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「KANOM ロワイヤル」 第六章 常笑の少女、佐祐理

 弟を失って寂しかった・・。
 でも舞と出会った・・。心の寂しさが少しずつ埋まるのを感じた。
 そして、祐一さんと出会った。
 祐一さんは私の寂しさに気づき優しく包み込んでくれた・・。
 もう祐一さんなしの生活など考えられない・・。
 でも・・舞も祐一さんと結ばれていた・・。さらに他の人とも・・。
 私は泣いた・・。自分だけの祐一さんでなかったことに・・。
 舞の想いも私に負けないものだと知ったことに・・。
 でももう泣かない・・・そして負けない・・・祐一さんを私のものにする・・・・。
 たとえ舞と争う事になろうとも・・

第六章 常笑の少女、佐祐理


 起きなさい・・・。
 起きるのだ・・。
 汝は、それでも天つ神の使いなのですか・・・。
 ただの人間にやられるとは不甲斐ない・・。
 汝は、九尾の狐、誇り高き天つ神の使いなるぞ!

 倒れていた真琴を煌く光の玉が現れ次々と真琴の身体に吸い込まれるように
消えていった・・。
 そして、ぼんやりと真琴の身体が変貌し始めた。
 人の体から狐へと・・九つの尾をもつ狐へと・・。
 すっかり狐へと変貌したとき、狐の目が開いた・・。
「こーん!」
 狐は大きく嘶くとすっくと立ちあがった。

 さあ・・汝の真の力を我らに示してみよ!人に負けるはずない、その力を!!

 狐が強力な光に包まれると身体が再び真琴へと変貌していった。
 だが先ほどとは衣装が異なっていた。まるで巫女のような衣装になっていた。
 そして腕には、金色に輝く鈴のついた腕飾りを付けていた。

「人形を取り戻す!絶対に!祐一は私のものなの!」
 真琴の脳裏には、あの丘での二人だけの結婚式のシーンが浮かんでいた・・。
「だって・・私と祐一は・・もう・・二人で生きると誓ったのだから・・・。」
 真琴は、軽くジャンプするとそのまま重力に逆らうが如く空中へと浮かんで
いった・・・。
 月も雲に隠れているというのに金色の鈴は怪しげな輝きを放っていた。

 一人の少女がにっこり微笑んで月を眺めていた。
 少女は月夜にいるより日だまりの方が似合いそうなそんな雰囲気を持っていた。
 そこに逆に暗闇が似合いそうな少年が少女の前に現れた。
「お姉ちゃん・・手に入れたよ・・。」
 少女の頬がうっすらと桃色に染まり、満面の笑みを浮かべた・・。
「一弥・・・ありがとうです。」
 少女は、少年に抱き着き優しく抱擁した・・。
 一弥と呼ばれた少年は、照れたような少年らしい表情をした。
「お姉ちゃんのためなら僕は何でもやるよ・・。その表情を曇らすものは全て排除し
てでも。」
 少年は、少年らしからぬ厳しい表情をした。
「一弥、そんなこと言わないで下さい。私は、一弥と今話せるだけで幸せですよ〜。」
「でも祐一さんといるお姉ちゃんは、今よりずっと幸せそうだった。僕だけじゃお姉
ちゃんを幸せにできない。だから祐一さんとお姉ちゃんと必ず一緒にして見せるよ。」
「一弥・・・・・。」
 少女は、少年の胸に顔を埋めた・・・。その肩はかすかに震えていた。

「なら、急いで祐一さんの所に行きましょうか。他の人も狙っているみたいですし。
ふふっ。」
 少年から離れた少女は、もう満面の笑みを浮かべていた。
 かすかにその瞳は赤くなっているのを少年は、悲しげに見ていた。
「そうだね・・。急ごうか、佐祐理お姉ちゃん。」
 そう言うと少年は暗闇に消えていった。
 佐祐理は、そんな一弥に驚きもせず人形をかき抱き明るく学校へと歩き出した。

 まるで炎の固まりのような輝きと共に真琴は飛翔していた。
 そして、真琴の目は、通常ならわからないような遠くなら佐祐理の影をみかけた。
「栞!?」
 真琴は、近づいていきその影が栞でないことにがっかりした。
 しかし、その胸に人形があるのに気付き逆に小躍りしたくなった。

