研究
研究
ここには要約を公開しておきますので、本文にご興味のある方はわたしの方までご連絡下さい。
心理療法における人間の性格の理解
2012. 4 小林彰
人間の性格をどのように捉えると心理療法に有効なのであろうか。これが今回のテーマです。人間の性格の理解に対するアプローチは非常にさまざまで、元になる考え方が違います。これについて整理し、どのように捉えると心理療法に有効なのであろうかという視点から、考えてみました。またDSMのパーソナリティー障害とエニアグラムをもとに一つの性格理解の方法の試案を創ってみました。みなさまとご一緒に考えるのを楽しみにしております。
類型論
人間の行動様式、感情的傾向、思考的傾向は人それぞれ違いうが、反面似たような特徴を持つ人たちのグループがあり、いくつかの型(タイプ)があり、類型論的に理解することができるという考え方があります。この考え方は昔からあり、例えば西欧ではギリシャ時代の紀元前400年頃にはヒポクラテスは、黄胆汁質、多血質、黒胆汁質、粘着質の体液の類型で人間の性格を分類できると考えていました。
近代になってもドイツの精神医学者のクレッチマーによる人の体型から、分裂型、躁鬱型、てんかん型、が提案され現在でも、ある程度の影響力を持っています。ユングは人の行動の観察より、内向/外向的態度(心のエネルギー、関心、興味が内に向かうか外に向かうか)、4の心理的機能(思考、感情、感覚、直感)という観点から性格を8タイプに分け類型的に理解しようとしました。またフリードマンとローゼンマンは、狭心症や心筋梗塞などの冠状動脈性心臓病になり易い人の性格として、タイプA(極端な精力的、野心家、慢性的時間の切迫観などを特徴とする)を提案しました。
その他、世界各地には身体的特徴から性格を推し量るいろいろな俗説があります。例えばあごの張った人は意志が強いとか、鼻の高い人は高慢だとか、大きな人はおっとりしているなど。また日本、韓国、台湾などでは血液型性格判断が流布していますが、これらは学術的には認められていません。
このように型から考えて性格を分類して行こうとすると、観察者の偏見が入り易く、すなわち型にはまらない事柄があってもそれを取り上げず、型に合うことだけ観察するので、人々の性格を一面的な単純な形に押し込めてしまう傾向があると考えられ、また観察者の直感に頼る面が多いため、実証的な研究に向かないなどの面があります。このように欠点の多い類型論ですが、短時間に直感的に性格の全体像をつかめる(又は、つかめるように感じる)ため根強い支持があり、良いものを注意して使えば価値があると思われます。
特性論的アプローチ
これらの反省より、近年ではいくつかの複数の次元の評価を総合することにより、個人の性格を理解して行こうとする特性論的理解がさかんになり、多くの研究が行われるようになりました。特性論的アプローチは質問紙法などのテスト法や統計的な手法(因子分析など)との相性が良く、実証的な研究に向いています。しかし、この特性論は各次元の性質を寄せ集めているだけで、部分の総合は全体ではなく、人間の性格の理解として十分ではない、また各次元の性質を寄せ集めても、各次元の評点のプロファイルにしかならず、なかなか直感的に解る性格を表現しにくい、性格心理学的理論が背後になく、性格を現象的に表現しているだけだという批判もあります。
因子分析をつかった方法で性格の研究を始めたのは、アメリカのキャッテルと言われています(1957年発表)。彼は日常的に使われる性格を表す4500語を多量の性格に関する自己評定や他者の評定のデータを使い因子分析し、16種類の性格を表す因子を見出し、16PF という性格テストを開発しました。同じ頃イギリスのアイゼンクも因子分析の手法を使い、内向ー外向と安定ー不安定の二つの双極性対概念を見出しました。
