影は夜の野を歩いていた。
満月も出ている。
すすきの生える何とも風流のある野原だ。
「へへへ・・・あの男たんまり持ってたなぁ。」
「おお、こいつでしばらく遊んで暮らせるってもんだ。」
五人の浪人たちも野を歩いている。
先刻夜道を歩くどこぞの商人を刀で脅した。
今、浪人たちの懐は金で暖まっている。
何も知らない浪人たちはいつの間にか野を歩く影に近づいてしまっていた。
「・・・?」
「なぁ、あっちに誰かいるぜ。」
「本当だ。いったいこんな時間に何してんだ?」
この月明かりの中でも、だいぶ近づいてはじめて人だと解った。
始め、五人は木だと思ったのだ。
「・・・おい、あれって・・・」
一人はすでに気付いた。
影は何かを背負っている・・・
その形はまさしく剣であった・・・
「なんだあいつ!あんなでかい物もって歩いているってのか!?」
見ただけで身長の一倍半はある物だ。
「へへぇ、あんちゃんにいいもんもってんなぁ。」
二人が刀を抜き遊び半分に言ってみた。
それを聞いて影は柄にゆっくりと手を伸ばす・・・
「なんだ!?やろうってのか!!」
残りの三人の浪人が素早く刀を抜くき、間合いをつめる。
しかし次の瞬間に三人の姿は消える・・・
どしゃっ
三つの塊が地面に落ち、もう三つの塊は倒れる。
「「!?」」
残りの二人は何が起きたのか解らない。
だが影が恐怖に満ちた存在であることが次の瞬間に解る。
「ま・・・真っ二つになってる・・・」
三人は上半身と下半身を二つずつに分けられていたのだ。
最初に刀を抜いた二人は影が刀を振ることができないと思っていた。
ただふざけてみただけだった。
「ひぃ!」
一人が逃げていった・・・だが影はそれを追って今度は縦に二つに分ける。
「あ・・ぁ・・・ああぁ・・・・・・」
最後の一人は腰を抜かしてへたり込んだ。
影はゆっくりと男を見る。
男はぎらりと光る赤い目を見た・・・
武神狩り
第二話 「紅」
悠玄の家は夜の竹林の中で激しく燃えていた。
悠玄はすでに七人の忍者を戦闘不能の状態にしていた。
残りは三人・・・
だが悠玄はもう一人だけ竹林の中に潜む者がいると気付いていた。
「ふん、そろそろ出てきてもいいだろう・・・」
林に向かって言う。
「・・・」
無言で一人の忍者が出てくる。
悠玄は予想通りの人物が出てきたことにふっと笑う。
「やはり男女か・・・」
忍者は姿形は全くの女であった。
しかし悠玄はあえて『男女』と呼ぶ・・・
「お前には私の美しさが解らないようだな・・・まぁ解って欲しいとも思わんがな。」
悠玄が『男女』と呼ぶ理由・・・
それはその忍者が両性具有であり、悠玄は以前その性質のおかげで不覚をとるところだったからだ。
「ふん!」
悠玄が刀を振る。
だが忍者はそれを回避し、悠玄の懐に潜り込もうとする。
「ちぃ!」
悠玄は左手をとられる寸前で何とか足で相手を押しのける。
「簡単にはとらせてもらえそうにないな。」
忍者はそう言ってにやりと笑う。
この忍者たちは体術を専門とした暗殺集団だ。
人体における急所を的確に狙うのは当たり前だが、それ以上に恐ろしいのは、今で言う『合気道』に似た技を使い、どんな体重差、身長差を持った相手であっても身体に触れさえすれば投げ飛ばし、倒れた相手を暗殺する・・・そんな技を極めた特異な集団だ。
「さぁ、来い!」
忍者が構えをとって挑発してくる。
しかし次の瞬間忍者は何かに気付いたようにはっと夜空を見上げる。
『隙あり!』
悠玄はそう思い、間合いをつめて刀を振る。
忍者の右手に刀が入る。
「く!」
忍者は右腕を浅く切られて後ろに飛び退く。
「くそ!撤収だ!!」
忍者たちは倒れている奴等を素早く起こしたり、かついだりして竹林の中に逃げていく。
「・・・行ったか。」
悠玄は深追いはせず、気配が完全消えたことを確かめてから未だに燃えている自分の家を見上げた。
「・・・畜生。」
刀を鞘におさめて林の中へと歩き出す。
『今日は災難だな・・・』
そう思いながら悠玄は町へと歩き出す・・・
二人の忍者に追われていた少年は一人を何とか斬り殺すが、もう一人倒すことに苦戦していた。
「だぁ!」
ぶん
こんしんの一撃が空を切る。
次の瞬間に忍者は間合いをつめ右手の根本に突きを放つ。
「ぐ!」
悠玄に斬りかかったときと同じ状況になる。
痛みはさほど無いのに握りしめていたはずの刀を落としてしまう。
『・・・ここまでか』
少年は死を覚悟した・・・
だがそのとき忍者は背をそらせて少年との距離を置いた・・・いや、吹き飛ばされたのだ。
