東京弁護士会人権賞受賞スピーチ
東京弁護士会新年式にお集まりの皆様、2008年度東京弁護士会人権賞選考委員の皆様、本日は名誉ある2008年度東京弁護士会人権賞をいただきありがとうございます。この賞を授与されたことを大変誇りに思います。
この人権賞の受賞は私たちには思いがけないもので、受賞の知らせを聞いたときは信じられませんでした。
というのも、私たちは日ごろから、北朝鮮国内の食糧問題や人権問題が改善され、難民の流出が止まれば、私たちの団体は解散できると、その日が一日も早くやってくることのみを、多くの支援者たちと、強く願って一心に活動していたからです。
北朝鮮難民救援基金は、1998年9月の創立以来、食糧を得るという最低の生存権や社会的な自由を求めて北朝鮮から第三国に脱出してきた難民に対し、彼らの安全を図り、生活を支援し、さらに「難民の地位に関する条約」に基づく難民として処遇されるよう、その保護、認定、永住を実現するために活動してきた団体です。
さらに、北朝鮮国内で真に食糧を必要とする民衆に直接食糧を届ける方法で配給を行ってきました。
また、零下20度Cになる酷寒の地で暮らす人々に、はくべき靴、冬用の靴下、防寒具も配給してきました。凍傷で手足を失うことになった人々には、手術費、医療費を補助し、自立する道を支援しています。かの地では、結核が蔓延しその治療には系統的な制度的対策が必要ですが、1NGOの手に負えるものではありません。これは、国際機関の自由な診療活動の参加によってしか解決できないとおもわれます。
そして私たちは、食糧が確保できなくなって一家離散した例や、餓死した両親を埋葬して中国に食糧を求めてやってきた子どもたちを保護し、当基金が創設した教育里親制度によって、生活環境を整え、最低必要な義務教育程度の学力を身に付けさせてきました。
2003年5月、北朝鮮難民救援基金は、東京都より、特定非営利活動法人として認証されました。活動資金はすべて個人の募金で支えられている組織で、特定の政党、政治団体、宗教団体からの支援を受けていない民間の団体です。
それゆえ、財政的基盤は、個人の理解と支援に負っているために活動の規模には限界があり、常に活動存続への脅威になっています。
それでも、理解者や支援者の協力によって活動範囲は広がってきました。
脱北者を匿うシェルターの運営から、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)との連携による保護活動、韓国、日本、アメリカへの移住への援助、日本へ帰還した脱北者の定住支援、アメリカ議会、ユーロ議会での証言やロビー活動、北朝鮮人権侵害問題に関する国際会議、北朝鮮の人権侵害問題に関する国連人権問題特別報告官との協議など、多岐にわたっています。
生命の脅威にさらされている北朝鮮難民のためには、中国以外の安全な地域に移動する地下鉄道を準備しています。その運営は、国際的な人権NGOや人道支援家との協力、連携による確かなものです。
いま、当基金が頭を悩ませているのは、日本へ帰還した脱北者の定住問題です。
1959年から始まった北朝鮮への帰国運動。
「共和国は地上の楽園」との宣伝に乗せられて、北朝鮮に渡った在日朝鮮人とその配偶者の数は、9万3千人に及びます。50年を経過するなかで家族は増え、日本に縁者のいる人たちの人口は30万人に達するだろうと推定されます。
かの地での過酷な運命から逃れ、幸運にも日本に戻ることが出来た人々の数は年々増えています。
日本政府は公式的に、何人が日本に戻ったかは発表しておりませんが、当基金は、およそ170人が日本に戻ったと推定しています。日本政府が入国を認めることを知らず、韓国に定住した人も数多くいます。
当時1歳で母親の背中に負ぶさって渡った在日朝鮮人や日本人配偶者の子どもは、今や50歳になります。北朝鮮では日本語の使用を禁じられているために、日本語が話せない人たちが、続々ともどってきています。50年間の北朝鮮と日本の文化の違い、価値観のギャップはそう簡単に埋まるものではありません。
彼らが、日本社会に定住するためには、日本語教育を初めとする一貫した定住政策が必要とされています。
しかし、定住センターのような公的機関はまだありません。
こうした中で、強力な援軍は、夜間中学校です。帰還した脱北者たちは、日本語を学ぶために夜間中学校で奮闘しています。こうした公的教育機関が、なんとかこの人たちの社会復帰を助ける上で重要な役割を果たしています。
もし夜間中学が無くなる事態になれば、学ぶ機会は失われ、日本語を学ぶことはもちろん、日本文化を学ぶ初歩的な機会も失われるでしょう。そうなれば、生命の危険を覚悟してまで日本に戻ってきたのはどんな意味があるのかと疑問に思うでしょう。せっかく無事に、日本に戻ってきたのですから、たとえ無一物であったとしても、日本で努力すれば定住に成功できるのだ、という自信を持って欲しいと思います。
私たちは、基本的な人権の保障されない人たちが生み出されていくのは見たくありません。
東京弁護士会の皆さん、皆さんの力によって、ぜひとも彼らのような社会的弱者の権利を保護していただきたいのです。
北朝鮮難民救援基金は、一人でも多くの生命を救うために、これからも力を尽くしていきます。そしてよりよい民主主義の日本社会のために、そして日本がアジアの人権のよりどころとなるように法律家の皆さんと協力していきたいと思います。
ご清聴ありがとうございました。