その後も特性論的アプローチは隆盛を極め多くの性格テストが開発されました。その中でも特に注目されているのが、特性5因子論(FFM: Five-Factor Model)です。5因子論はチュービスとクリスタルにより1961年に発表されましたが、1980年代に入りアメリカで再度注目されるようになり、現在でもFFMに関係する非常に多くの論文が発表されています。コスタとマックレーによるNEO-PI-R はFFMによる代表的な性格テストと言われています。5種類の性格特性は情緒不安定性、外向性、経験への開放、協調性、勤勉性です。これらはSD尺度(形容詞の双極性尺度たとえば情緒不安定性はCalm−Worring, Hardy−Vulnerable, Secure–Insecure)で表されます。
精神分析的アプローチ
フロイトは人間の性格形成は誕生から5年間が最も重要な時期で、心理性的能力を発達させる必要があり、それに失敗すると歪んだ性格になる可能性があると主張しました。
0〜1歳:口唇期 適正な授乳が必要
1〜2歳:肛門期 適正なトイレットトレーニングが必要
3〜6歳:男根期/性器期 性別意識の発生、エディプス/エレクトラコンプレックス
7〜12:潜伏期
これは特性論とは異なり、性格心理学的理論が背後にある性格の考え方ですが、フロイト自身は実際の幼児を詳しく観察したわけではないこと、あまりに男性的性欲中心的な考え方であることなどの批判を受けました。そして後により実際の幼児を詳しく観察した研究が行われ、修正を受けましたが(クラインの対象関係理論など)基本となる乳幼児期の経験の重要性についての考え方は変わっていません。
この他にもエリクソンの生涯発達の理論、エリック・バーンの交流分析など、性格心理学的理論に影響力のある理論が、精神分析的アプローチから出て来ています。
社会学習的アプローチ
社会学習的アプローチは行動主義心理学をベースにしており、性格の発達に対する環境または状況的要因を非常に重視する。即ちどのような家庭、文化、風土、社会階級、職業の中で育ったのかなどです。ただし行動主義心理学が刺激−反応の心理学であり、その反省よりそれぞれ個人がどのように主観的に経験を認知するかを重視した認知心理学の考えかたなどを用いた研究に発展してきました。
現象論的アプローチ
これは人間性心理学の立場から、従来の客観的な自然科学的な性格の研究の一面性に批判がくわえ、人間の主観的認識、自己認識、自己実現指向を重視するアプローチです。このアプローチはまたマスローの自己実現に関する考え方にも影響を受けています。マスローの考えでは人間の欲求はピラミッド型の階層構造をしています。そして各階層にはそれぞれ違った欲求があり、より下位の階層の欲求が満たされると、一つ上の階層の欲求を持つようになるとされます。すなわちどの階層にいるかにより、性格が違って来るのです。それぞれの階層の欲求は、下から生理欲求、安全欲求、帰属欲求、尊厳欲求(集団や社会からの承認と評価を求める)、認知欲求(知識を持ち判断し発言する)、審美欲求、自己実現欲求となっています。
トランスパーソナル的アプローチ
トランスパーソナル心理学では、人間にとって健全な個の確立は、成長の最終段階ではなく、自他の境界を横断する(超える)意識が、個人や社会や地球環境の癒しや成長のために必要であると考えます。そのため個人の性格を理解に関しても、自己性格の理解を自己成長のマップとして使うこと、自動的な性格のメカニズムから自由になること、自己感覚を広げるという面が強調されています。ウィルバーらによる意識の発達の理論が提案されています。
エニアグラム
トランスパーソナル的アプローチの代表的な性格に関する考え方の一つとしてはエニアグラムが挙げられます。エニアグラムは9の性格の類型としてイスラムのスーヒィー派の秘伝(口伝)として伝わってきたものですが、近代になりグルジェフ、イチャーソらにより西欧に紹介され、その後、現代の心理学の研究を多く取り入てきた性格心理学です。エニアグラムの根本は一人一人の人間か成長するに当たってぶつかる問題とか、個人が本来持っている傾向に対する自己洞察です。それは固定的な類型論ではなく、つねに成長志向でなければならないとされています。
グルジェフは、エニアグラムはある程度修行積んだ人が自発的に理解していくもので、そういう人にしか学ばないように、ということに考えていたようです。自分自身の内面をみつめ変革して行こうとする人は、やはり少数の人たちであり、間違った使い方をされて自己納得や他者分析の道具になってしまうのを恐れたからと思われます。「わたし/あの人はこのタイプだからこういう人だ」と言うようにではなく、自己成長の道具として口にすることを慎み、密やかに使うものだったのです。しかし現在は世界に広まり、本来の使い方からかなり離れたものも出て来ているようです。
