ
セル指揮 アムステルダム・コンセルトヘボウ管
(Music and Arts CD-291)

どういう素性のCDなのか、よくわかりません。日本のDENONが作ったと書いてあるので、海賊盤ではないようですが、それでは正規盤なのか?? 録音は1964−66年とのことで、曲目は、モーツァルトの交響曲第34番、ワーグナーの「ファウスト」序曲、R.シュトラウスのドン・キホーテ(ソロはフルニエ)、シューマンの交響曲第3番、ドヴォルザークのバイオリン協奏曲。ワーグナー以外はモノラルです。シューマンはややもたつく感じがあり、クリーブランド管とのスタジオ録音の方がだいぶ上ですが、他はそれぞれに好演。モーツァルトはスタジオ録音にない豊かな表情を見せてくれますし、ドン・キホーテは振幅の大きい表現。そしてドヴォルザークはすばらしい名演。セルはヨーロッパでチェロ協奏曲の決定的名盤(フルニエ&ベルリン・フィル)を残しましたが、この演奏もかなりのもの。とくに第2楽章と第3楽章がすばらしいと思います。(2001.2.22)

ブラームス バイオリンソナタ全集
パールマン(vn) アシュケナージ(pf)
(EMI 5 66893 2)

第1番の「雨の歌」は、私にとって想い出深い曲、そして演奏です。大学に入った頃、パールマンによるこの曲のライブ演奏をFMから録音し、すっかりとりこになってしまって、それこそ何十回となく聞きました。そして、当時好きだった女性を初めてコンサートに誘い、何ともいえない幸福感のなかで聞いたのがやはりこの曲でした。その時のカセットテープはもう失われてしまいました。記憶の中の演奏と比べると、この演奏はややルーティーンな感じがします。ただ、美化しているだけかもしれませんが。ちなみにコンサートのバイオリンは、ヴァーツラフ・フデチェック。確か初来日の初コンサートだった彼は、日本人の拍手好きを知らなかったようで、拍手のたびにアンコール曲を弾き、何とその数8曲。最後はピアニストが嫌がって、二人で楽譜を全部抱えて退場していきました。(2001.2.23)

メンデルスゾーン 交響曲第3番「スコティッシュ」/同4番「イタリア」
クレンペラー指揮 フィルハーモニア管
(EMI TRSR-012)

誉れ高い「名盤」なのですが、私にはちょっと……。「スコットランド」に関しては、他の演奏を聴いたことがないのでそもそも批評できないのですが、要するに好みの曲ではないということなのでしょう。「イタリア」は好きな曲ですが、この曲に爽快感や鮮烈さを求める私の好みからは外れた演奏です。クレンペラーについては、今注文中のベートーベン交響曲全集に期待することにしましょう。(2001.2.24)

シューマン 交響曲第2番/同第3番「ライン」
ドホナーニ指揮 クリーブランド管
(DECCA 467 464-2)

以前聞いた、同じ指揮者とオーケストラによるドヴォルザークの交響曲と同じ理由で、期待をもって聞きました。2番の序奏部分での楽器のバランスのよさと、弦に重ね合わされたフルートの美しさに感心。これはオーケストラの力量でしょう。1988年の録音ですから、50年もの間主席を務めたシャープは引退したあとですが、彼の音色が後任の主席フルートであるカーナーにも受け継がれているようです。2番は良い演奏だと思いますが、3番はやや切れ味と緊張感に欠けるきらいがあります。(2001.2.26)

ベートーベン 交響曲第9番
セル指揮 フィルハーモニア管
(three zero TH060)

海賊盤のCD−Rです。放送からとられたものらしく、ところどころに電波ノイズと思われる雑音、テープの痛みによると思われる音の揺れもあります。しかし、鑑賞には十分たえる音質です。録音は1960年代とだけ表示されています。ライブということを考慮しても、セルとしては抑揚やテンポの揺れが大きい演奏で、おそらく60年代の終わりの方でしょう。オーケストラはしばしばアンサンブルの破綻をみせ、とくにティンパニには問題があります。しかし全体としては緊張感あふれる好演で、美しくも悲壮感のある第1楽章と、高揚感のある第4楽章が印象的です。ただし高価な海賊盤(2200−2400円程度)ですから、セルのファン以外にまで強くすすめられるものではありません。(2001.2.28)

ブラームス チェロ・ソナタ第1番&2番/ショパン チェロ・ソナタ/フランク チェロ・ソナタ
デュ・プレ(vc)/バレンボイム(pf)
(EMI 5 74203 2)

デュ・プレのソナタ集。名演揃いの2枚組が、1200円ほどで買えるようになりました。「女流」という色眼鏡で見られるため、この人の演奏は叙情とか詩情といった形容詞を与えられることが多いのですが、私は、骨太で芯の強い音楽を奏でる人だと思います。フルニエよりはカザルスに近く、ロストロポーヴィチより力強い。最近多い、耳障りのいいムード風の演奏とは無縁の演奏です。バレンボイムも、この伴奏に関してはほめておきましょう。(2001.2.28)