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「KANOM ロワイヤル」 第七章 魔聖母、秋子

  最初は可愛い息子のようなものだった。
 でも、逢うたびに彼は逞しくなっていった。
 あの人がいなくなり、私の心に空いた穴を少しずつ彼は埋めてくれた。
 娘が彼を好いていることは知っている。
 本当はこんな事はいけないことだと知っている。
 でも、この気持ちは止められない。
 彼を愛することを止めることは私にはできない。
 娘達と争うことになろうとも私には彼が必要なのだから。
                        
第七章 魔聖母、秋子

 いつも本当は寂しかった・・。
 あの人と出会うまではそんな気持ちを抱くことはなかった。
 でも、人を愛することを知り、人に愛される喜びを知った。
 そして、それを失ったときの寂しさを知った・・。
 名雪を育てる・・・。それが唯一の慰めであり喜びだった。
 だから忘れようとしていた。いや、思い出したくなかったのかもしれない
愛し、愛される喜びを・・。

 夜の風が優しく彼女を通り過ぎた。
 今までの女性達とは違い成熟した女性の匂いを持ちながら、それでいて
彼女を年齢不詳に感じさせる幼さがあった・・。
 彼女間の名は秋子・・。名雪の母親である。

「いい風ね・・。さて祐一さんの所へ急ぎましょうか。」
 秋子の胸元にはしっかりと抱かれた人形があった。

 いつからだったろう・・。
 彼を男としてみたのは・・。
 最初はあんなに可愛い子供だったのに・・いつのまにか・・男になっていた・・。
 いつしか彼を男として愛しい男として見てしまっていた。
 秘めた想いに彼は気付いてしまった・・。
 そして、私の想いに答えてくれた。
 そのときから彼は私の一番大切なものへとなった・・。
 たとえ娘達と争うことになっても彼は渡さない・・。

「これは罰かしら・・。罪深い私への・・。」 
 秋子は寂しげに呟いた。
「お母さん・・その人形・・・。」
 人影を見つけて駆け寄った名雪が見たのは人形を抱いた秋子だった。
 名雪は一瞬息を吸うのを忘れるほど驚いた・・。
 まさか自分の母親まで祐一と関係があったことに・・。
「おとなしくここは帰ってと言っても聞いてくれないわね。」
「ええ、お母さん・・。私には祐一が全てだから・・。お母さんこそ、その人形を
置いて立ち去って欲しいのだけど・・。」
 秋子はゆっくり首を振った・・。

「あっ・・・。」
 栞に吹き飛ばされて気絶していたあゆは、冷たい風に目を覚ました。
「栞ちゃんは・・、っているわけないよね・・。うぐぅ、なんとか探さなきゃ・・。」 
 あゆはスタンドの力で空中へと踊り出した。

