2009年国連北朝鮮人権決議           
ASEAN、日本・EU提案に一カ国も賛成せず

     日本政府、人権NGOに突きつけられた対応と課題

北朝鮮に拉致された人々を救援する会チェンマイ代表 海老原智治

 2009年12月18日の国連総会本会議で北朝鮮人権決議が採択された。私はタイのチェンマイを拠点に活動しているが、今回の決議を東南アジアから見ると、東南アジアの「アセアン」加盟全10カ国には賛成が1ヶ国もなかったどころか、半数近い4ヶ国が反対し、アセアン諸国が反対票の有力な「票田」であった点が指摘される。
 日本外務省は、先立つ2009年11月19日の国連総会第3委員会決議を受けたプレスリリースで次のように表明している。
「北朝鮮の人権状況改善のためには、国際社会が連携して、北朝鮮に対して、改善に向けた具体的行動の働きかけを継続することが重要です。(略)北朝鮮に対し国際社会の明確なメッセージを改めて発出することになったと考えます。」(2009年11月20日)
 上の「国際社会の明確なメッセージ」を解釈すれば、アセアンとは、このメッセージを発出しないばかりか「反対」する国が4ヶ国もある、「取り残された地域」ということになる。
アセアンをこの状況から「切り崩す」ことは、決議案提案国である日本政府(外務省)に突きつけられた課題であるが、北朝鮮人権NGOにとっての課題でもあると言える。

 まず、今年の決議結果を再確認しよう。

 国連加盟国全192ヶ国
 賛成99ヶ国、反対20ヶ国、棄権63ヶ国、欠席10ヶ国

 うち、アセアン全10ヶ国の対応は次の通りであった。
賛成 なし
反対 4ヶ国(ベトナム、インドネシア、マレーシア、ミャンマー)
棄権 5ヶ国(タイ、シンガポール、ブルネイ、フィリピン、カンボジア)
欠席 1ヶ国(ラオス)

 このように、アセアン10ヶ国は「1カ国も賛成していない」と同時に、半数近い4ヶ国は、棄権を飛び越し積極的に「反対」なのである。これにより、今回の全反対国数20ヶ国で、実に1/5がアセアン諸国の反対で占められることにもなった。
実は、地理的に「アジア大洋州」に属する地域の反対国は、アセアン4ヶ国以外には北朝鮮と中国のたった2ヶ国のみだ。アセアン諸国の反対票の「票田」としての突出ぶりがわかるだろう。

 北朝鮮人権決議案の主要提案国は日本とEUだが、東南アジアの国々から構成されるアセアン諸国は、日本が大きなプレゼンスを持つ「友好国」である。
 「友好国」アセアンの対応改善は、来年の人権決議に向けた日本政府の大課題だ。

 日本ではアセアン諸国-北朝鮮関係になじみがないと思うが、実は各国が北朝鮮と国交を有し、程度の差はあれ密接な関係にある。そのため、アセアン諸国の対北朝鮮動向は、厳しく転じれば実質的な影響を発揮することになり、まことに重要である。
 例えば、シンガポールは2008年から現在まで北朝鮮の対外貿易高の第3〜4位の位置にあり、2008年以前にはタイがその位置にあった。マレーシアも北朝鮮にとって重要な交易相手国である。ミャンマーは報道されているとおり、核開発や武器密売をはじめとした軍事面での深い交流が続いている。フィリピンの反政府系地下組織と北朝鮮の長い関係はよく知られている。
 アセアン諸国は北朝鮮人権状況との関わりも濃密だ。中国大陸と連なる東南アジア大陸部の国(タイ・ラオス・ベトナム・カンボジア・ミャンマー)のほとんどは、北朝鮮難民の脱出先である。特にタイは中国を除けば世界最大の脱出先で、2009年の難民流入者数は私の推計で1,500人を上回っていると見られる。
 拉致問題でも、タイは身元判明した拉致被害者1名を抱え、マレーシア・シンガポールにも拉致被害者の存在が疑われている。

 そのアセアンでは2009年に、アジア域内初の国際的人権枠組み「アセアン人権機構」が正式発足に至った。その一方で、アセアン各国が国内に人権問題を抱えており、国際的な場で特定国を名指して非難する決議には、互いに極めて慎重な状況がある。
 それでも、アセアン諸国は北朝鮮に具体的影響力を持った国々であり、来年の人権決議までに「反対票の票田」からの切り崩しを含むアプローチがなされなくてはなるまい。
 それには、NGOレベルのロビー活動も重要だ。特に拉致問題においては数年、「国際連携」がキーワードであった。日本国内向けのスローガンとしてではなく、日本国外での具体的な働きかけと成果を伴った、実質性を有する形での展開が必要であることを指摘しておきたい。
 私のような日本国外に拠点を持ち、北朝鮮人権問題には各国の政府やNGOと結びながら取り組む立場にある者から見ると、2009年の北朝鮮人権決議は上に指摘したような状況と課題を浮き彫りにして突きつけてきたと、強く感じる次第である。