1999年12月に読んだ本

福島瑞穂・金子雅臣・中下裕子・池田理知子・鈴木まり子,セクシュアル・ハラスメント(新版),有斐閣,1998,1700円

改正均等法や最近の判例までカバーした新版で、セクシュアル・ハラスメントについて学ぶための最良の手引きでしょう。セクシュアル・ハラスメントの告発と被害者救済への強い問題意識に支えられていることが、論旨の明晰さにつながっています。ただし、スクール・セクシュアル・ハラスメントへの言及が少ないですね。これは他の多くの本にも共通のことですが。(12月1日読了)

奥山明良,職場のセクシュアル・ハラスメント,有斐閣,1999,1800円

労働省や人事院のガイドラインづくりで活躍した法律学者による解説書。セクシュアル・ハラスメントの法律面を平易かつ包括的に解説しています。その意味で役に立つのですが、やはり法律家らしいというか、どこまでセクシュアル・ハラスメントに含めるかという判断について慎重に過ぎる部分がみうけられます。この問題には、人権擁護のための大胆な法解釈や、法改正まで視野に入れた議論が必要だと思うのですが。(12月2日読了)

吉松隆編,究極のCD200・クラシックの自由時間,立風書房,1995,1400円

よくある名曲名盤解説の本なのですが、全体を7つの部分に分け、それぞれ違った基準で曲とCDを選定しているので、普通の本では落ちてしまいがちな個性的な名曲・名盤を多くフォローしている点がいいと思います。CD解説より曲の解説に重点を置いている点も特徴で、けっこう勉強にもなります。初心者から脱しつつある人におすすめできます。しかしカラヤンの出番の多いのが、気に入りませんねぇ(笑)。(12月3日読了)

広瀬隆,アメリカの経済支配者たち,集英社,1999,700円

新しく出た「集英社新書」の一冊。著者お得意のテーマで、例によって親族・姻戚関係を軸に米国の財閥たちのネットワークと、莫大な資産と強大な権力の仕組みが暴かれていきます。二つ、不満があります。膨大な資料を駆使して数多くの事実を暴いているのは分かりますが、全体に散漫で、「財閥たちは網の目のように結びついている」という以上の事が分かりません。つまり、中核的な構造が解明されていないのです。第2に、支配階級の統合性を親族関係・姻戚関係によって説明するのは安易です。この点は、かつてのミリバンド−プーランツァス論争にも関わる、国家−階級分析の重要問題です。(12月16日読了)

宮城谷昌光,クラシック千夜一曲,集英社,1999,680円

これも、「集英社新書」の一冊です。10曲を取り上げて、曲の内容、作曲家・演奏家とその周辺について、自分の想い出も交えて易しい口調で語っています。大部分は親しみやすい超名曲なのですが、最後におかれているのは何と、ミヨーの「プロヴァンス組曲」です。ま、たしかにいい曲ですけどね。著者は、「魂がふるえるような曲を聴けば、----この曲が小説にならないか。と考え続ける」そうです。私も、名曲のような論文が書きたいものです。「主人公」のまわりに脇役を配置した近代小説が、協奏曲と類似しているという指摘は面白いですね。私の大好きな指揮者、ジョージ・セルが正当に評価されている点はたいへんうれしいのですが、揚げ足取りを一つ。指揮者チェリビダッケについて、「実は来日したこともあり、1986年10月に....」とありますが、実際には彼は7回来日しており、最後に来日したのは死の3年前の1993年です。(12月17日読了)

加藤尚武,現代倫理学入門,講談社,1997,760円

最近、倫理学にちょっと関心を持っています。私はこれまで階級論を主要な専門にしてきたわけですが、これを突き詰めていくと、「どのような階級構造が望ましいのか」という問題にぶちあたらざるを得ません。この本は、すばらしい入門的解説だと思います。これから分析的マルクス主義の倫理学を勉強しようと思っているのですが、そのための基礎知識を得ることが出来ました。倫理学という学問にかび臭いイメージを持つ人にお勧めです。イメージが一新することでしょう。(12月25日読了)

吉崎祥司,リベラリズム,青木書店,1998,2200円

上の本と並行して読みました。現代倫理学の展開をふまえた現代リベラリズムとマルクス主義の関連を追及した意欲作です。「マルクス主義を含め社会主義の諸思想は、その本領であるはずの平等の問題について生彩ある理論的提起を必ずしもおこなってこなかった」(P.217)という問題提起には、重いものがあります。ただし著者自身、「社会主義」の意味内容を確定できていませんね。しかし、とても勉強になりました。(12月26日読了)