9の性格の類型を次に簡単に説明します。これらのタイプは並列的に単独に見られるのではなく、次の図エニアグラムに示される相互関係的に見る必要があります。
エニアグラム
タイプ1:改革する人
理想や理念、倫理基準が高く、理性的、健全な状態では、思慮分別があり、理想を現実にするための努力を惜しまない。不健全になるにつれ、他人やものごとの至らないところが気になり、自己正当化や非難が強まる。
自己感覚:自分は思慮分別がある
根源的恐れ:堕落し、悪意や欠陥を持つこと。
根源的欲求:良くあること。誠実で、バランスを保つこと。
とらわれ:怒り
病理:強迫性/抑鬱性人格障害
本質:知恵
タイプ2:助ける人
人とのつながりが、人生で中心的価値を持つ。思いやりがあり、面倒見がいい。不健全になるにつれ、自分勝手なおせっかいになり、評価されないと相手を敵視する。人が自分から去らないように、強迫的に愛を求める。
自己感覚:自分は愛することができる。
根源的恐れ:求められないこと。愛される価値のないこと。
根源的欲求:無条件に愛されること。
とらわれ:プライド
病理:演技性人格障害および詐病
本質:無条件の愛
タイプ3:達成する人
成功指向で、実利的。目標実現のため、ハードに働く。他人のやる気を引き出す。自信を持ち、プレゼンテーションがうまい。不健全になるにつれ、虚栄的になり、内面の空虚感が強まり、攻撃的になる。
自己感覚: 自分には魅力がある。
根源的恐れ:自分に価値がないこと。
根源的欲求:自分に価値があると感じること。
とらわれ:欺瞞
病理:自己愛性人格障害
本質:真正
タイプ4:個性的な人
繊細で、直感的、感受性豊か、自分らしいムードを保つ。不健全になるにつれ、人生に対して斜に構え、気分のむらが目立ち、落ち込み、他人を妬み、嗜癖に走り易くなる。
自己感覚: 自分は感受性豊かだ。
根源的恐れ:自分がアイデンティティーや存在意義を持たないこと。
根源的欲求:自分自身と自分の存在意義を見つけること。
とらわれ:妬み
病理:回避性/抑鬱性/自己愛性人格障害
本質:美、創造
タイプ5:調べる人
集中的に頭を使う、観察者。洞察力が鋭く、好奇心が強く、ものごとに巻き込まれない。不健全になるにつれ、すべて納得出来ないと行動出来なくなる。孤独になり、ニヒリスティックになる。
自己感覚: 自分には知識がある。
根源的恐れ:自分が役に立たず、無力で、無能なこと。
根源的欲求:有能であること。
とらわれ:ためこみ
病理:分裂病型人格障害
本質:知
タイプ6:忠実な人
安定志向で、自分が何を信じることことができるか、ということが重要な人生のテーマ。愛情深く、献身的で、努力家。不健全になるにつれ、一人ではやって行けないことを恐れ、雑念に悩まされ、優柔不断になる。不安が高じるとルールや枠にしがみつき偏執的になる。
自己感覚: 自分は好かれる
根源的恐れ:自力で生存することができないこと。
根源的欲求:安全とサポートを得ること。
とらわれ:恐れ。
病理:受動的攻撃性/偏執病型人格障害
本質:勇気、自己信頼
タイプ7:熱中する人
活動的で、外交的。冒険や楽しいこと、自由を好む。周りを楽しませることで、自分も楽しくなる。楽観的で実行力がある。不健全になるにつれ、衝動的になり、無責任になる。快楽や嗜癖に走り易くなる。
自己感覚: 自分は幸福だ。
根源的恐れ:ニーズを満たされず、一人になり、痛みから逃げられないこと。
根源的欲求:ニーズが満たされること。
とらわれ:貧慾
病理:躁鬱、演技性人格障害
本質:喜び、感謝
タイプ8:挑戦する人
強く、腹がすわっていて、遠慮せず、はっきりものを言う。自分がコントロールし、仕切りたがる。現実的で、わが道を行く。弱者を守り、面倒見が良い、行動的で、決断力がある。不健全になるにつれ、自慢、強がりが強くなり、相手の弱点をつつき、支配的、闘争的になる。
自己感覚: 自分は強い。
根源的恐れ:他人に傷つけられ、コントロールされること。