「待って!」
 空中から真琴は佐祐理の前に立ちふさがった。
「あらあら、空中から真琴ちゃんが現れるなんて不思議なことがあるものですね。」
 佐祐理は、まるで危機感のない声で呟いた。
「その人形を渡して!」
「あはは、駄目ですよ。これは祐一さんと幸せになるために必要なものですから。」
「えっと・・・。誰だっけ?確か祐一の友達よね・・。」
 佐祐理は、真琴のことを覚えていたが真琴は佐祐理の事をよく覚えていなかった。
「佐祐理です。よろしくね、真琴ちゃん。」
 この状況でにこにこしている佐祐理を訝しげに見ながら真琴は叫んだ。
「あなたも、祐一を狙っているみたいだけど、祐一は渡さない!」
「あはは・・、でも人形は渡しませんよ。」
「なら力ずくで奪うだけよ!痛い目にあいたくないなら渡した方が賢明よ。」
 真琴は最後通牒のつもりで、厳しく言い放った。
「脅しても駄目ですよ。」
「脅しなんかじゃないわ!」
 真琴の掌から炎が生まれた。それを佐祐理に放とうとしたときに不意に真琴の目
の前に一弥が現れて真琴の腕を取った。
「な!?一体どこから現れたのよ!」
 一弥は真琴の質問に答えることなく真琴の腕を強く握り締めた。
「イタっ・・・・。」
「一弥、あまりひどいことしないでね。精々気絶させるくらいにしといてください。」
 佐祐理は、笑いながらとんでもないことを口にしていた。
「馬鹿にしないで!」
 真琴の周りを炎が渦巻いた。真琴は炎で一弥が離れると思っていた。
 しかし一弥は離れるどころか平然としていた。
 なぜなら炎は、一弥を傷つけることなくすり抜けていた。
「なんなの一体!」
 真琴はヒステリックに叫んだ。
「無駄ですよ・・・。だって一弥は幽霊ですもの。」
 佐祐理は、相変わらずにこにこしながら答えた。
「幽霊!?そんな非常識よ!」
 一弥はその台詞に顔を顰めた。あんたにはいわれたくないよ。そんな表情だった。

 うっ・・・うっ・・・
 暗闇の中、少女は一人泣いていた。
「祐一さ・・ん・・・、ううっ。」
 暗闇にいた少女は、佐祐理だった。
 佐祐理は泣いていた。祐一と幸せの絶頂にいたのに、それを全て打ち壊されたのだ
から 泣いても仕方ないことだろう。
 そこには、いつもの佐由里の面影は全くなかった・・。
 いや・・祐一や舞と逢う前の佐祐理に戻ったというべきだろうか。
 弟、一弥の死と共にこの少女の笑顔は失われた。
 そんな彼女を救ったのは、舞だった。佐祐理の唯一の友達で親友。
 そして、その笑顔を完全に取り戻したのは祐一の優しさだった。
 だが、それを全て叩き壊したのも祐一の優柔不断と舞の想いが原因だった。
 舞と祐一も強く結ばれていた。自分と同じように・・。
 その事実が佐祐理を叩きのめしていた。
「お姉ちゃん・・泣かないで・・。」
 佐祐理しかいないはずの部屋で不意に声が聞こえた。
 佐祐理は不思議そうに周りを見回した。
 でも誰の姿も見えなかった。
「僕はここだよ・・。お姉ちゃん・・。」
「その声は一弥・・・?」
「そうだよ・・僕だよ・・。よく見て・・。僕は目の前にいるよ。」
「何にも見えないよ・・。」
「見えるはすだよ・・・。お姉ちゃんにはその力があるのだから・・・。
 それどころか僕を実体化させることもできるはずだよ。シャーマンとしての才能を持
つお姉ちゃんなら。」
「あっ!」
 そう言われると佐祐理は、一弥が見えるような気がした。
 そう思ったら次第に一弥の姿がはっきりしてきた。
「お姉ちゃん・・、僕はずっとお姉ちゃんを見ていたよ・・。ずっとこうして話したかった。」
「一弥・・。」
 佐祐理は、一弥を抱きしめようとしたがの手は見事にすり抜けた。
「まだ駄目だよ・・。もっと力を付けないと実体化までは・・。」
「そうなの・・。でもなんで一弥にそんな知識があるの?」
「倉田家は、本来シャーマンの家系なんだよ。一子相伝の・・。だから僕はシャーマン
の知識がある・・。それを誰かに伝える前に死んじゃったけど・・。」
 佐祐理は、初めて聞くことに目を丸くした。
「そんな事お父様から聞いたことないわ・・。」
「だって僕はおじいちゃんから直接伝授されたからね。お父さん達はこの事は知らな
いよ。」
「そうなの・・。」
「そう・・・。お姉ちゃん・・・、強くなるんだよ。そして祐一さんを手に入れよう・・。お姉
ちゃんの幸せのために・・。」
 佐祐理の瞳から、一筋の嬉し涙が頬を伝った。

