プロセスワークとは
プロセスワークとは
プロセスワークはプロセス指向心理学とも呼ばれる、人間の心理、身体症状、精神病、昏睡状態、人間関係、グループ、組織、社会の問題などの広範囲の問題に関わる心理学的な取り組みです。
プロセスワークは、物理学者からスイスのユング研究所の心理分析家になったアーノルド・ミンデル博士を中心とする人々により、1970年代より創られて来ました。プロセスワークは、ユング心理学をベースとしながらも、様々な心理学的技法、現代物理学のアイディア、宗教的な技法などを、学際的に実践的に研究することで、形づくられて来ました。
プロセスワークでは精神的な問題、身体症状、関係性の問題、グループの問題、紛争、社会問題などは、単に困った問題なだけではなく、それらの中に相応しい解決方法や、個人、グループ、社会の成長の為に必要な情報を、含んでいると考えます。この問題の背後に隠れた情報(自然の流れ)を読み取り活用することが、プロセスワークの技法の核となります。この技法は長い間実践的に研究されて来たもので、個人、カップル、グループ、組織などに適用出来る実用性の高いものです。
プロセスワークでは、自然とは、自己を構成し、解体し、再構成して行く、「タオの流れ」「自然の流れ」であり、全てのものには「自己/自然治癒力」があると考えています。しかし、人間は、この治癒力を邪魔するようなことを、しばしばしています。プロセスワークは、この力が十分に働くように、自然の流れ、シグナルを読み、それらにひたすら従おうとする試みなのです。
プロセスワークの理論
心理学、心理療法にはいろいろな学派があり、その基本と成る理論と技法は非常に異なっています。これは同じ人に対する療法である現代医学が科学とそれにより合理的とされることを一元的にベースにしているというあり方と大変に異なっています。そこでまずプロセスワークが心理療法の地図の中でどこにあるのか考えてみましょう。
治すことと治ること
河合隼雄先生は「治すこと(因果論)」対「治ること(非因果論)」という軸から四つに心理療法を分けてみることを提案しています。(心理療法序説、1992)この四つの心理療法モデルは医学モデル、教育モデル、成熟モデル、自然(じねん)モデルとして表されています。
医学モデル
西洋近代の医学で治療に用いられる考え方。
症状 ⇨ 検査、問診 ⇨ 病因の発見(診断)⇨ 病因の除去、弱体化 ⇨ 治療
例)フロイトの治療モデル
症状 ⇨ 面接、自由連想 ⇨ 病因の発見 ⇨ 情動を伴う病因の意識化 ⇨ 治療
教育モデル
個人に助言、指導、訓練を与えることにより治療
問題 ⇨ 調査、面接 ⇨ 原因の発見 ⇨ 指導、訓練による原因の除去 ⇨ 治療
成熟モデル
個人の自己成熟/治癒力により治る
問題 ⇨ 治療者の態度により ⇨ クライエントの自己成熟が促進 ⇨ 解決が期待される
自然モデル
因果的な説明が成り立たない。「治療者が「道」の状態あることによって、非因果的に、他にも「道」の状態が自然に生まれることを期待する」(心理療法序説、P. 15 1992)
これらは上から下にかけて「治すこと(因果論的な立場)」から「治ること(非因果論的な立場)」に考え方が変わって行っていると述べられています。
各心理療法の学派がこれらのモデルにぴったりと当てはまるわけではなく、実際の治療の場面ではその時に出て来た問題の性質によりどのようなモデルで仕事にあたるのか変えて行く必要があるのですが、どの学派がどのモデルを得意としているかはあると思われます。基本的には、ユング派の心理学、プロセスワークは、ここで言う自然モデルを基本理念に据えていると考えられます。
人間の意識に対する考え方
各心理療法の学派が人間の意識をどのように考えるかはかなり違っています。ここでは、精神分析(フロイト)、分析心理学(ユング)、プロセスワーク(アーノルド・ミンデル)の考え方を比べて見ます。
フロイトは無意識の存在とその力動的性格を初めて主張しました。力動的とは心理現象をいろいろな心理的な力の葛藤の組み合わせから考えるという立場です。フロイトは「夢は抑圧された願望の充足」と考えました。
ユングは人間の心は自我を超えたはたらきをしていて、常に高次の全体性に向かって変容して行くはたらきがあり、そのはたらきの中心に「自己」の存在を仮定しています。ユングは夢を全体性に向かって変容して行くはたらきの一部と考え、意識の一面性を補い全体性に導く作用があると考えました。
ミンデルはユングと同じように人間には高次の全体性に向かって変容して行くはたらきがあり、夢には意識の一面性を補い全体性に導く作用があると考えていますが、意識、無意識という考え方は取らず、合意的現実、ドリームランド、ドリーミング/エッセンスという三つのレベルからなる意識の階層性を提唱しています。また意識、無意識という考え方の代わりの一次プロセス、二次プロセスという考え方(後述)を導入しています。
