2003年2月に読んだ本

北陸酒紀行,橋本確文堂,2002年,1000円.

富山に本社のある北陸電力が企画し、各市町村の協力によって作られた、北陸三県の日本酒ガイドです。日本酒の歴史と製法、特徴などをひととおり解説した上で、北陸三県の酒蔵をすべて紹介しています。菊姫や天狗舞のような有名酒だけではなく、ひとつ残らず収録していますから、資料的な価値は高いですね。北陸地方が全国的にみても日本酒の消費量が多く、また精米率や純米酒の比率などからみて高級志向が強いことがデータを元に示されていて、北陸出身者としてはますます地元の酒に親しみを感じさせる1冊でした。日本酒ファンは、ぜひ手にとってほしいですね。(2003.2.4)

斎藤美奈子,戦下のレシピ,岩波書店,2002年,760円.

斎藤美奈子さん、やってくれますね。戦時中の婦人雑誌に掲載されたレシピを元に、戦時下の家庭料理を再現してみせるという卓抜な発想に脱帽です。しかもその前史として、高等女学校卒業者を中心に家庭料理が洋風化し、手の込んだものになっていく過程をあらかじめ描いておくなど、ひとつの近代日本家族史になっていることも注目に値します。こんな力作を次から次へと送り出す力量には感服します。学者にはとても太刀打ちできません。(2003.2.5)

水野邦昭,フランス料理のオードブル,新潮社,1988年,560円.

私は酒呑みなので、オードブルの類が大好きです。日本料理とイタリア料理に関しては、多少のものが作れると思っているのですが、今度はフランス料理に挑戦したいな、というわけです。特徴的なのは、やはり生クリームを使うこと、パイ皮が出てくること、そしてテリーヌの存在、でしょうか。いずれもちょっとやっかいそうです。さて、手を出そうか出すまいか(笑)。(2003.2.9)

石弘光,大学はどこへ行く,講談社,2002年,660円.

審議会の常連にして一橋大学学長、「御用学者」の代表格ともいうべき著者ですから、あまり多くは期待していませんでしたが、これはちょっとひどすぎませんか。前半部分はまあいいでしょう。大学が置かれている厳しい環境と、改革の課題を初歩的な理解ながらいちおうはまとめています。しかし後半は、一橋大学のキャンパスにゴミがたくさん落ちてるとか、清掃のボランティアを募ったのに学生があまり来なかったとか、壁にビラを貼るのが気に入らないとか、学内に同僚と酒を飲める場所が欲しいとか、大学教授に秘書がつかないのはけしからんとか、一橋大学の内部問題と特権意識丸出しの記述に終始しています。一橋大学といえば、今直面している最大の問題はセクハラでしょう。しかしこれについては「セクハラと並んでキャンパス建物の美化」が課題だと、話の枕にしか出てきません。他大学の事情についても無理解が目立ちます。私学では業績が給料に響き、「何か賞などもらったら、給料は当然あがる」と書かれていますが、根拠は? 5大学連合について「東京芸大は学内事情により」参加しなかったと書かれていますが、認識が間違っていませんか。数ある「大学改革もの」のなかでも最低のもののひとつ。こんな本を新書で出す講談社の見識も問われます。(2003.2.19)

丸山文裕,私立大学の経営と教育,東信堂,2002年,3600円.

こちらはいい加減なおしゃべりではなく、地道な研究書です。テーマは多様ですが、学費・奨学金制度と進学者の動向、大学教育の個人/社会に対する効果の二つあたりが中心といっていいでしょう。後者については、曲がりなりにも高等教育論を勉強したことのある私にはさほど新味はありませんでしたが、前者については私立大学に住む人間としていろいろと示唆されるところがありました。終章の最初の部分にある「18歳人口の減少が、大学経営を困難にさせているが、人口増は大学関係者には操作不可能である。しかし進学率は大学の努力で、簡単ではないが上昇させることが可能である」という一言(お世辞にも名文とはいえませんが)は、今日の日本の大学関係者すべてが肝に銘ずべきことでしょう。もっとも、進学率の上昇が社会的に好ましいかどうかは、別に議論が必要ですが。(2003.2.24)