根源的欲求:自分自身を守り、自分の人生を自分でコントロールすること。
とらわれ:(強烈さへの)欲望
病理:反社会性人格障害
本質:力
タイプ9:平和を好む人
穏やかで、人に安心感を与え、気持ちをなごませる。平和や快適であること、一体感を好む。公平な仲裁ができる。楽観的ビジョンを持つ。不健全になるにつれ、周囲に迎合的になり、現状維持的になり、自分を麻痺させて抑鬱的になったり、無感覚になったりする。
自己感覚: 自分は穏やかだ。
根源的恐れ:見捨てられ、切り離されること。
根源的欲求:心の平和を保つこと。
とらわれ:怠情
病理:依存性/分裂病型人格障害
本質:平和
(これらのタイプの説明はリソとハドソンの考えに基づくものです)
これらのタイプは他のタイプと関係し合う理論と、成長のレベルでみる発達プロセスを重視する考え方を持っています。
ウイング:
主要な性格タイプはひとつであるが、エニアグラムの円周上で、両隣のタイプのどちらか片方の要素が強いという考え方。
統合の方向と分裂の方向:
矢印の方向は分裂の方向、矢印と逆の方向は統合もしくは成長の方向を示す。例えばタイプ7にとっての分裂の方向は、タイプ1の不健全な特徴を持ち、統合の方向はタイプ5の健全な特徴を持つとされる。
エニアグラムとDSM-IVの人格障害(パーソナリティー障害)を使った性格の理解方法(試案)
リソらは、エニアグラムの性格タイプと他の分類体系との比較をおこなっていますが、ここではDSM-IVの人格障害分類と比較してみましょう。これは私(小林)が考えたものなので、ご承知下さい。
DSM-IVとは、アメリカ精神医学会(APA)の「精神障害の診断・統計マニュアル」(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)の第4版で、五軸からなる多軸診断システムです。
I 軸:臨床疾患(鬱病性障害、統合失調症など)
II 軸:パーソナリティー障害、精神遅滞
III 軸:一般身体疾患
IV 軸:心理社会的および環境的問題
V 軸:機能の全体性評価
DSM-IVでのパーソナリティー障害タイプは妄想性、分裂病質/失調型(スキゾタイパル)、分裂病型(シゾイド)、反社会性、演技性、境界性、自己愛性、回避性、依存性、強迫性の10タイプです。岡田(2004)がこれらの特徴を短く言い表しているので、ここに引用しておきます。
境界性パーソナリティー障害:愛を貪る人々
自己愛性パーソナリティー障害:賞賛だけが欲しい人々
演技性パーソナリティー障害:主人公を演じる人々
反社会性パーソナリティー障害:悪を生き甲斐にする人々
妄想性パーソナリティー障害:信じられない人々
失調型パーソナリティー障害:頭の中で生きている人々
シゾイドパーソナリティー障害:親密な関係を求めない人々
回避性パーソナリティー障害:傷つきを恐れる人々
依存性パーソナリティー障害:一人では生きていけない人々
強迫性パーソナリティー障害:義務感の強すぎる人々
エニアグラムの性格タイプとDSM-IVのパーソナリティー障害分類をこの人たちは根源的には何を求めているのか、何を恐れているのかという観点から7つのグループに分けてみました。
根源的欲求型パーソナリティー障害エニアグラムのタイプ
情熱型境界性タイプ3:達成する人(真正)
自己愛性 タイプ7:熱中する人(喜び、感謝)
演技性タイプ2:助ける人 (無条件の愛)
美型自己愛性タイプ4:個性的な人(美、創造)
力型反社会性 タイプ8:挑戦する人(力)
妄想性
知型失調型 タイプ5:調べる人(知)
シゾイド
回避性
安心安定型依存性 タイプ6:忠実な人(勇気、自己信頼)
平和博愛型回避性タイプ9:平和を好む人(平和)
正義型強迫性 タイプ1:改革する人 (知恵)
情熱型は自分のパッション(熱情、愛など)を感じ生きることが何よりも大切な人たちです。情熱、愛を失うことを恐れます。
美型は、自分の直感、感受性の豊かさを何よりも大切し、自分らしいムードを失うこと恐れます。
力型は自分の力を感じて生きること、そのために勝つことが何よりも大切な人たちです。力、自律を失うこと、負けることを恐れます。
知型は世界を観察し考え、仮説/法則を創ることや見つけることが大好きな人たちです。法則が当てはまらなくなり、予測がつかなくなることを恐れます。
