スライム研究序説
(単行本『すばゲー』掲載予定)

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『ドラクエ』で最も有名なモンスター、スライム。
『ドラクエ』をまったくやったことのない人も、
とがった頭をして、愛敬のある顔で、にへら〜と笑うあのキャラクターを、
どこかで一度くらいは目にしたことがあるはずだ。
縫いぐるみ、Tシャツ、ボールペン、消しゴム、マグカップなど、
数多くのグッズも作られた。
これだけの人気者でありながら、このスライムというモンスターには、案外ナゾが多い。
中身は液体なのか、固体なのか?
どのくらいの大きさなのか?
あの体で、どうやって勇者たちに攻撃するのか?
このコーナーでは、エニックスの出した『ドラクエ』関連書籍をもとに、
この不可思議な生き物の実態に迫ってみようと思う。


1.『ドラクエ』以前

スライムの起源は、どうもはっきりしない。おそらくアメーバからの連想と思われる。
映画『人食いアメーバの恐怖』(1958)のブロッブ(1)や、
ラブクラフトの小説『狂気の山脈にて』(1931)に登場するショゴス(2)が、
スライムの原形としては有名なところ。
また、モンスターの解説書として有名な『幻想世界の住人たち2』では、
ロバート・E・ハワードの『石碑の呪い』(1969、創元推理文庫『コナンと石碑の呪い』)
に出てくる不定形の怪物が、「スライムの姿を一番よく表している」としている。
この怪物は、ゼリー状の触手で生物に絡みつき、その肉体を消化する。
強い磁力を持つ石柱に捕らわれたキンメリアのコナンが、この怪物に襲われたが、
すんでのところで難を逃れ、火を用いて退治している。

こうした流れを受けて、テーブルトークRPGの元祖『D&D』(TSR)に登場したのが、
グリーンスライムを始めとする不定形生物群である。
『D&D』のスライムは、決して弱いモンスターではない。
グリーンスライムは普段、迷宮の天井にへばりついている。
そして下を何か生き物が通ると、その上めがけて落ちてくる。
グリーンスライムは強力な同化能力を持っており、
石以外のあらゆる物質を溶かすことができる。
スライムに取りつかれた獲物の体は、次第に溶かされていき、
やがてスライムと同一化してしまう。

不定形の生き物だから、剣やオノによる攻撃で、ダメージを受けることがない。
スライムに取りつかれた人間を助ける唯一の方法は、
たいまつなり魔法なりで、スライムを焼いてしまうことである。
人間のほうもヤケドを負うかもしれないが、致しかたない。
しかも、倒したところで得られるものはない。宝箱や金貨を持っているはずはないのだ。
スライムは金属も木も溶かしてしまうのだから。
まさにハイリスク、ノーリターン。ヤな敵である。

『D&D』にはほかにも、ブラックプティング(火以外で攻撃されると分裂する)、
オーカージェリー(武器や電撃で攻撃されると分裂する。
火か冷気でしかダメージを受けない)、
グレイウーズ(酸で武器やよろいを溶かす。火や冷気に強いが武器攻撃に弱い)、
ジェラティナスキューブ(半透明なゼリー状の立方体。
部屋いっぱいに詰まっていることがある)など、数多くの不定形生物が登場する。
どれも一筋縄ではいかない強敵だ。

こうしたスライムの特徴を、かなり忠実に再現したコンピューターRPGが、
『ファイナルファンタジー』(スクウェア)である。
このゲームのスライムは、剣で切りつけてもほとんどダメージを受けない。
倒そうと思ったら、魔法を使うしかないのだ。
余談だが、『ファイナルファンタジー』シリーズ、特に『1』は、
モンスターや魔法、シナリオなどで、『D&D』を強く意識しているようだ。
これに関してはいずれ機会があれば取り上げてみたい。
このように、もともとスライムは、決して弱いモンスターではなかったのだ。
ではいつからこんなに弱くなってしまったのだろうか?