目の前に突然何者かが躍り出る。
少年は先ほどの忍者の突きで倒れたが、自分の目の前に飛び込んできた人物の背中を凝視した。
「ちっちゃい子をいじめるなんて感心できないよぉ。」
背は少年と同じぐらい。
袖のない胴着を着ている、髪の長い女性だった。
忍者は撤収の合図を聞いて逃げ出していた。
女性は少年の方を向く。
「ボク、大丈夫?」
少年に心配そうにきく。
『く・・・何か情けねぇ・・・』
少年は女性に助けられたことが恥ずかしくなり赤面した。
「べ、別に助けなぞいらなかった!」
とりあえず強がってみた。
「ふぇ?」
「俺はこう見えても強いんだ!助けられなくてもあんな連中の十匹や二十匹簡単に斬り殺せたんだ!!」
「・・・はぁ」
言ってますます恥ずかしくなった。
「・・・ま、まぁ礼だけは言っておく!」
「左様ですかぁ・・・」
少年は立ち上がってみる。
そうすると女性は自分より少しだけ背が高かった。
「ボク、何で襲われてたのかなぁ?」
「お前には関係ない」
「う〜」
冷たくされて女性は悲しそうな顔をした。
少年はなんだか悪い気もしたが、それもしょうがないとも思った。
「とにかく世話になった・・・」
少年はそう言って背を向け、歩き出す。
「あ、ボク、旅をしてるんでしょ?」
女性は少年のかっこうを見てそう尋ねた。
「ああ」
「どっか泊まるとこあるの?」
「・・・宿をとっている。」
「そっか・・・ああ、でもでも、何か困ったことあったら私に言ってよ。」
「はぁ?」
「私ここを出た町に住んでるの。」
「ああ・・・なら困ったときは訪ねるとするよ。」
「うん!私は双っていう姓のお屋敷にいるから!」
「ああ」
再び少年は歩いていく。
「ああ、待って!」
「まだ何かあるのか?」
「うん、私、翔綺って言うの。君は?」
「・・・宗冬」
「うん、じゃあねぇ、宗冬♪」
「・・・」
そして柳生宗冬は去っていった・・・
十兵衛が見えなくなると、翔綺は後ろの方角の空が明るいことに気付いた。
「・・・あれ?」
「うわ!何か燃えてるよ!ってあの方向って・・・」
翔綺は慌てて明かりの方へと走り出した。
「ゆ〜げ〜ん!」
「なんだ?」
「ふぇ?」
横から返事があったので振り向く。
「って、前を見ろ!」
「前?」
べちっ
前を見たら竹に激突した。
「あぐ、いた〜」
翔綺は顔を押さえてのたうち回っている。
「何をばかな事してるんだ・・・」
「それは悠玄の家が燃えてるみたいだから心配してぇ〜」
「ああ、燃えてるな。」
「あ、そうだ!悠玄大丈夫なの?何ともない?どう?」
「そんな心配されても・・・怪我一つないから大丈夫だ・・・」
「・・・ふぅ、よかったぁ」
「それよりお前どうしたんだ?こんなところに来て。」
「あ、そうそう、父上がたまには顔見せに来いって言ってたから連れに来たんだけど・・・もしかしていいところに来た?」
「家が燃えてるのにどこがいいところだよ・・・」
「それは可哀想だけど、家に泊まればいいじゃない。」
「誰の?」
「だから私の家。」
「・・・ああ、そう言う意味か。」
悠玄は少しの間思案する。
今夜はどこで寝るか困っていたことはだったのは確かだ・・・
「でもいいのか?」
「別に前から『俺の家に来い』って父上も言ってたからずっと居てもかまわないよ。」
「いや・・・」
それは早い話が『養子になってくれ』という意味であった。
翔綺にはそのへんの事が解っていないらしい。
「すまん、ありがたい話しだが遠慮させてもらう・・・」
「え〜!あぁ、今夜だけでも来た方がいいよ〜」
「いや、でもな・・・」
「いいから!ほら!」
「お、おい!」
そのままずりずりと引っ張られていった・・・
結局悠玄はその日双の屋敷に泊まった。
「くそ、なんてざまだい!」
すすきの野で忍者の頭、狼稟は口惜しげに言った。
まさか悠玄、翔綺が柳生とともにいるとは思いもしなかったのだ。
「そのうちあいつらは犯し殺してやる・・・」
何とも言えない邪念に仲間である忍者たちですら背筋に悪寒が走る。
「頭!」
一人の忍者が足早に向かってくる。
「なんだい騒々しい!」
「あっちから妙なヤツがやってきます。」
言うか言わないかの内にその忍者の姿が消える。
「!!」
とっさに危機を感じ狼稟は飛び退く。
「ぐあぁ!!」
十二いた忍者の半分が今の一瞬に消える。
「なにやつ!?」
ぬぅっと黒い影が姿を現す。
影は無言で鉄の塊に手をかけ、そして振る。
「ぐわぁ!」
また二人が消える。
「なんだこいつ!?」
「一気にかかるぞ!!」