 ちりん・・・。
 真琴の鈴がなった・・。
「ぐっ・・。」
 急に一弥は苦しそうに腰を折った。
 真琴は、一弥から離れるように後ろに飛んだ。
「ふう・・痛かった。どう、鈴の音は・・破邪の力のある鈴の音は幽霊にはきついは
ずよ。」
 佐祐理の表情がにこにこしたまま固まった。
 いわゆる、目は笑っていないという状態だ。
「一弥・・来て・・、このままだと一弥が苦しんじゃうです。」
 一弥は、ふっと消えると佐祐理の前に現れた。
 そして二人は互いの手を合わせた。
「いきます!憑依合体!オーバーソウル発動!」
 二人を橙の淡い光が包む。
 そして、その光の先には煌びやかな衣装を着た佐祐理がいた。
「魔女っ娘さゆりん!いざ、見参。あはは・・。」
「お姉ちゃん・・・古代巫女の衣装だといっているのに・・。」
 どこからともなく一弥の声が聞こえた。
「あはは・・いいじゃないですか。だって、佐祐理、魔女っ娘って憧れでしたし。」
「何が魔女っ娘よ!馬鹿にしないでといったのに。」
 真琴は、怒って炎を佐祐理に向けて放った。
 佐祐理は、錫杖、いや佐祐理に言わせると魔法ステッキを取り出した。
「えいっ。」
 錫杖を佐祐理が振ると光の煌きが現れ佐祐理の正面に膜を作った。
 炎は、その膜にあっさりはじかれた。
「オーバーソウルは、全ての元素を越える存在です。炎なんかには負けないです。」
 佐祐理の明るい声は、まるで場違いで真琴の癇にさわった。
「オーバーソウルか何か知らないけど、神の力の方が上よ!」
「あはは・・・、人は神を越える事だってできますよ。人は成長するものですから。」

 人が神を越えるなどとなんと生意気な・・
 愚かしい娘だ・・・人は神を越えられはせぬ・・

 佐祐理の台詞に反応し、空気がふるえ、どこからともなく声が響いた。
「魔女っ娘は例え神が相手でも負けませんよ。だってそれが定番ですし。」
 まるで根拠のない台詞だった。だが、その明るい表情で断言されるとまるで
 それが事実のように錯覚させられる。

「定番だがなんだか知らないけど勝つのは私よ!」
 真琴から放たれた炎の蛇は佐祐理を囲むように渦巻いた。
 佐祐理は、炎がすぐに襲ってくると思い身構えた。
 しかし、炎は佐由里を囲んだまま動こうとしなかった。
「あらあら、この蛇さん。眠っているのかしら?」
「ふふん、私だって多少は頭を使うのよ。そろそろ息苦しくなる頃よ。」
 佐祐理は、感心したように肯いた。
「なるほど、真琴ちゃん、賢いですね。炎で囲めば確かに中心の酸素はなくなるといわ
けですね・・。」
 ピンチのような気がするが佐祐理は、相変わらず平然としていた。
「うーん、困りましたね・・。息苦しくなってきました。」
 本当に困っているのか、相変わらず佐祐理は笑っていた。
「あらあら・・うーん。」
 ぱったり。前触れもなく佐祐理は倒れた。その手から人形がこぼれ落ちた。