弱いスライムの元祖は、『ウィザードリィ』(サーテック)の
「バブリースライム」と考えて間違いないだろう。
ワードナの迷宮に入ってすぐ、地下1階に出現するのだが、
同じ階に出てくるオークやコボルド
(ともにテーブルトークRPGの定番ザコキャラ)よりはるかに弱い。
剣で簡単にダメージを与えられるし、戦う相手をスライム化する能力もない。

『ドルアーガの塔』(ナムコ)のグリーンスライムも、
ゲーム開始後最初に出てくるザコモンスターだった。
もっともこちらのほうは、剣を突き刺されてもダメージを受けないことがあり、
戦う相手を一撃で倒せるなど、
『D&D』のグリーンスライムの恐ろしさの片りんは見せている。
でも止まっているところを剣で突けば一発で消えてしまうので、
やっぱり弱いことには変わりがない。

コンピューターRPG(除『ファイナルファンタジー』)のスライムは、
どうしてこんなに弱いのか?
これはあくまで私の推察にすぎないが、
彼らは進化の過程にある生き物なのではないだろうか。
『D&D』のスライムは、確かに戦闘では強い。しかし生物としては致命的な問題がある。
液状の体を持つがゆえに、湿った所でしか生きられないのだ。
だから迷宮の中ならだいじょうぶだが、ひとたび陽光の下にさらされると、
たちどころにひからびてしまうだろう。
これでは広い範囲の土地に子孫を残すことができない。

そこで現れたのが、バブリースライムと考えられる。
この生き物は、液状の体を包む薄い表皮を形成して、
体が乾燥するのを防ごうとしたのではないか。
表皮は固体だから、剣で突かれればダメージを受ける。
また、表皮が邪魔をして、他の物体を溶かすことができなくなっている
(たぶん何か別の方法で、体内に栄養分を取り込んでいるのだろう)。
バブリーなのは呼吸して吐き出された(あるいは光合成で作られた)空気が、
表皮の下に潜ってしまうからかもしれない。

バブリースライムは、表皮が完全ではなかったようで、
とうとう地上に出ることはできなかった(『ドルアーガの塔』のスライムの表皮は、
突き刺しても死なないことがある点から推測するに、おそらくもっと不完全である)。
しかしスライムはさらに進化を遂げて、
『ドラゴンクエスト』の時代、ついに野外に姿を現すことができたのだ!
そう、『ドラクエ』のスライムは、スライムの究極の進化形なのである。


2.『ドラクエ』のスライムについて

さてここからは、その“究極の進化形”であるところの『ドラクエ』のスライムを、
徹底分析してみよう。

2-1.スライムの中身

まずはスライムの中身について。
表皮の中身はグリーンスライムのような液状の物質なのか、
それとも中まで固形(ゼリー状)なのか?

『ゲームブックドラゴンクエスト3』では、勇者に倒されたスライムが、
真っ二つになっている。ということは中まで固体なのである。
同様にゲームブックの『1』では粉々にふっとび、『4』ではスパスパとスライスされ、
『2』に至っては、「棒でかきまぜた後のゼリーみたいに」と、
ゼリー状であることがハッキリ記されている。
また『ドラゴンクエスト5公式ガイドブック』にも「ゼリー状」と書かれている。

一方『ドラゴンクエストモンスター物語』では、スライムの中身は液状である。
その証拠に、毒の沼の毒気で表皮が破れ、
中身がドロリと出てきたスライムがバブルスライムなのである。
また『ドラゴンクエスト2公式ガイドブック』では、「半液体状」と書かれている。

ユニークなのが『小説ドラゴンクエスト』。
勇者アレフが切りつけると、スライムは「血の塊になって爆発」したのだ!
つまり、スライムの中身はニトログリセリンだったのである。

2-2.スライムの生殖

元がアメーバなのだから、本来スライムは分裂して増えるはずである。
実際『D&D』のブラックプティングやオーカージェリーは、攻撃を受けると分裂する。
だが『ドラクエ』のスライムは、どうも両性生殖で増えるようなのだ。
その証拠に、スライムにはオスとメスがいる
(『小説ドラゴンクエスト4』『モンスター物語』より)。
『モンスター物語』によると、元は分裂で増えていたが、
やがてオスとメスに分かれたのだという。

また、スライムも年をとる。
子供のスライムは、人間の子供のこぶしよりほんの少し大きい程度
(『小説ドラゴンクエスト5』より。また、『柴田亜美のほん』に出てくるスライムも、
同じくらいの大きさ)だが、
成体になると人間の腰くらいまでの背たけになり(『小説ドラゴンクエスト』より。
また『小説ドラゴンクエスト5』では、子供の胴体くらいの大きさ)、
老スライムになると、さらにその十倍以上の大きさになる(『モンスター物語』より)。
寿命については、『小説ドラゴンクエスト5』でスライムが、
「人間って、寿命短いからなぁ」と言っていることから、
人間よりかなり長生きと考えられる。