残りの忍者たちが三人同時に影に襲いかかる。
「待て!ダメだ!!」
狼稟は三人を止めるがすでに遅かった。
影は普通に刀を振るうようにその鉄の塊を振る・・・いや、むしろ軽々と振っている。
誰一人として懐に入れずに果てた。
「も、物の怪か!?」
狼稟は逃げることしか頭に浮かばなかった。
そしてそれを実行した。
鍛え抜かれたこの足なら何とか逃げ切れる・・・そう思ったからだ。
だが影は追ってきた。
狼稟はすすきの野を抜け、森へ入り、切り立った崖に出た。
先ほどの場所からは三里以上離れた場所だ。
「ここまで来ればもう追っては来まい・・・」
狼稟は崖のそこの川で顔を洗うことにした。
さっきのことは悪い夢だ・・・そう思いたかった・・・
冷たい水で顔を洗う。
そしてその辺の石に腰をかける。
「ふぅ・・・」
川の水に映る黄色い物があった・・・
「きれいな三日月だな・・・」
川に映る月は忍びの者であっても心引かれた。
「?」
『三日月・・・』
「そんな・・・今日は満月・・・」
狼稟はがけの上を見た。
「!!」
しかし気付いたときにはすでに狼稟は絶命していた。
最後に狼稟の目に焼き付いたモノは月の光を浴びても赤く光る影の目であった。
影は崖の上から落ち、そして川を赤く染める・・・
月を赤く染めるためであろうか・・・
日はかわり、朝靄のかかる中、悠玄は朝の稽古をしていた。
これは悠玄の日課みたいなモノだ。
ヒュン、ヒュンという音が朝の空気に冴え渡る。
「朝から精が出ますなぁ。」
翔綺が声をかけてきたので悠玄は手を休める。
「よう。」
悠玄は汗を拭って刀を鞘へしまう。
「何で外でそんな事してるの?稽古場があるんだからそこですればいいでしょ。」
「まぁ気分の問題だ。」
「ふぅん、ま、わからなくもないけどねぇ。」
「まぁきょうはこんぐらいにしとくか・・・」
「うん、じゃあお茶持ってくるねぇ♪」
翔綺はすたすたと奥に入っていった。
悠玄は自分の部屋に入って待っていることにした。
翔綺の家は現在父と子の二人だけで住んでいる。
代々一子相伝で体術を伝えてきた家で、その技は絶対に歴史の表舞台に出てくることはなかった。
翔綺の父も技を継いだのだが、その妻は翔綺を産んでまもなく他界した。
父は翔綺に技を伝えたが、泰平の世にはもはやいらぬ物であると悟り、翔綺の代で流派は終わりにしようと決めていた・・・
翔綺もそのつもりではあるが本来の性質であろうか、技を極めんがために修行を続けている。
ここ三年間翔綺は山ごもりをし、一昨日帰ってきたばかりだ。
ちなみに、悠玄とは幼いときからの友人である。
悠玄が部屋で一つ大きなのびをしていると、誰かが入ってきた。
「悠玄よ・・・」
「あ、師匠!」
入ってきたのは翔綺の父である。
「おはようございます。」
「うむ・・・」
悠玄は以前翔綺の父から体術の教えを受けていた時期があった。
それからは『師匠』と呼ぶようにしていた。
「時に悠玄・・・」
「はい。」
「柳生の者たちがこの界隈をかぎ回っていることを知っておろう。」
「はぁ・・・」
何気ない返事をしているが、悠玄の表情は『柳生』と聞いたとたんに険しくなった。
「・・・お主の父を切った柳生がこの近くにおるらしい。」
「!!」
悠玄は片膝で立ち、詰め寄った。
「それは誠ですか!?」
「うむ・・・」
「それで、それで・・・いったいどこに!?」
「・・・聞けばあだを討ちに行くか?」
「当たり前です!!」
しばし沈黙する。
「・・・すすきの野じゃ・・・」
「すすきの・・・」
「そうじゃ、そこでその柳生が何かを探しているそうじゃ。」
「・・・忝のう御座います!」
悠玄はその言葉を聞いて、刀を持って出ていってしまった。
すれ違いで翔綺が入ってきた。
「あれぇ、ゆうげんは?」
「・・・仇を討ちにいったわい。」
「へ?」
「あの柳生がまた来たんじゃよ・・・」
がちゃんと茶碗が落ちる音がした。
「悠玄!」
翔綺は悠玄を追った。
しかしすぐに戻ってきた。
「父上!どこいったの!?」
「馬鹿もんが、聞かずに行くやつがあるか・・・すすきの野原じゃよ・・・」
「父上!行って来ます!」
「・・・うむ」
しかし待っているものは柳生だけではなかった・・・
あとがき
なんだか某ゲームの雰囲気に似てきてる気がしてきた・・・
いろいろ問題になりそうでならない。
自分ではそれなりに面白いと思って作っているのですが、反響が怖いです。
でも好き勝手に言ってください。
その方が面白いんで。(笑)
六月
試験開けの眠気の中で・・・
戻る