 二人の睨み合いはしばらく続いた。
 どちらも一歩も譲る季はないのだが、さすがに自分から手を出すのには
躊躇していた。
「あっ、人形!」
 空中から現れたあゆが秋子を見つけた。
「あゆちゃん・・。」
 秋子は、いっそう愁いを含んだ表情をした。
「秋子さん・・人形を渡して・・。」
 あゆの台詞についに秋子が動いた。
 秋子の流れるような動きと共に花びらが空中を舞った・・。
「この力を再び使うことが来るとは思わなかったわ。」
 花びらは、空中を自在に舞いあゆや名雪の周りを飛び交った。
「あ・・何・・身体が痺れる・・。」
 名雪は急に膝をついた。
「どう・・痺れ花の威力は・・・。」
「お母さんは確かに薬剤師だけど・・こんなこと出来るなんて・・。」
 秋子は妖しく微笑んだ。
「お父さんに会うまでは花使い、魔聖母秋子と呼ばれてたのよ・・・。」
「花使い・・?」
「そう・・・。とりあえず二人とも眠りなさい・・。ゆっくりと・・。」
 あゆと名雪はばったりと倒れた。
「こんな花程度では負けないわ・・・。」
 名雪の小宇宙がはじけた。
 輝きと共に名雪は立ち上がった。
「・・・・・、びっくり・・。確かにセイントの血をひいてはいるけど・・。」
「私の小宇宙の前では花の力など無意味だよ。」
 名雪は誇らしげに呟いた。
 秋子は、嬉しそうに微笑んだ。
「その台詞、お父さんにそっくりね・・。懐かしいわ、あの人とも最初の出会
いは敵同士だったわ・・。でもね、その勝負に勝ったのは私よ・・。」
 秋子は、懐から一つの瓶を取り出した。
「ジャム・・?」
 瓶の中は赤いジャム状のものが入っていた。
「これは私の相棒よ・・・。謎花から作ったジャム・・なぞジャム・・。」
 秋子がふたを開けてジャムを地面に垂らした。
 ジャムが地面に落ちると煙がででいつしか煙は人の形を取った。
 そしていつの間にかまるで血のように赤い色の人形が立っていた。
「紹介するわね・・彼女はの名は雪・・。花から生まれし、人形であり
私の相棒、その名、雪。」
 人形、いや雪は優雅に礼をした。
「ふふっ、驚いてるわね。あなたの名前はこの子からとったのよ。だから
この子はあなたの姉のようなものよ。」
 名雪は憮然とした顔をした。
「そんな姉さんいらない・・!」
「了承・・もう言わないわ・・。あらっ・・。」
 ふと秋子が、あゆの方に目をやるとあゆの姿はなかった。
  その瞬間、空中から秋子にあゆが人形を奪おうと襲いかかった。
  しかし、秋子は流れるような動きでそれをかわした。
「あら、あゆちゃん・・幻影で逃げたの・・やるわね。」
  秋子は、楽しそうに微笑んだ。
「ボクと祐一君とは運命で結ばれてるんだよ。」
 ぴくっ。秋子と名雪の額にちょいしわが寄った。
「ふふっ、そんな戯言は雪を倒してから言ってね・・。」 
 その言葉と共に雪は空中に跳んであゆに襲いかかった。
 あゆは逃げ切れず雪に吹き飛ばされた。
「あゆちゃん!ねこねこ流星拳。」
 名雪の音速の拳が雪に襲い掛かる。雪はよけられず全てくらいバラバラ
の花びらとなって散った。
「お母さん・・私の勝ちのようね。」
「ふふっ、まだ早いわよ。」
  秋子がそういうと、ばらばらになった花びらが一つになった。
「そんな拳じゃ雪には勝てないわよ。」
 雪は元に戻るとすかさず名雪に襲いかかった。
「くっ・・ねこねこ流星拳!」
 今度は雪は名雪の拳をすべてよけて名雪に詰め寄った。
「そんな・・!」
 雪の拳が名雪を吹き飛ばして名雪は地面をバウンドして気絶した。
「ごめんなさい。さて、いきますか・・。」
 立ち去ろうとした秋子は、ふと気配を感じて名雪の方を見た。
「いくらなんでも雪の一撃をまともにくらって立ち上がるなんて・・。」
 秋子は、いつのまにか立ち上がっている名雪に驚いた。
 その一瞬に、横からあゆが出てきて人形を奪い去った。
「あっ・・。」
「秋子さん、ごめんなさい!」
 あゆは、超高速で空中を逃げ去っていった。
 ふと秋子が名雪の方を見るとさっきの一撃で倒れている名雪がいた。
「そう・・・幻影だったの・・・。これはしてやられたわね。まあ、私の方が
上手だけど。」
 秋子は思わせぶりな笑みを浮かべた。

「はぁ・・・はぁ・・・・、ここまで逃げれば大丈夫ね。」
 あゆは、荒い息をつきながら人形をぎゅっと抱きしめた。
 その瞬間人形は、花びらになって砕けた。
「そんな・・・・偽物・・・。」
 あゆは呆然となって、呟いた。

「祐一・・私の名前覚えてる・・。」
「祐一・・遅刻するよ・・。」
「祐一・・これでも私陸上部なのよ・・」
 気絶している名雪の脳裏に、祐一との思いでが走馬灯のように巡っていた。

「祐一・・祐一・・祐一・・・!」
 名雪の小宇宙が一気に高まりはじけた。
 その瞬間名雪は黄金の輝きを放って立ち上がった・・。

「あら・・、凄い気ね。でも雪には勝てないわよ。」
「今なら勝てるわ。」
 名雪は、黄金の輝きを込めて技を放った。
「ねこねこ光速拳!!」
 拳は音速を超え、光速すらも超えた。
「花びらに砕けるならその花びらも全て砕いてみせる!」
 名雪の言葉に、秋子はくすっと笑った。
「そう甘くはないわよ・・雪は・・・。」
 名雪の拳に反応して雪はすべての拳を打ち返した。
「な・・。全て防がれるなんて・・。」
「防いでるだけじゃないわよ・・。」
「えっ・・・。」
 名雪は自分の手を見た。かすかにその手は凍り付いていた。
「雪の名は伊達じゃないということよ。雪は、氷を操るのよ。雪、とどめよ。」
「了承・・。」
 秋子の言葉に、はじめて雪が口を開いた。
「ダイアモンド・ダスト!」
 雪の台詞と共に雪は、氷の拳を名雪にはなった。
「あっ・・・・。」
 名雪は、雪の拳を防ぎきれず地面を転がり再び気絶した。
 秋子は再び名雪が立ち上がらないのを確認して、名雪に上着をかけてやって
からその場を離れるのであった。

                                   続く・・・・・・のですか?
予告
 同じ想いをして欲しくなかった。
 だから最初は厳しい言葉を使った。
 でも、先輩はそれを乗り越えて奇跡を見せてくれた。
 私なんかじゃ先輩とはつりあわない・・・。
 そう思っていた・・。
 だから告白することができなかった・・・。
 それに先輩の周りには素敵な女の人がたくさんいた。
 でも、諦められなかった。
 どうしても先輩のことが好きで好きでたまらなかった。
 そして、知ってしまった。あの人形を持ったものが先輩と付き合えるって。
 あの人形を持って告白すれば私と付き合ってくれるかもしれないことを。
 ならばあの人形を手に入れよう。たとえどんな事をしても・・・・・。
                               第八章 最後の参加者 美汐

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