■ 仕掛人藤枝梅安 (殺しの四人) ■

 「おんなごろし」


「わしが、ここへ来るときの用事は、きまっていますよ、梅安さん。」
「ふむ……」
「人ひとり、また殺っておもらい申したいのでね。」
「ふむ……」

 鍼医者の藤枝梅安は裏にまわれば金で人を殺す仕掛人である。
 梅安は赤大黒の市兵衛から万七の後妻おみのを殺す依頼を受ける。
 3年前、梅安は羽沢の嘉兵衛に依頼され、万七の女房おみのを殺しており、 その依頼人が、現在の女房おみのであったことを知る。
 梅安はおみのが生き別れた自分の妹であると知りつつ、仕掛を行なうのであった。


 「殺しの四人」


「仕掛人で、長生きをしたやつがいただろうかね?」
「先ず、いめえね」
「そうだろうな……」

 仕掛を終え、熱海の湯に来た梅安は、浪人井上半十郎にその姿を発見される。
 井上の妻るいをうそをついたのが許せず針でその命を奪ったのが、梅安が人を殺す仕掛人となる始まりであった。
 現在は仕掛人となっている井上は恨みをはらすため梅安を襲撃するが、梅安は仕掛人彦次郎と協力し、井上を返り討ちにするのであった。


 「秋風二人旅」


「おれたちは、なんのために、お伊勢詣りをするのだろうね?」
「他人の血で汚れきっている私たちの手を、いまさら伊勢大神宮の水で洗い清めたところで、どうなるものでもないが……」

 梅安と彦次郎が伊勢参りから京に向かう途中、彦次郎は自分の女房と子供を殺した侍を見かける。
 しかし、梅安はその侍の物腰にそんなことをするように見えないと疑問を抱く。
 京に入った梅安たちは、その侍が白子屋菊右衛門と会っているのを見届ける。
 昔、白子屋の仕掛をしたこともある梅安は、彦次郎の女房たちを殺したのはその侍の弟であるのを知る。
 侍は自分の弟の殺しの依頼を頼みに来たのだった。


 「後は知らない」


「彦さん。ここはね、田楽の元祖だというよ」
「へへえ……梅安さんは、何でも知っていなさるねえ」

 梅安は江戸に戻る前に、白子屋菊右衛門に金子又蔵という侍を仕掛けるよう頼まれる。
 金子又蔵は15,6の少年と2人で潜み隠れており、病をわずらっているらしい。
 医者に化けた梅安が診察をしたところ、金子又蔵は不治の病にかかっており梅安の前で死んでしまう。
 京を出発した梅安はその途中で偶然、金子又蔵たち2人が追われている真の理由を知るのであった。


 「梅安晦日蕎麦」


「相手は、殺ってもいいような奴なのでしょうね?」
「いうまでもねえことだ。おれがすることだよ」
「ですが、これは仕掛人の念押しというものでござんすからね」

 江戸に戻ってきた梅安と彦次郎はしばらくは表の稼業でのんびり暮らすつもりだったが、 彦次郎は田中屋久兵衛から毛むくじゃらの大男の浪人を仕掛けるように頼まれる。
 一方、梅安は常在寺にかくまわれているやせ衰えた娘を診察する。
 その帰り際に梅安をつけてきたのは彦次郎が仕掛けようとしている大男の浪人であった。


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