ジョージ・セル没後30年記念特別企画
グリーグ 「ペール・ギュント」組曲第1番/ビゼー 「アルルの女」組曲第1番・第2番/ムソルグスキー(ラヴェル編) 組曲「展覧会の絵」・歌劇「ホヴァンシチナ」より前奏曲
(SRCR-2552)
マーラー 交響曲第10番よりアダージョとプルガトリオ/ウォルトン オーケストラのためのパルティータ/ストラヴィンスキー 組曲「火の鳥」
(SRCR-2553)
コダーイ 組曲「ハーリ・ヤーノシュ」/プロコフィエフ 組曲「キージュ中尉」/ボロディン 歌劇「イーゴリ公」よりダッタン人の踊り/リムスキー・コルサコフ スペイン奇想曲/リャードフ 魔法にかけられた湖
(SRCR-2557)
ヒンデミット ウェーバーの主題による交響的変容/ウォルトン ヒンデミットの主題による変奏曲・交響曲第2番
(SRCR-2559)
バーバー ピアノ協奏曲/W.シューマン オルフェウスの歌/プロコフィエフ ピアノ協奏曲第1番
(SRCR-2560)
8月23日に発売された第二弾。私がとりあえず買ったのは、上の5枚です。今回のシリーズは、前回のロッシーニとシュトラウス、今回のマーラー10番やヒンデミット、ウォルトン、バーバーなど、世界初CD化、日本初CD化が目白押しで、ソニークラシカルさんの意欲が評価できる企画でした。その一方では、ドヴォルザークやモーツァルト40番、シューマン、「エロイカ」など、定番もそろえて、広い層にアピールできたのではないでしょうか。贅沢を言えば、ロシア音楽を一枚にまとめて欲しかったんですけどね。ま、仕方ないでしょう。選曲はちょっと渋くなっていますが、この中では、精妙極まりないマーラー10番、多彩な表現のコダーイ/プロコフィエフ、近代オーケストラの到達点を示すヒンデミット/ウォルトンがおすすめです。セルをあまり聞いたことのない人には、まずドヴォルザークの交響曲7番/8番(SRCR-2551)、そしてR.シュトラウス「死と変容」他(SRCR-2554)、プロコフィエフ交響曲第5番/ピアノ協奏曲第3番(SRCR-2558)をおすすめします。好みは分かれるかもしれませんが、私にとって「死と変容」は、セルに本格的にのめり込むきっかけを作った衝撃の演奏でした。(2000.9.1)
シベリウス 交響曲全集
ベルグルンド指揮 ヨーロッパ室内管
(FINLANDIA WPCS-6396/9)
ベルグルンド3回目のシベリウス全集です。アプローチは基本的に2回目の全集と変わりませんが、ヨーロッパ室内管の精緻なアンサンブルを生かしながら、より明晰で透徹した演奏になっています。そのかわり、民族臭のようなものは消えていて、この点が好みの分かれるところかもしれません。曲の性格から言って、前半3曲は2回目の全集の方が良く、後半4曲は今回の方が良い、と感じる人が多いのではないかと思います。(2000.9.2)
エルガー 交響曲第1番・2番/「威風堂々」全5曲/他
プレヴィン指揮 ロンドン響/ロイヤル・フィル
(PHILIPS 454 250-2)
エルガーの交響曲はこの二曲だけ。いずれも、初めて聴きました。いかにも「威風堂々」の作曲家らしく、なかなかカッコイイですね。品のいい叙情とロマンもあって、とても気に入りました。なぜか思い出したのは、映画「バックドラフト」の音楽。あの「料理の鉄人」の冒頭と試食前のメニュー紹介の時に流れる曲です。カッコよくて、品のいい叙情がある、という意味が分かっていただけるでしょうか。オーケストラの響きも上品で、いいですね。「威風堂々」も好演です。(2000.9.3)
チャイコフスキー 交響曲第5番
セル指揮 クリーブランド管
(LP:ODYSSEY Y30670)
あまり知られてはいませんが、この曲の演奏としても、セル/クリーブランド管の演奏としても屈指の名演だと思います。完璧なアンサンブルが強靱にしかもしなやかに疾走していきます。残念ながら、現在入手できる国内版のCD(SRCR 9867)は、霞がかかったような音質でこの演奏の切れ味が十分に味わえません。手軽なので私も、ふだんはCDで聴くのですが。なお、どうでも良いことですが(知らない方が良いかもしれませんが)、第4楽章の7分45秒、珍しいことに木管が派手なリードミスをやります。また10分45秒には楽譜にないシンバルの一撃が入ります。このシンバルの件については、YUNGさんのページのGEORGE SZELLのコーナーをご覧下さい。(2000.9.3)