2-3.スライムの攻撃方法

どう見ても攻撃手段のなさそうなあの体。
どうやって勇者を攻撃しているのか調べてみると、
やはり一番多かったのは、体そのものをぶつけていく“体当たり”。
ゲームブックの『3』『1』『5』などで記述がみられた。

『小説ドラゴンクエスト』では、あのツノを勇者に突き刺そうとしていた。
あんな柔らかそうなツノで、果たして攻撃が成り立つのだろうか?
でも『ゲームブックドラゴンクエスト6』では、
ぶちスライムのツノが腕をかすめただけで、勇者がHPを1失っている。
あのツノは見た目に反して、かなり鋭利な武器なのかもしれない。

また『小説ドラゴンクエスト5』では、
スライムが子供時代の勇者にかみつこうとしている。
スライムにも歯があるのだろうか?
それともグリーンスライムの同化能力が、わずかに残っているのだろうか?

2-4.スライムの知能

『ドラクエ4』には、しゃべるスライムとしゃべるホイミスライムが登場している。
『4』以降スライムは、人語を理解し、話すことができるようになったのだ。
ただしゲームブックの中では、スライムはもっと以前からしゃべっていた。
『3』では「ぽよよーん」と、言葉だか鳴き声だか擬態語だかわからない声だけだったが、
『2』になると、攻撃を仕掛けた勇者に向かって、
「ばかぴょん」と、あざけりの言葉を飛ばしている。
(注・『ドラゴンクエストゲームブック』は、『3』『2』『1』の順に発売された)
『1』になるとスライムはさらに進化する。
しゃべるだけではなく、なんとワナを仕掛けているのだ。
「木の幹にロトの紋章(3)が彫りこんであって、
その下に手が入るくらいの小さな穴がポッカリと開いている」
勇者がその穴に手を突っこんだが最後、抜けなくなってしまう!
こんな高度なワナを作れるとは、スライムはなんと賢いモンスターなのだろうか!
もっとも、このワナを仕掛けたスライムは、身動きの取れない勇者に対し、
「や〜い、ひっかかった、ひっかかった、バーカ」
と言い放っただけで、何もしないで去ってしまう。
頭がいいんだか悪いんだかわからない、
大喜利における林家木久蔵師匠のようなモンスターである。

2-5.スライムの味

なんと、スライムは、食用になるらしい。
しかも、おいしいらしい。
『ゲームブックドラゴンクエスト』には、
“スライムと野菜のスープ”なる料理が登場する。
スライムは、煮ると白身魚みたいな味、生で食べるとイカのような味がするという。
また『ゲームブックドラゴンクエスト2』にも、
“スライムの照り焼き、煮込み、串焼きなどを名物とするお店”が出てくる。
私個人としては、人語を話すような生き物を、煮たり焼いたりして食べるというのは、
ちょっと御遠慮したいものだが・・・。


3.スライムの亜種について

スライムにはいろいろな亜種が存在する。
最後に、それら“スライムの仲間たち”を見ていこう。

3-1.スライムベス

まずは赤い色したスライムベス。
『ドラゴンクエスト4公式ガイドブック』や『モンスター物語』によると、
普通のスライムが草食なのに対して、ベスは雑食なのだという。
なんでも溶かすグリーンスライムへの先祖返りといったところか。

3-2.バブルスライム

バブルスライム。
『ウィザードリィ』のバブリースライムから名前を借りてきたものと思われるが、
スライムよりやや強く、毒を持っているという特徴は、
むしろ同ゲームのクリーピングクラッドに近い。
前述のとおり、毒の沼の毒気で表皮が破れたため、元来の液状の体を取り戻している
(その割に、剣でダメージを受けるので、完全な液状ではないのかもしれないが)。
バブルスライムからは薬が取れるという。
『ゲームブックドラゴンクエストU』によると、
バブルスライムの汗を集めて作られた“泡粘膏(バブルバーム)”という薬は、
「塗ればどんな傷でも毒でもたちどころに治してしまう」という。
汗を集めるためには、バブルスライムに電流を通して一晩寝かせるとよいのだそうだ。
3-3.メタルスライムとはぐれメタル

銀色に輝くメタルスライムとはぐれメタル。
どちらもたいへん守備力が高いが、守備力の高い理由が少々異なる。
メタルスライムは硬い。『モンスター物語』によると、
普通のスライムが、とけたミスリル(4)に飲み込まれ、メッキを施されたものだという。
(『ドラゴンクエスト2公式ガイドブック』には“鉄製”説あり)