安心安定型は安定志向で、自分が何を信じることことができるか、ということが重要な人生のテーマです。愛情深く、献身的で、努力家。他者から安全を保証されるのを望みます。他者からのサポートを失うことを恐れます。
平和博愛型は、自分の心の平安が何よりも大切な人たちです。そのために世界を平和にし、他人の心を平安にしようとし、自分の心の平安が乱されることを恐れます。
正義型は自分が良き存在であることが大切な人たちです。自分が正義、正しい立場に立てなくなること、不完全であることを恐れます。
この7つのグループをもとに、エニアグラムや他のアプローチを参考にしながら、その人/自分は根源的には何を求めているのか、何を恐れているのか、どのように発展していくのかをタイプ論に縛られずに、利用しながら緩く探って行くのは、人間の性格を知っていく一つの方法ではないかと考えています。また人はこれら7つの性格要素を全て持っており、それらの程度の組み合わせで性格をみる特性論的アプローチも可能です。
またこの情熱、力、知、美、平和、安心、正義を求める心は社会を維持発展するのにどうしても必要な要素であり、もともと宇宙に布置されている構造、傾向と見ることもできるかと思います。
まとめ
人間の性格をどのように捉えると心理療法に有効なのであろうか。これが今回のテーマでしたが、まとめてみようと思います。
λ歴史は長いが欠点の多い類型論ですが、短時間に直感的に性格の全体像をつかめる(又は、つかめるように感じる)ため根強い支持があり、これに惑わされないように注意する必要があると思われます。
λ特性論的アプローチ、精神分析的アプローチ、社会学習的アプローチ、現象論的アプローチ、トランスパーソナル的アプローチはそれぞれ説得力があり、どれもある視点からみれば正しいように見えます。またそれぞれ欠点もあります。そのため特定のアプローチを絶対視せず、時と場合に応じて柔軟に使って行くのが良いと思われます。
λグルジェフのエニアグラムはある程度精神修行積んだ人が自発的に理解していくもので、自己成長の道具として、自分の経験を確認するやり方で、みだりに他人に口にせず密やかに使うものだという考え方は、大変に興味深いと思います。エニアグラムに限らず性格タイプ論を安易に機械的に使わないことの戒めになると思われます。
λ自分自身の内面をみつめ変革して行こうとする人は、やはり少数の人たちであり、セラピストが安易に性格タイプ論をクライエントに開陳すると、間違った使い方をされて自己納得や他者分析の道具になってしまい、「わたし/あの人はこのタイプだから、この人格障害だからこういう人だ」と言うようになる可能性もあり、セラピーの自由な展開の妨げになる可能性があるので、例外はありますが基本的にはセラピストは性格タイプ論に良く通じていたとしても、できるだけ口にすることなく、密やかに使うのが良いのではないかと私は思います。
λプロセスワークのワークは、二次プロセスの不思議さに開かれていることが大切なので、特定の性格タイプ論、パーソナリティー理論に縛られないことと、先人の知恵であるパーソナリティー理論を活用することを両立できるようになれると良いと思います。
参考文献
柏木繁男(1997)『性格の評価と表現』有斐閣ブックス
高岡よし子・マクリーン、T.(2001)「エニアグラム」諸富祥彦『トランスパーソナル心理療法入門』日本評論社 pp.172−198
リソ、D.R. 鈴木秀子監修・橋本令助・田中きよみ訳(1993)『性格タイプの見分け方』春秋社
岡田尊司(2004)『パーソナリティー障害』
プロセスワークのグループプロセスの効果の評価:
個人の異文化間の感性の発達に関する定量的及び定性的分析
