日本の北朝鮮難民対策と定住、定着の諸問題  08/Apr/02

 

1、はじめに

現在、北朝鮮難民の問題は、韓国に止まらず中国、ロシア、日本を巻き込んだ北東アジアの地域的な問題であり、そこからさらに南東アジア、ヨーロッパ、アメリカ本土にまで影響が及んでいる世界的な問題であると言える。

これまで、国連総会の場では「北朝鮮の人権」侵害に対する決議が2年間連続して採択され、国連人権委員会で3度、国連理事会で2度の勧告が出ている。

また、今年、20083月国連人権理事会でもヴィチット・ムンタボーン北朝鮮人権特別報告官が、北朝鮮国内の深刻な人権問題を報告し、調査を受け入れるよう勧告している。

しかし現実に起きている事態は、少しも変わっていない。

中国政府は、脱北者難民を不法入国者、不法滞在者と見なし、逮捕、強制送還を今日まで続けている。北朝鮮政府は、脱北者に対しては、公開処刑を含む厳罰で対処している。

それにもかかわらず、脱北者難民の流出は止まらない。その結果、周辺国の社会の安全、治安問題に重大な脅威となっている。また局地的な問題を越えて国際問題としても注目を浴びている。

 日本政府の脱北者難民への政策を検討してみる。

 

2、脱北者難民は、大別して三つの範疇に分けられる

1に、中国で農作業、林業、炭鉱労働などで稼ぎ、現金や食糧を得て北朝鮮に再び戻る、出稼ぎ型。

第2に、北朝鮮で生活基盤をなくし、中国で何とか生きる道を探し、中国への定住を望む、定住型。

第3に、北朝鮮での生活基盤をなくし、北朝鮮で暮らすことが出来ずに中国に渡ってくるが、中国でも生活基盤を作ることが出来ずに第3国への出国を目指す、海外移住型。

ここでは主に第3の型である、海外に生きる道を求める第三国への「海外移住型」の北朝鮮脱出難民の問題について取り上げる。

北朝鮮から中国に脱出したあと、周辺国のモンゴル、ベトナム、ラオス、タイなどの東南アジア、南西アジアのビルマを通じて最終定住地、韓国、日本、アメリカなどに向かう。

最近では定住地にアメリカ、カナダ、それにイギリス、ドイツなどのEU諸国、スカンジナビア諸国へと世界的な広がりを見せている。

北朝鮮難民問題は、もはや局地的な問題ではなく、世界的な問題になったという認識である。

また、北朝鮮難民への深刻な人権侵害は、直接的には北東アジアの安全保障問題にリンクしていると認識されている。それは同時に、世界的な平和、秩序、安全の問題にまで発展している深刻な問題である。

 

3、だれが脱北者難民になれるのか

北朝鮮と中国の国境の警備は、脱北者の増加に伴い年々厳しくなっている。

@ 国境沿いに走る国道には有刺鉄線の柵が建設され、監視カメラが設置されている。

A    国境警備隊(中国側は辺防隊)のパトロールが強化され、臨時検問所が設置され、通行車両はトランクまであけさせられ、調べられている。

B    中国側の国境警備隊(辺防隊)の移動検問車が警戒行動をとっている。

C    国境に沿って点在している全ての村には、中国人民解放軍瀋陽軍管区から派遣されている歩兵小隊が駐屯している。

 

このような厳戒態勢の下では、脱北に成功し中国に入るのも容易ではない。それでも食糧を得る自由のために、命をかけて脱出を試みる人は後を絶たない。しかし、誰もが成功するわけではない。最近では自力で中国側に脱出できる人は少なくなったように思われる。

それではどのような人たちが成功するのか。

@ 北朝鮮側の国境警備隊員を買収できる。(賄賂を準備できる)

A 中国側に受け入れる人がいる。

B 賄賂の金を準備できる。

C 国境を越える体力的があること。

D どんな苦労をしても第三国へ移住する(脱北者)となる強い意志があること

E 幸運があること(神様の思し召し、神の御加護があること)

 

これらを自力で解決するには、相当な困難がともない、成功する確率は低い。しかし、中国側のブローカーにつながりがある場合は@−Eまでを解決しやすい。

 

4、脱北者難民がどれだけ定住したのか

北朝鮮を脱出し、周辺国を経由して韓国に定住、定着した人の数は、20081月末で13,000名を越えたと聞いている。韓国政府では、これまで統一部が韓国に上陸を果たした脱北者難民の数を年毎に公表しているが、日本政府は関係国への「外交的な配慮」から、その数字を発表しない。

