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「KANOM ロワイヤル」 エピローグ 戦場と化す学校 〜屋上〜

エピローグ 戦場と化す学校 〜屋上〜

 きぃーっ。軋む音と共に屋上への扉が開かれた。
 「祐一君・・来たよ・・。」
 あゆは油断すると倒れそうな身体を無理矢理動かし屋上へと足を踏み入れた。
 ガサゴソ・・。
 衣擦れの音がしてなぜか洋服が乱れてだらしない格好の祐一が姿を現した。
 「あ、あゆ・・。どうしたんだ、ぼろぼろじゃないか・・。」
 祐一は、あゆの格好に驚いた声を上げた。
 明らかに自分の蒔いた種がどうなるか想像してなかったようだ。
 「祐一君は気にしなくてもいいの・・これでボクが祐一君の恋人よね・・。」
 「えっ、あっ、そ、そうだね・・。」
 祐一は、ちらりと後ろに視線をさ迷わせながら答えた。
 あゆはその態度に何かおかしなものを感じた。
 「祐一君・・・そこに誰かいるの?」
 あゆは、屋上の建物の陰に人の気配を感じた。
 「えっ、いや・・・誰も・・その・・・。」
 あゆがすかさず覗いてみると、そこには上半身はだけたあわれもない
恰好をした香里がいた。
 「あはは・・あの相沢君が相談にのって欲しいというからきたんだけど・・
その・・・ね・・つい、ほだされちゃって・・。ここ、寒かったし・・。」
 香里が恥かしげに俯いた。
 「ゆ〜う〜い〜ち〜く〜ん〜。」
 あゆがまるで地獄から響いてくるような低い声で呟いた。
 「は、はい・・。」
 祐一は、おもわず2,3歩下がった。
 「ボクが・・いえ、みんながどんな想いでここを目指したか分かってるの?
どんだけ祐一君のことを想っていたか分かってるの?」
 あゆは、視線だけで人を殺せそうな形相で祐一に詰め寄った。
 「そうよ!許せない。」
 腹部を押えつつ真琴が現れた。
 「そのために私・・秋子さんを・・。」
 真琴は唇をかみ締めて俯いた。
 「あらっ・・勝手に殺さないで欲しいわ。」
 泥だらけの恰好で秋子が姿を現した。
 「秋子さん・・!」
 「雪が私に覆い被さってくれたおかけでなんとか生きてるわよ。」
 真琴は秋子に抱きつきがむしゃらに泣いた。
 「ごめんなさい・・ごめんなさい・・秋子さん・。」
 「了承・・・いいのよ。それに、許せないのはどうも祐一さんのようですし。」
 秋子はちらっと祐一を見た。
 祐一はさらに一歩後ろに下がった。
 「秋子さん・・もしかして怒ってます?」
 秋子はにっこりと微笑んだ。
 「ええっ、とっても。」

 ぴしゃん。
 「私も怒ってます。」
 全身びしょぬれで寒そうな様子で栞が来た。
 「思ったより早く氷から抜け出せたのね・・。」
 「凍る瞬間糸で体を包んだので・・・。余力がなくて抜け出るのに時間が
かかってしまったけど・・・。」
 秋子と話していた栞はきっと祐一を睨み付けた。
 「おねぇちゃんに手を出す祐一さんなんて嫌いです。」
 また一歩、祐一は後ろに下がった。

 「祐一の馬鹿っ・・・。」
 埃まみれで名雪が現れた。
 「あゆちゃん・・ありがとう。崩れる体育館から助けてくれたのはあゆちゃん
だよね・・・。」
 あゆは否定しようとしたが、その照れた表情が肯定を表していた。
 「祐一のこと信じていたのに・・。」
 祐一はまた一歩後ろに下がる。

 「祐一、殺す。」
 「あはは・・、許さないですよ。」
 「先輩・・。」
 お互いを支えあうようにして舞と佐由理と美汐が現れた。
 「あはは・・、あんなこと言っておいて栞ちゃん、ちゃんと急所外してたよね。」
 栞は真っ赤になって否定した。
 「そんなことありません。」
 がちゃん。
 今一歩下がった祐一はついにフェンスにぶつかった。
 「良かった・・・全員無事だったのね・・。」
 あゆが感極まったように涙をこぼした。
 「となるとあとは祐一君をどうするかだねっ。」
 「え、いや、ちょっと、みんな、ねぇ。落ち着こう?」
 祐一は、あたふたと慌てふためいた。

 「あはは・・っ、やっぱり市中引き回しの上打ち首獄門ですよね。」
 「去勢。」
 「簀巻きにして海にすてましょう。」
 「捨てるならコンクリート詰めの方がいいですよ。」
 背筋が凍るような台詞に祐一は青ざめた。
 「まあまあ、ここは祐一さんに挽回のチャンスをあげましょう。」
 はかったかのようなタイミングで秋子は会話を止めた。
 「どんなチャンスなの?」
 「祐一さんには、これから毎日交代で私たちと付き合ってもらうのよ。
みんなを平等に愛してもらうのよ。」
 「え、でも・・。」
 「だって・・もう祐一さんのためとはいえ争いたくないのはみんなもいっしょ
だと思うの。とすれば祐一さんをみんなで共有するのが一番だと思うの。」
 「でもそれじゃあ、祐一が持たないんじゃ・・。」
 「それはこんな状況にした祐一さんへの罰よ。祐一さんには死ぬ思いで頑張って
もらわないと・・。ね、いいでしょう、祐一さん。」
 祐一は、18の瞳に見つめられ頷くことしかできなかった。

                                  今度こそ・・終わり・・。

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