1970年代からMindell, A. P.のプロセスワークは多くの研究者により研究されて来ました。しかしそれらの研究では標準化された評価方法によりプロセスワークの影響を測定することは行われて来ませんでした。本研究はプロセスワークのグループプロセスが個人の異文化感受性を高めるという仮説を「異文化発達質問紙」 Intercultural Development Inventory(IDI)を用いて調査しました。本研究はまた、どのような人々がよくプロセスワークのグループプロセスに影響されるか、そしてそれはなぜかについて調査しました。本研究のIDIデータは、2年に一度行われるワールドワークセミナー(London 2008)で参加者から集められました。このワールドワークセミナー参加者の中の61人がセミナーの前と後にこのIDIを用いた調査に参加しました。そしてセミナーの前と後の調査参加者のIDI DS得点(IDIは、DS得点によって個人の異文化感受性を評価します)に関して有意差が観測されました。更にIDIによる量的データをより深く説明する為にセミナーの終了後に調査参加者61人のうちの12人にインタビューを行い、そのデータを分析しました。このインタビューの分析において参加者のこのセミナーでの経験内容とセミナー参加によって生じたと思われる異文化感受性の発達を調査しました。IDIのデータとセミナー後のインタビューの分析から、ワールドワークセミナーとその主な要素(プロセスワークのグループプロセス)がセミナー参加者の異文化感受性を向上させる効果があることが見いだされました。更にセミナー参加者のセミナー前のプロセスワークのトレーニングを受けた経験、セミナーに対する満足感、性格的特徴(対立寛容性と柔軟性)がセミナー参加者の異文化感受性の発達に影響を及ぼすことが見いだされました。(本文は英文で201ページ)
現代のイニシエーションの研究: 米国オレゴン州ポートランドのプロセスワークコミュニティにおいて
この研究は現代におけるイニシエーションの研究のため、米国オレゴン州ポートランドのプロセスワークコミュニティにおいて学生達のプロセスワーカーになる経験を調査したものです。それは学生達のプロセスワーカーになる経験が現代のイニシエーションの例になるかもしれないという仮説の上に行われました。
この研究は自伝的方法を使った定性的なものです。この研究のために自らの経験を語ってくれた人たち(参加者)は、全部で7人のプロセスワークセンターの学生、もしくは卒業生でした。本研究はデータ収集のために文書を使いました。すなわち参加者に彼/彼女らがプロセスワークを学んで来た中でイニシエーションの体験であるような経験について書いて頂きました。更に彼らの幼少期からの大好きなおとぎ話と、彼らのイニシエーションの体験の重要な質を表す絵や写真を本、雑誌などから見つけて頂きました。
これらのデータを分析したあと、私は参加者達に会って分析結果を彼らに話し、彼らからフィードバックを得ました。この分析そして参加者のフィードバックを通じて、現代のイニシエーションに関する4つのテーマを確認しました。
これらのテーマは以下の通りでした:
現代のイニシエーションにおける危機の役割と個人の実存的問題
全体性に向けての奮闘としてのイニシエーション
信念と気づきを求めての探索としてのイニシエーション
現代の文明の限界を越えるプロセスとしてのイニシエーション
これらのことについて考察を致しました。
(本文は英文で90ページ)
Mid Point Review Study note
この資料はプロセスワークの基礎的な知識をまとめてあります。私が米国オレゴン州ポートランドのプロセスワ−ク研究所のMidpoint review ( '98.10 ) の為の勉強に作成したものです。かなりの部分をThe Phase one exam prep notes Leslie Heizer Oct.1992 をもとにしていますが、翻訳というわけではなく、試験の形式にあわせて作った私の覚書に近いものです。その他、いくつかの本から引用していますが、それについては、出所をできるだけ明確に書いたつもりです。また自分の意見も書いていますが、それについては(彰)と文末に書いて、Leslie のノートからのものと分けるようにしています。各 Examiner との対話の項は私の意見が書かれています。
この資料は、私個人の勉強の為に作成した性格が強いこと、作成時より10年以上経過して、プロセスワークの理論自体が発展している為、いささか資料として古くなりつつあること申し添えておきたいと思います。
(本文は日本語で127ページ)
私の行ってきた研究など