一方のはぐれメタルは、別に硬いわけではないようだ。
『ドラゴンクエスト2公式ガイドブック』に、「液状の体」と記述されている。
つまり『D&D』や『ファイナルファンタジー』のスライム同様、
不定形だから守備力が高いのだ。
あの経験値の多さから察するに、はぐれメタルを倒すには、
そうとう高度なテクニックが要求されるのだろう。

3-4.ホイミスライム

『2』から登場したホイミスライムは、
普通のスライムが進化したもの(『モンスター物語』)。
足が生えたり、魔法が使えるようになったりするだけが進化ではない。
なんと、ホイミスライムは、空を飛べるのだ!
(「空中を漂う」という記述が、公式ガイドブックの『2』『3』などに出てくる)。
この能力をもっと有効に活用すれば、
少なくともザコ扱いされることはなくなると思うのだが。

3-5.海スライム

“海スライム”というスライムがいるわけではない。
ここでは『公式ガイドブック』で海スライム属に分類されている
二種類のスライムについて述べる。

まずマリンスライム。ガニラスや大王イカといった、強いモンスターに襲われても
だいじょうぶなように、貝がらをかぶり、守備力を上げるスクルトの魔法を
使えるようになったのだという(『モンスター物語』より)。

もう1種類はスライムつむり・・・ではない。
スライムつむりはマリンスライムと同じ姿をしているが、
“スライムつむり属”に属する、陸のスライムだ。
ではもう1種の海スライムは何かというと、これがなんと、“しびれくらげ”。

『2』から登場のしびれくらげは、公式ガイドブックによると“海スライム属”。
解説欄にも、「海面を漂い、触手の毒針で相手の意識を失わせるスライム」とある。
『3』の公式ガイドブックでも、しびれくらげは海スライム属。
だからこのモンスターがくらげではなく、スライムの仲間であることは間違いない。
ところが『4』以降の公式ガイドブック。
しびれくらげは海スライム属ではなくなっていた。
“クラゲ属”という属ができて、そちらに入ってしまっているのだ。
「弱っちいスライムの仲間だなんて、イメージが悪い」と判断して、
体質を変えたのだろうか?
ところがところが、『6』になると、また海スライム属に戻っている。
スライムの人気の高さに気づき、便乗しようと考えたのだろうか?
その時々の都合で所属が変わるなんて、まるでコウモリみたいなヤツだ。
だから次回作では、ドラキー属になっているに違いない。(5)

そのほかベホマスライム、キングスライム、スライムナイト(6)など、
スライムの亜種は数多い。
『モンスター物語』によると、スライムの進化の流れは、下図のようになるそうだ
(『3』までに登場したスライムのみ)。

スライムは進化のスピードが速く、新種が次々に誕生するという。
今後も『ドラクエ』の新作が出るたびに、新種のスライムが現れ、
勇者を楽しませて(?)くれることだろう。


注釈

(1)ブロッブ――映画『人食いアメーバの恐怖』
(原題はそのものずばり『The Blob』。なんと主演はスティーブ・マックイーンである)
に登場する不定形生物。人間を飲み込むごとに大きくなっていく。

(2)ショゴス――H.P.ラブクラフトの怪奇小説
『狂気の山脈にて』などに登場する不定形生物。
知的生物“いにしえのもの”によって作り出され、彼らの従者として労働を行っていたが、
後に反乱を起こす。「テケリ・リ! テケリ・リ!」と鳴く。

(3)ロトの紋章――ロトは、『ドラゴンクエスト(1)』よりも前の時代の勇者。
神から授かった光の玉を使って闇の魔王を倒し、魔物を封印した。
ロトの紋章は、『ドラゴンクエスト』関連書籍の至るところで見ることができる。

(4)ミスリル――J.R.R.トールキンの『指輪物語』に登場する伝説の金属。
『ファイナルファンタジー』や『イース』など、
コンピューターRPGにもよく出てくる。

(5)ドラキー――『ドラクエ』の常連モンスター。コウモリのお化け。

(6)ベホマスライムは味方の体力を全快させる呪文・ベホマを使う。
キングスライムは『4』から登場。8匹のスライムが合体した姿だ。
『5』から登場のスライムナイトは、小さな騎士が乗ったスライム。
といっても、騎士がスライムを見つけてまたがったわけではなくて、
どうやらスライムの頭から騎士が生えてきて(!)こうなったらしい。


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