腸内寄生虫についてのまじめな話



  おなかの中の虫というと、普通の日本人にとっては、もう余り馴染みのないものになってしまいました。
回虫や蟯虫の検査が、学校や職場での年中行事だったことも、昔語りになりました。
ところが犬や猫の世界では、おなかの中の虫はけっしてして珍しい物ではないのです。
獣医大学で普通に使われている教科書の目次を見ると、
おなかの中の虫は見出しだけでも二十ほどあげられています。
これらは、更に細かく種の単位で分類されますから、一つ一つ数え上げて行けばちょっとした数になります。      おなかの中の虫は普通、その暮らしている場所の名前をとって、
胃内寄生虫とか腸内寄生虫とかよばれています。

  寄生虫は一般に、大きく原虫類、吸虫類、条虫類、線虫類、節足動物と分けられます。
しかし犬や猫の腸内寄生虫として、皆さんが実際に目にすることがあるかもしれないものは、
このうちの線虫類の仲間である回虫や、条虫類の仲間である瓜実条虫や猫条虫くらいのものでしょう。         
 (1) 線虫類は、ミミズやソウメンに似た管状の生き物です。
    線虫類は、回虫の他にも鞭虫、鉤虫、糞線虫といったところがポピュラーですが、
    鞭虫が犬だけに寄生をする他、回虫、鉤虫、糞線虫は、
    犬猫ばかりか条件によっては人に寄生することもあります。
 
 (2) 条虫類は、サナダムシとも呼ばれる、平たくて長い紐状の生き物です。
    平たくて長い、まるで真田紐のようだから、サナダムシと呼ばれる訳です。
    犬猫では、マンソン裂頭条虫、瓜実条虫、猫条虫などがよく見られます。 
 
 (3) 吸虫類は、ヒルによく似た偏平な生き物です。体に吸盤を持つので、吸虫と呼ばれます。
    人にも寄生する横川吸虫が有名ですが、寄生は滅多に見られません。
    最近西日本から関東地方まで分布が広がってきた、
    壺型吸虫というおもしろい名前の吸虫が猫に寄生することが知られてきたくらいで、
    犬猫への吸虫の寄生は余り目立たないようです。
 
 (4) 原虫類は、顕微鏡でなければ見ることのできないとても小さな生き物です。
    原虫の仲間では、猫のトキソプラズマが一番有名でしょう。
    トキソプラズマは人への寄生、特に妊産婦への寄生が問題になります。
    この他に、ジアルジア、トリコモナス、コクシジウムといったところが犬猫でよく見られます。
  
  以上簡単に犬猫の腸に寄生する寄生虫を並べて見ましたが、
問題はこれらの寄生虫がどのようにして犬猫あるいは人の体内に入って、
いかなる悪さをしでかすかということです。
上にあげた寄生虫に限っていえば、どれも卵か幼虫が犬猫の口から飲込まれてうつります。
  鉤虫と糞線虫は卵が口から入る以外にも、
外界でかえった幼虫が皮膚の上から潜り込んでうつることがあります。                             線虫類、原虫類は、虫を持った犬猫のウンチに混ざった卵が、口から入ってうつります。
ですから他の犬猫のウンチを、食べたり舐めたりしなければ、うつることはありません。
  吸虫類と条虫類の多くは、卵から直接ではなくカニ、カエル、トカゲ、川魚、ネズミ、ノミなど、
他の生き物を仲立ちとしてうつります。
ようするに、新鮮な餌を食べたと思っていたら、
中に寄生虫の幼虫という時限爆弾が入っていたということになる訳です。
したがって、なまの餌を与えたり放し飼いにして小動物を食べる機会を与えたりしなければ、
うつることはありません。
  瓜実条虫はよく見られる虫ですが、これはノミを介してうつります。
体にノミがいなければ、うつることはありません。
  
  それでは、実際におなかに虫が寄生すると、どういう事が起きるでしょうか。
虫の種類にもよりますが、犬なら犬、猫なら猫に住み慣れた虫が、
住み慣れた場所に寄生している限りでは、
虫の数がよほど多かったり、他の病気を併発していなければ、
普通は目立った症状を見せません。
けれども、他の病気にかかったり、複数の寄生虫がいたり、
腸の寄生虫が腸以外の場所に寄生したりと、動物と寄生虫の共存のルールが破られると、
驚くほど病気の症状が重くなったり、時には命すら危うくなることがあります。
ですから、決して寄生虫を甘く見ず、定期的に動物病院で検便をうけることは大切なことですし、
寄生虫がうつらないような飼方を心掛けることが肝心と言えます。                
  
  最後に、犬猫の寄生虫が人にうつるか、という問題について軽く触れて起きます。
結論からいえば、多くの寄生虫が人にもうつることが知られています。
学生の頃に授業で聞いた話ですが、お婆さんが猫のノミとりをしていて、
取ったノミをあろうことか自分の歯で潰し、瓜実条虫にかかってしまった、ということがあったそうです。
このような例は少し極端かもしれませんが、ごく一般的な衛生観念を持って犬猫に接していれば、
そうそう寄生虫を恐れる必要はないでしょう。









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