「ふふん、口ほどにもないわね。」
 真琴は、喜んで人形を手に取った。
 しかしその瞬間人形はゴムのようにぐにゃりと崩れ、縄のような形状と化し真琴にまと
わり付き身動き取れないようにした。
「え!?」
 真琴は、おもわず倒れている佐祐理の方に視線を向けた。
 そこには平然とした顔で立っている佐祐理がいた。
「あはは・・、こんなに簡単に引っかかってくれるとは思いませんでした。」
「倒れたのは、芝居だったのね・・。」
「あはは、その戒めは炎では切れませんよ。佐祐理の勝ちですね。」
 真琴は、悔しそうに佐祐理を睨んだ。
「まだ、負けてない!この姿は見せたくなかったけど・・。」
 真琴の目が、怪しく光った。そして、その光は全身を包み込み九尾の狐
へと変化させた。
「可愛い狐さんです♪そうですか、真琴ちゃんは狐さんだったのですか。」
 戒めから逃げられたというのに佐祐理は、なんか嬉しそうだった。

 狐の目が光ると空に暗雲が立ち込め雷が佐祐理を襲った。
 佐祐理の手から素早く棒が現れ、佐祐理が手を放すと勝手に地面に刺さり、先端は
雷に向かって伸びていき避雷針として雷と地面を通電させた。
「その姿になると雷も操れるのですか・・。」

 雷だけでないぞ・・・。

 天つ神の声に反応するか如く、真琴は一声鳴いた。
 すると佐祐理の下の地面が割れた。
「あらあら。」
 しかし佐祐理は、落ちることなく浮いていた。いや、よくみると佐祐理の足元に橋の
ようなものができていた。
 さらに真琴が一声なくと、先ほどあいた亀裂から水が噴き出し、水の龍と化して佐祐
理に襲いかかった。
「さゆりん防御!」
 緊張感のない声で佐祐理が叫ぶと佐祐理の前に壁ができ水を防いだ。
「すごい多彩なんですね、狐さんは。でも魔法少女さゆりんは無敵ですよ。」

 人のくせに生意気なことを言う。
 九尾の狐は、九つの法力を持つ。その力、絶大なり。
 一つ、空の力。自在に飛翔する力。
 一つ、雷の力。雷雲を呼び雷を操る力。
 一つ、火の力。自在に炎を操る力。
 一つ、水の力。地面の下の水脈から水を呼び、自在に操る力。
 一つ、地の力。大地を割る力。
 一つ、風の力。竜巻を起こし操る力。

「こーん!」
 天つ神の台詞を遮るように真琴が嘶くと風が渦巻き、あっという間に竜巻となって佐祐
理に襲いかかった。

「あらあら、これは防御できそうにないですね。なら狐さんが空けた
穴にでも隠れさせてもらいますか。」
 佐祐理は、先ほど真琴が割った亀裂に隠れて竜巻をやり過ごした。

 馬鹿な娘よ・・自ら死地に飛び込むか・・・

「こーん!」
 真琴の声と共に亀裂があっという間に元に戻ろうとした。
「あはは・・やっぱりそうきますか・・。」
 佐祐理は、相変わらず平然としていた。なぜなら既に亀裂が閉じないように四方八方
を囲むように壁ができていた。

「さて、そろそろさゆりんも本気でいきますよ・・。」
 佐祐理は、地上に飛び出て錫杖(魔法ステッキ)を空に掲げた。
「さゆりん、最大奥義!あ・・・・、あれっ・・・。」
 不意に佐祐理は、膝をついた・・・。
「おかしいです・・・急に力が・・抜ける・・。」
 そのまま佐祐理は、地面に倒れ眠るように瞳を閉じた。
 そして、真琴の方も倒れて元の人の姿に戻っていた・・。

「ごめんなさいね・・・。私の我が侭とはわかっているのだけど。でも、どうしても私には
祐一さんが必要なの・・・。」
 暗闇の中から手が伸びて人形を掴んだ。
「せめていい夢を見てね・・。」
 人形はそのたおやかな手と共に暗闇へと消えていった。

                                   続く・・・・・・はずだぁ?
予告
 最初は可愛い息子のようなものだった。
 でも、逢うたびに彼は逞しくなっていった。
 あの人がいなくなり、私の心に空いた穴を少しずつ彼は埋めてくれた。
 娘が彼を好いていることは知っている。
 本当はこんな事はいけないことだと知っている。
 でも、この気持ちは止められない。
 彼を愛することを止めることは私にはできない。
 娘達と争うことになろうとも私には彼が必要なのだから。
                             第七章 魔聖母、秋子

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