合意的現実:私たちが現実と呼んでいるものは多くの人々の観測が 集められ、そのうちの多くの人たちが賛成できるものです。私たちのほとんどが普通の意識状態にいる時に合意出来る日常的な世界とも言えます。合意的な現実は直線的時間の経過と三次元の空間で観測され、述べることが出来きます。(客観)これに対して非合意的な現実はドリームランドとエッセンスの領域を含んでいます。(主観)
ドリームランド:主観的、心理的領域。個人が経験する空想、幻想、イメージ, 気分、困難なこと、そして対立などの内的世界で起ることがら。これらのこと/経験は言葉で説明することが出来るでしょう。
エッセンス:微細な経験として体験されます。深い、分割/分析不可能、非二元的な普通は無視されてしまう言葉になる前のような経験、言葉にすることが出来ないタオ。
夢と夢のプロセス(dreaming process)
ほとんどの人は夢が寝ている時に起ると考えています。しかし、プロセスワークでは夢見はいつも(私たちが起きている時も)起っていると考えます。そこでそれを夢のプロセスと呼び、次のようなものと考えています。
•寝ている間に見る夢
•人の中にある空想、幻想、イメージ
•人が意識せずにしている事柄(姿勢、動作、音声、感情、等)
•人に起って来る事故や事件
•症状や病気
•共時的な事柄、世界の出来事
•人間関係の問題
•嗜癖(酒、麻薬など)、嗜癖的になる傾向
夢のプロセスはいろいろなレベルの経験(合意的現実、ドリームランド、エッセンス)を含んでいると考えています。
基本と成る考え方と態度
プロセスワークでは全てのこと/ものに意味があると考えます。合意的な現実だけから見れば問題は問題であり、妨げでしかないかも知れません。しかしプロセスワークではものごとが起るには起るだけの意味や必然性があると考え、ドリームランドやエッセンスのレベルまで含めてその意味を探って行きます。すなわち問題自身の中にそれに対する答えや解決があり、それがより明確に現れて来るようにします。これは自然そして人間には全体性に向かって変容して行くはたらきがあるとする態度から来ています。
プロセスワークは深層民主主義の立場を取ります。深層民主主義とは、民主主義が合意的現実のレベルでの対話、利害の調整、などを基本的に理性に基づいてするのに対して。感情やより深いレベルの意識(ドリームランド、エッセンス)や気付きを使い、普段は無視され表現されないものにまで表現するする場を与え、その場により深い気付きをもたらそうとする態度です。
個人の神話
多くの人が変わることがない、ある繰り返す幾つかのテーマ/パターンが人生を通してあるように感じています。そしてそれらの全てがその人をある目的に導いているようにも見えます。プロセスワークではこれを個人の神話と呼んでいます。個人の神話を個人の人生の目的またはその人の運命と考えてみましょう。これにはその人の幸福感を満たす以上の集合的な/全体的な働きがあることが解ります。
そのことについてはいろいろな呼び方があります。マスローはそれを自己実現の潜在力(self actualizing potential)と呼びました。ボームはそれを導く波(pilot wave)と呼んでいます。アーノルド・ミンデルはこの自然のもつ知性のような働きをプロセスマインドと呼んでいます。
ユングは子供の頃の夢と個人の神話の関係について始めて語った人と思われます。ユングは子供の頃の夢に現れるパターンは一生涯のパターンの青写真であると考えました。ユングは子供の頃の夢からその人の将来の職業を予測できるかもしれないと考えていました。
個人の神話のはたらきは高次の全体性に向かっての変容、またはその人にある片寄りや極端な面がへり普通の人間になること、もしくはもっと個性が輝きその人らしくなることなど、いろいろにそのはたらきが捉えられます。
個人の神話はいろいろなチャンネルを通じてそれ自身を表現します。
•子供の頃の夜見た夢
•慢性的な身体症状
•最も始めに経験した人間関係(神話的なものでもある)
•人生の中で何度も繰り返し起る出来事
•生まれた時の出来事と雰囲気
•重大な夢、至高体験、大変困難な出来事
•嗜癖(アルコール、薬物など)
プロセスワークのワークをする為の基本的な考え方
一次プロセス
どのように自分を自分であると認識しているか、自己イメージ、自分が知っている体験、自分の信じていること、モラル、価値観などに関係します。その人のアイデンティティー(自己同一性)、あなたは誰ですか?どのような人ですか?と言う問いに対する答えとも言えます。
ほとんどの人は一次プロセスのみを「自分」だと思っています。そして自分が知らない自分(二次プロセス)には親和的ではありません(排他的)。しかしプロセスワークでは自分が知らない自分(二次プロセス)に積極的に気づいて行こうとします。
二次プロセス
