2001年3月に読んだ本

松原惇子,女が家を買うとき,文藝春秋,1990年,360円.

一時期評判になったエッセイ。確か著者の出世作ですね。30代後半を迎えた独身女性の、不安と焦燥と自由と気楽さがベースですが、そこに「独身女性がマンションを買う」という、当時としては少数派だった決断を織り込んだところがミソ。今ではごく普通のことですが。しかし、生活不安定で収入も少ないのに、どうして渋谷区にこだわるんでしょうね。結局は、ただのブランド志向でしょ。マンションを買おうとする独身女性は、これからも増えるでしょう。これらの人々がブランド志向から解放され、城東・城北地区のような安くて便利な地域に目を向ければ、東京の住宅事情も変わってくると思いますよ。(2001.3.1)

週刊ダイヤモンド編集部,就職に勝つ!(2002年度版),新潮社,2000年,448円.

週刊ダイヤモンドの特集号を文庫化したもの。就職活動を始めようとする大学3年生向けの本ですが、小手先の技術を扱ったマニュアル本ではなく、現代日本の産業構造の解説と、人事担当者による大学ランキングが中心です。これを読むと、大学名による差別が依然として健在であることがよくわかります。人事担当者が重視するポイントの上位には積極性、業務への適性、個性など、あたりまえのものが並んでいて、大学名は14位。しかし、大学名を「重視していない」と明言したのはわずか30.1%。記述回答でも「基礎学力をみることができる」といった声が目立ち、採用の決め手にはならないとしても足切りに使われていること、統計的差別が存在することをうかがえます。しかし東京大学文系は、人事担当者の評価も実績も、がた落ちのようですね。(2001.3.1)

雁屋哲/花咲アキラ,美味しんぼ79・試練の鯛料理,小学館,2001年,505円.

もう79巻。今回はこれといった内容がなく、ハズレといっていいでしょう。まあ、収穫といっていいのは、これまで勘でやるしかないと思っていたうどん打ちで、水と食塩の分量をはっきり書いてあったこと(p.146)、美味そうな鯛料理が紹介されていたこと(第7話「試練の鯛料理」)くらいでしょうか。鯛料理は、魚丸ごとの料理全般に応用できそうです。(2001.3.3)

自家醸造の本

最近、研究してないんじゃないの? はい、その通りです。2月に大仕事をひとつ終えて、今は休養期間中。大学の校務はもちろんこなしていますが、その他は趣味の本を読んだり、音楽を聴いたり、酒を飲んだりの毎日です。自家醸造も、久しぶりに再開しました。自家醸造関係の本をまとめて再読したので、ご紹介しましょう。(2001.3.9)

笹野好太郎,趣味の酒つくり──ドブロクを作ろう実践編,農山漁村文化協会,1982年,1000円.

自家醸造については前田俊彦さんの「ドブロクをつくろう」ついう名著がありますが、これはドブロクの歴史や自家醸造禁止の歴史、自家醸造の思想については詳しいものの、実際に造る時のノウハウ本としてはあまり役に立ちません。この本は題名の通り、「ドブロクをつくろう」を受け継ぎながら、実際にどぶろく、ワイン、ビールなどの造り方を解説したもの。古い本だけに、麦芽は自分で製麦するのが前提になっていたり、非現実的なところが多いのですが、自家醸造の歴史・思想・実際をあますところなく詰め込んだ名著であることにかわりはありません。

山田陽一,台所でつくるシャンパン風ドブロク,農山漁村文化協会,1991年,1267円.

ドブロク造りの工程を徹底的に簡略化し、しかも家庭の普通の道具で造れるようにスケール・ダウンして、誰でも自分の家で造れるようにした画期的なレシピを中心に、ワイン・ビール作りまで解説した入門書。ドブロクをつくりたい人は、必携です。これで基本の造り方をマスターしておけば、いろんな酒造りに無理なく入っていけるでしょう。

貝原浩,世界手づくり酒宝典,農山漁村文化協会,1998年,1333円.

雑誌『現代農業』に連載された記事の単行本化。著者が日本中、そして世界中の人々を訪ね歩いて、酒の造り方と楽しみ方を絵と文章で記録した、とても楽しい本です。ドブロクとそのさまざまなバリエーションが出てきますが、造り方の概略がわかりやすく書いてあるので、上の本で基本の造り方をマスターした人なら、容易に再現できるでしょう。

平手龍太郎他,手づくりビール事始,雄鶏社,1992年,1262円.

