ブレイヴァマン,労働と独占資本,岩波書店,1978年,2800円.
これは今や、階級研究・労働研究の古典となった名著。『資本論』第1巻の労働過程分析を範例としながら、これを現代的に発展させ、「構想と実行の分離」によって構想から切り離され、単純化され「退化」した労働のあり方を鋭く告発するとともに、技術革新によって工場労働が知識労働化するとか、事務労働は知的な労働だと前提するなどといった、研究者たちの誤りを容赦なく暴き出します。現時点でみると、技術革新によって労働力の節約が進み、単純労働が減少する側面を軽視しているのではないかという疑問もありますが、今日でもたえずふり返るべき、階級・労働研究のひとつの到達点です。(2000.9.1)
朝日新聞社編,カイシャ大国(戦後50年 3),朝日新聞社,1995年,580円.
戦後50年記念の連載記事を元にまとめられたもの。企業中心社会の成立と発展、そして変質までの流れを軸に、男女格差や社宅、企業犯罪、公害問題など、さまざまなトピックで戦後「会社史」を描いていきます。読みやすいし、事実も豊富。本にするにあたって追加された用語解説「もっとくわしく知るために」が、とてもよくできています。(2000.9.5)
さいとうたかを,ゴルゴ13・118巻「未明の標的」,リイド社,2000年,524円.
ゴルゴ13は、いま何歳になっているのでしょうか。デビューから40年、おそらくは60歳を過ぎた今も派手にアクションを繰り広げ、標的を確実にしとめていく姿には頭が下がります。もう、118巻ですよ。この漫画、「卓越した能力があれば、個人の力で世界情勢を変えられる」というメッセージを送り続けて、日本の左翼と右翼に大きな影響を与えたと私はにらんでいるのですが。今回はレニ・リーフェンシュタールがモデルとおぼしき老女監督が登場したり、クルドゲリラやチェチェン独立勢力が登場したり、いろいろやってくれます。現代史や世界情勢に合わせてこんなパラレルワールドを作る作業は、とても楽しいでしょうね。そういえばリーフェンシュタール、まだ死んだという話を聞きませんが……(2000.9.6)
小田嶋隆,人はなぜ学歴にこだわるのか,メディアワークス,2000年,1500円.
小田嶋隆という人は、私のもっとも好きなコラムニストです。その毒舌と卓抜な発想。とくに、ASAHIパソコンに載ったディズニー論が忘れられません。これは、彼にとって初めての書き下ろしだそうです。学歴をめぐる日本人(サラリーマン、親たち、学生たち、政治家たち、その他)の屈折した心理を描いて、余すところがありません。しかも「クラスは階級の卵である」という言葉にも現れているように、日本の階級構造に関する彼自身の鋭い洞察が基本にあって、共感するところ大です。今度書く論文には、必ず引用しましょう。(2000.9.24)
連合女性局編,女性の労働・生活時間,労研出版,1995年,2000円.
連合女性局が、フルタイムで働く女性組合員1万人を対象に行った調査の結果をまとめたもの。ハードカバーのちゃんとした製本ですが、上にかかっているカバーのデザインがこれ以上ないほどダサく、破って捨てたくなります。内容は、典型的な調査報告書で、単行本としての魅力に欠けます。そんなわけで、読む意欲をかき立てられるような本ではないのですが、いくつかの注目すべき知見は含まれています。たとえばフルタイムで働く女性では、年齢が上がるほど男女平等意識が高まること、とくに親と同居する若い女性は伝統的な性役割分業を肯定する傾向が強いことなど。女性の労働や生活時間に関心のある人は、手にとって損はないでしょう。(2000.9.28)