あまり知らない、なじみのない、その人を邪魔するような、ふつう無視/周辺化している事柄は二次プロセスに関係します。(身体症状、人間関係、その人に起ってくる事件など)
二次プロセスは私たちに起って来る私たちの意図とかコントロールに関係ない事柄として経験されます。二次プロセスの持つメッセージに気づき自分の一面的になっているところを調整して、よりバランスの取れた生き方をして行く事をプロセスワークは目指しています。人生の多くの問題は二次プロセスを無視することにより起っているとも考えています。
エッジという考え方
エッジは構造的に言えば一次プロセスと二次プロセスの間にあります。そしてこれは自分と自分でないものの境界でもあり、その人が出来ると思っていることの限界、その人にとってそれと共に生きることが不可能であると感じることとも言えます。たとえばある人は「人に気楽に接するなんて無理です」と言います。この一次プロセス、二次プロセス、エッジという考え方を理解することがプロセスワークを理解するためにとても大切なところです。
チャンネルという考え方
チャンネルは私たちが、シグナル(情報)をみつけて何が起っているのか知り(プロセスを識別する)効果的に人にはたらきかけるために役にたつ考え方です。
プロセスワ−クでは、まず4つの基本的なチャンネル(情報の流れる道筋)があるとします。これらは、視覚、聴覚、身体感覚(身体で感じること、感情)、動き(身体の動き)です。これら感覚チャンネルの他に複合チャンネルとして、対人関係、世界があります。ここで重要なことは、複合チャンネルは他の視覚、聴覚、などのチャンネルから出来ているが、それをそれらのチャンネルに分解してしまうと、そのチャンネルにあったプロセスの情報の意味が失われてしまうので、独立したチャンネルとしてあつかっているということです。プロセスワ−クではシグナルがどのようにどのチャンネルに流れているかを観察することにより、現れているプロセスに従って行こうとします。
プロセスの構造を見つけワークする
プロセスワークでは何が一次プロセス、二次プロセス、エッジか、チャンネルの構造はどうなっているかを分析しワークして行きます。これは現れてくるプロセスにひたすら従って行こうとする先に述べた自然モデルの心理療法モデルの態度からきています。即ちプロセスに従って行こうとするため、起っていることをもっと明確にしようとします(プロセスの構造を見つける)。
そこにはあらかじめ外から定められた目的/目標を適用するのではなく、プロセス自体が答えを持っていると考える態度が根本にあります。即ちゴール指向ではなくプロセス指向なわけです。プロセスの構造を見つけるにはつぎのようなことを注意して行きます。
•その情報がその人にとって既知であるか、未知であるか考えてみます。
•能動態の文章構造は文章の中の「私」は普通その人の一次プロセスに関する情報や経験に関係します。たとえば、「私は気が小さい人です」と言ったりします。
•その人の一次プロセスはその人がどのような意識を持つ傾向があるかによって知る事ができます。例えば同じ音楽を聞いてもある人は分析的に聞き、ある人は感情的に聞くかもしれません。
•文章構造が話し手の自己イメージ/アイデンティティー/一次プロセスより離れているものは、多くの場合その人の二次プロセスを示しています。それの例には受動態の文章構造、第三者を使う、要因の述べられない経験を述べる、などがあげられます。例えば「ここは、緊張した雰囲気だな」「あの人は強いわ」「頑張らなければいけないのに、なぜか疲れる」「友達は僕が学校に帰るべきだと言った」など。
•二次プロセスは多くの場合、被害者としての経験に現れます。例えば、「胃がチクチク刺されているように感じる」では誰が刺しているのかは解っていません。(刺し手が本人の二次プロセス)
•二次プロセスは何がないのか、または待ち望まれているのかによって仄めかされます。例えば、「私は勇気がない」。一次プロセスは勇気がない、二次プロセスは勇気。
•二次プロセスはその人に起って来ること、その人の意図とかコントロールに関係ない事柄として経験されます。しばしば、からだに感じるエネルギーや身体的な経験は二次プロセスに関係があります(それらは自立的に表現します)。夢の中でも一次プロセスに近いもの二次プロセスに近いものがあります、最も不可解で驚かされる事/ものが最もはっきりした二次プロセスと考えられます。
メタスキル
メタスキルはそれぞれの技法が効果的に働くように全体の技術の背後にある技術、もしくは態度のことをいいます。そしてこれは現れてくるプロセスにひたすら従って行こうとする態度、未知のものに開かれていること、好奇心、遊び心、創造的なありかたなどとして描写されます。プロセスワークではそれそれの人がそれぞれのユニークなメタスキルを育てて行くことを重視します。これは誰からも直接的には教わることは出来ず、自分自身で育てて行く必要があります。