チャイコフスキー 交響曲第5番/バイオリン協奏曲/他
セル指揮 クリーブランド管/シッパース指揮 ニューヨーク・フィル/フランチェスカッティ(vn)/他
(SB2K 63281)
二枚組のチャイコフスキー名曲集。交響曲は上の国内盤と同じ録音なのですが、音質が良いのではないかと期待して買いました。確かに音は違うのですが、良いというわけではないようです。ま、フランチェスカッティの協奏曲は欲しかったので、良しとしましょう。二枚目は、オーマンディー/フィラデルフィアによる管弦楽曲集。オーマンディーらしい華麗かつ空疎な演奏です。(2000.9.6)
スメタナ 交響詩「わが祖国」/他
クーベリック指揮 ボストン響・バイエルン放送響/他
(GRAMMOPHON 459 418-2)
二枚組で、1枚目に「わが祖国」、2枚目に管弦楽曲が8曲入っています。ドイツ製の外盤ですが、「わが祖国」の曲名はすべてチェコ語になっています。ですから、「モルダウ」ではなく、「ブルタヴァ」ということになります。よく知られているように、この曲はオーストリア支配下で書かれた愛国の曲です。モルダウはドイツ名で、しかもエルベ川の一部としての呼び名ですから、この曲を「モルダウ」と呼ぶのは、作曲者に対する、そしてチェコ国民に対する侮辱以外の何ものでもありません。日本でも「モルダウ」という呼び方はやめるべきだと思います。と言っても、「ブルタヴァ」ではほとんど通じないのがつらいところですが。演奏は適度のまとまりと適度の熱っぽさがあっていいと思いますが、どうもボストン響が良くありません。バイエルンを振った管弦楽曲の方が、演奏としてはずっと充実しているようです。(2000.9.6)
F.メンデルスゾーン ピアノ三重奏曲/他
ケルン・クレメンティ・トリオ
(Largo 5103)
ファニー・メンデルスゾーンは、メンデルスゾーンの姉。1805年生まれですから、弟より4歳年上ということになります。しかしこの弟、とんでもなくけしからん奴で、「女は作曲なんかするもんじゃない」とばかりに露骨に姉の作曲活動を妨害し、姉の作品の出版を邪魔したり、姉の作品を自分の名前で出版したりしています。この作品、op.11という作品番号が付いていますが、初演は死の年の1947年。しかし、作曲はもっと早い時期にされていたはず。曲想は弟の作った永遠の名曲、ピアノ三重奏曲第1番によく似ています。弟は発想のかなりの部分を姉に負っていたのでしょう。この曲、作品としての充実度もさることながら、女性が作曲から排除されていた時代の記録という意味でも、もっと演奏されて良いのではないでしょうか。(2000.9.8)
チャイコフスキー 交響曲第4番/5番/6番/他
バルビローリ指揮 ハレ管/他
(DISKY HR704032)
これは安い。3枚組1500円ほどで売られています。演奏は、いかにもバルビローリらしい、旋律美にあふれたロマンティックなものです。曲の性格からいって、4番はやはりバルビローリに合わなかった気がしますが、他は好演。余白に入れられたセレナーデ、アンダンテ・カンタービレも良い演奏です。値段からいって、大変お得です。(2000.8.9)
シューベルト 歌劇「アルフォンソとエストレラ」
スウィトナー指揮 ベルリン・シュターツカペレ・ベルリン放送cho./他
(BC 2156-2)
シューベルトの珍しい歌劇。「未完成」「美しき水車屋の娘」とほぼ同じ24−25歳の頃の作品です。外盤なので当然、独原語と英訳だけしか付いていません。めんどくさいので読んでいませんから、ストーリーなどはよくわかりませんが(笑)、シューベルトらしい美しいメロディが次々に現れるだけではなく、シューベルトとしてはオーケストレーションも充実していて、大変いい曲だと思います。しかも歌手陣は、プライ、マティス、アダム、フィッシャー=ディースカウ、シュライヤーが勢揃いという超豪華メンバーで、演奏はとても充実しています。中古屋で1000円ほどで買ったのですが、これは掘り出し物でした。(2000.9.10)
武満徹の音楽
最近、原稿の締切に追われています。こんな時、私が聴くのは武満徹の音楽。清澄で美しく、仕事の邪魔にならないばかりか、適度の精神的緊張を与えてくれて、原稿が進みます。というわけでしばらくの間、武満徹のCDをご紹介しましょう。
波の盆/嵐が丘
岩城宏之/池辺晋一郎指揮 東京コンサーツ(オリジナル・サウンドトラック)
(WWCC 7112)
乱/東京裁判/予言