ビール作りについての包括的な解説書。世界と日本のビールの歴史、酒税法の作られた経緯などから説きおこし、中級クラスのノウハウまでを解説しています。優れた本だと思います。ただしやはり現時点では記述が古く、特定の会社の輸入した「ビールの素」キット缶(当時、国内ではこれしか入手できなかった)の使用を前提とした記述になっています。

フレッド・エクハード/クリスティン・ローズ,世界ビール大百科,大修館書店,1997年,4800円.

ビールに関するありとあらゆる知識のつまった事典。自家醸造の記述も豊富で、ホップや麦芽の種類、使い方などについて調べるときに愛用しています。世界中のビールについての知識も満載。安くはありませんが、ハードカバー564ページですから、むしろコストパフォーマンスの高い本だと思います。ビール好きなら、ぜひ一冊。

Charlie Papazian,The New Complete Joy of Home Brewing,AVON BOOKS,1991,12 US$.

日本は自家醸造後進国ですから、本格的なビール作りの知識を得ようと思ったら、英語の本を読むしかありません。この本はビール作りのバイブルとまでいわれている本で、著者は米国自家醸造協会の会長。読みやすく、絵や写真も多く、取っつきやすい本です。これ一冊で、市販されているようなビールのキット缶を使ったビール作りから、麦芽を挽いて糖化させる本格的なビール作りまで、ひととおりの知識を得ることができます。ただし、掲載されているビールのレシピが、やや特殊なのが難点。

Dave Miller,Brewing the World's Great Beers,Storey Publishing,1992,14.95 US$.

著者のMillerには、The Complete Handbook of Home Brewingという名著がありますが、これは本の性格が上のPapazianの本とやや重なるので、別の本を紹介しました。この本も初歩からセミプロ級までのビール作りを解説しているのですが、解説部分はあくまでも簡明なマニュアルに徹し、さまざまなビールのレシピに多くのスペースを割いています。ビール作りのひととおりの知識を身につけた人には、有用な本です。レシピもそれぞれのスタイルのビールの典型と言って良いものがそろっています。

The Incomplete Handbook of Homebrewing.

日本の自家醸造家たちがまとめた自家醸造の入門パンフレット。インターネット上で、PDFファイルが公開されています。キット缶だけでビールを造る経験をした人を対象に、より進んだ造り方をわかりやすく解説していて、自家醸造を始めたころ、何度も精読しました。無料で入手できますから、まずはこれを読んでみてもいいかもしれません。ここからダウンロードできます。


稲葉陽二,「中流」が消えるアメリカ,日本経済新聞社,1996年,1456円.

最近存在を知って読んだ本なのですが、大変いい本だと思います。米国での所得格差の拡大の実態とその社会的背景、これがもたらす問題などをわかりやすく解説し、こうした傾向が今後日本でも起こるだろうと論じています。著者の現状認識の的確さと先見性には感心します。これは、もっと読まれるべき本ですね。日本について、こういう本が書けるといいのですが。(2001.3.16)

下田徹,板前修業,集英社,2001年,680円.

銀座で料理店を営む著者が、口語体で読者を料理人の世界や市場へと案内し、さらに料理法の要点まで説明するという本。冒頭部分で、まず驚かせてくれます。料理人の世界には相撲と同じような「部屋」というものがあり、料理人たちは部屋からの指示であちこちの店を渡り歩きながら、腕を磨くとともに格も上がっていくのだとか。この世には、知らない世界があるものですね。料理法の解説も、魚の捌き方、串の打ち方、合わせ酢の作り方など、簡にして要。もっとも、絵が少ないので、料理の経験のない人にはわかりにくいかもしれませんが。料理店のカウンターでの気さくな会話を思わせる文体には好感が持てるのですが、ときどきセクハラまがいの親父ギャグが飛び出すのには閉口します。(2001.3.23)

猪瀬直樹・山口昌男,ミカドと世紀末,小学館,1998年,600円.

二人の対談を11編収めたもの。単行本で出たあと、新潮文庫に入っていましたが、新たにダイアナ妃の死を契機に組まれた対談を収録して、小学館文庫に収められました。猪瀬直樹の『ミカドの肖像』は、戦後最高のノンフィクションのひとつだと思いますが、この対談ではこの書と山口理論の関係について触れられていて、興味深く読みました。最後の対談では、天皇家がかつて、学問・芸能の最高の権威だったという点に触れながら、西欧諸国の外交ノウハウに対抗するため、これからの日本は京都的なノウハウを大切にしなければ、という話が出てきます。天皇一族も、短歌でも作っている分には芸術家でいられますが、下手に西洋音楽やら科学やらに手を出すと、とたんに馬脚を現わします。その証拠に、皇太子のビオラの下手なこと。要するに天皇一族、そして天皇的な人々というのは、優劣のはっきりする世界では生きていけない人々なのでしょう。それはもちろん、日本人全体にあり方にも関わる問題です。(2001.3.30)