岩城宏之指揮 札幌交響楽団/他(オリジナル・サウンドトラック)
(K33Y 148)
武満徹『自選』映画音楽集
アダムズ指揮 ロンドン・シンフォニエッタ/他(オリジナル・サウンドトラック7曲を含む)
(WPCS 5090)
まずは映画音楽を3枚。「波の盆・嵐が丘」のジャケット絵は、武満徹自身の描いた作品で、新宿の居酒屋「火の車」に所蔵されているもの。映画とは関係ないはずですが、まるで図形譜のようにこの音楽にふさわしい気がします。「波の盆」のために彼は15曲も作曲しているのですね。叙情的な主題が変形されながら繰返し現れます。次は「乱」。ジャケット絵は映画のシーンをもとに合成されたもの。ライナーノーツはなく、二つ折りの栞を開くと、いかにも黒沢らしい、美しい戦闘シーンの写真。「東京裁判」「予言」は、彼の映画音楽の中でも傑作に属すると思います。3枚目は10曲集めたアンソロジー。ジャケットは「他人の顔」でしょう。その他にも、「砂の女」「どですかでん」「黒い雨」「利休」といった代表作が収められています。まず一枚、という方には、これがおすすめです。(2000.9.15)
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鳥は星形の庭に降りる/夢の時/スター・アイル/オリオンとプレアデス
尾高忠明指揮 ウェールズBBCナショナル管/他
(BIS CD-760)
カトレーン/鳥は星形の庭に降りる/スタンザ第1番/サクリファイス/リング/ヴァレリア
小澤征爾指揮 ボストン響/他
(F28G 50500)
夢の時/ノスタルジア/虹に向かって、パルマ/遠い呼び声の彼方へ/鳥は星形の庭に降りる
岩城宏之指揮 メルボルン交響楽団
(BVCC-634)
武満中期の管弦楽曲の代表作の1つ、「鳥は星形の庭に降りる(A Flock Descends into the Pentagonal Garden)」を収めた作品集を3つ。もう一つ、外山雄三盤があるはずですが、私は持っていません。とても幻想的な題名ですが、これは武満がある日見た夢に由来するとのこと。尾高盤には、そのイメージが描かれています。見てわかるように、星形といっても、ここでいうのは正五角形。曲の基本はF♯を中心に等距離に置かれた5つの音列で、ここに鳥を表わすオーボエが絡まるという構成になっています。尾高盤はおとなしすぎるし、小澤盤は世界に受けを狙った作為が感じられる。演奏からいっても、また70年代後半から80年代にかけての代表作が集められているという点でも、おすすめは岩城盤です。(00.9.24)
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武満徹/MUSING ZONEV
藤井一興(pf)
(FONTEC FOCD3109)
武満徹ピアノ作品集
ウッドワード(pf)
(ETCETERA KTC1103)
PETER SERKIN PLAYS THE MUSIC OF TORU TAKEMITSU
P.ゼルキン(pf)
(RCA 09026-68595-2)
武満徹のピアノ作品を収めたCDにはかなりの種類がありますが、私が愛聴しているのはこの3枚。曲は共通の部分が多く、リタニ、遮られない休息、ピアノ・ディスタンス、フォー・アウェイ、雨の樹素描、閉じた眼T&Uの7曲は、3枚ともに収められています。ではどこが違うかというと、藤井盤にはハープシコードによる「夢見る雨」、ウッドワード盤にはコロナ/クロッシング、ゼルキン盤には雨の樹素描Uが収められている、ただそれだけです。藤井盤はやや素っ気ない感じもしますが、やはりスタンダードといっていいでしょう。ウッドワード盤は、遅めのテンポの濃密な音世界。図形譜で書かれたコロナ/クロッシングの演奏は貴重です。ゼルキンは明晰なアプローチで、和音/不協和音がドイツ−オーストリア音楽的に響きます。武満初心者には藤井盤、多少は聴いたことがあるという人にはウッドワード盤をお勧めしましょう。
私にとってもっとも愛着のある曲は、リタニです。これは初め1950年に作曲・初演されていますが、その後楽譜が失われ、1989年に再作曲されたもの。冒頭の3小節だけ、楽譜を示しておきます。私でも、この程度なら弾けます。たったこれだけですが、まさにタケミツ・トーン。試してみてください。(2000.9.28)
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