日本のNGOが推定している日本に定住した脱北者数は、2008年2月末まででおよそ170名、と推定しており、北朝鮮難民救援基金もこの数字を支持している。

アメリカは人権法が成立してから2008年3月まで43人を受け入れた。

ヨーロッパで脱北者難民が一番多く留まっている国はドイツで、およそ1300人以上に達したと言われている。そのなかで「難民の地位」を付与された人は580人を越えた。

ベルギー当局は、93年以降2006年まで8人の脱北者に「難民の地位」を付与している。ベルギー国内で難民申請をするために待機している脱北者は、20081月現在30人を数える。

イギリス政府は、昨年亡命申請をした脱北者は425人で、そのうち130人に難民の地位を認め、居住権を認めた。

カナダ移民難民局は、96年から北朝鮮難民の申請を始めた。96年から07年までに難民申請した脱北者の数は170人以上で、その中で難民資格を得てカナダで暮らす人は4人に止まっている。

最近は一度韓国に定住した脱北者難民が、ブローカーの手引きによって入国を果たした例が、多く確認されるようになって、「難民の地位」を得るための資格審査が厳しく、待機する人数が増えていると言われている。

 

5、「関係国を刺激しない」という壁

北朝鮮難民を救援するためには、さまざまな障害がある。越えなければならない壁、壊さなければならない壁、取り除かなければならない壁が存在する。

日本で正確な数字を掌握しているのは、外務省と法務省入国管理局であるが、両省とも数字について対外的に公表していない。記者たちの取材に対しても、「関係国を刺激する」という理由で公表していない。

日本のNGOは、非政治、非宗教であることを義務づけられているで、活動の資金を個人の募金に頼っている。どれだけの人が、どのくらいの数が、どのような苦しみ、苦難を背負って脱出してくるのかを、広く知らせることができなければ、募金、献金は集まらない。こうした現実を解決するには、どのくらいの人が日本に帰還したかを知ることは最も基本的で重要なことである。「関係国を刺激する」という理由で、公表しない壁が立ちはだかっている。

唯一例外的に明らかになったのは、2000年度の国会の質問での政府答弁であった。野党民主党の国会議員が、北朝鮮からの脱北者難民で日本への定住者の数を質問した。外務省のNO.2である事務次官は、「はっきりと数字を申し上げることはできない。関係者に迷惑が及ぶので、答えを差し控えたい」「個々のプライバシーに関わることなので質問に答えかねます」と回答を避けようとした。

しかし、質問者が重ねて問うと「数十名が特別在留許可を得ております」と答えた。

一向に明確な答がなかったので、質問者が、「私が得ている情報では、20数名だと聞いているが、この数字は正しいか」重ねて訊ねると、「おおむね、そのようでございます」と答えてこの質問は終わった。

 政府側の見解は、議員が数字を言ったのであって、政府が自ら数字を明らかにしたのではないという立場なのである。

 日本の外交政策として「関係国を刺激しない」という基本姿勢を貫いている。周辺国で日本政府が神経を尖らせているのは、中国と北朝鮮である。周辺国には韓国もあるが、韓国と日本は共通の価値観である「民主主義」を共有するので、他の2国と比べて問題があったとしても、解決しやすい

日本政府に限らず、どの国でも外交問題に発展するのを嫌い、「静かな環境での外交」「関係国を刺激しない」という外交の基本姿勢を堅持しようとする。

日本政府と北朝鮮政府の間には、外交関係がない。北東アジアの平和と安定のためには、日本と北朝鮮の間の外交関係を回復し、安定した環境を作り出す必要がある。国交回復交渉を何とか前進させたい外務省は、両国間に波風を立てないという方針を立てているために、日本が主体的に解決する糸口をつかむことが出来ない。

その上、拉致問題もあり、国民的な規模での北朝鮮に対する反発の大きさから、なおさら慎重になっているものと思われる。

さらに、脱北者が中国に流れ込み、中国での脱北者に対する人権侵害も続発している中で、日本政府には北朝鮮に移住した元在日朝鮮人を受け入れていることを問題化させたくないという配慮が働いている。日本外務省は、メディアがこの問題を報じれば、中国、日本、北朝鮮、韓国の間の複雑な外交問題に発展しかねないと危惧する。

しかしNGOは、問題が深刻な人権問題や人道上の問題が政治問題化している場合、あるいは、見過ごすことができない場合は、二国間問題に限定せずに、地域的な平和と安定、発展の立場から国際的な枠組みを機能させ、解決を図る必要がある、と考えている。

「静かな外交」によって、安全に定住を望む国に移住できている場合もあるので、二国間問題としての解決のチャンネルを構築、維持するための信頼醸成措置を考える、政府の立場を尊重する必要もある。しかし、この解決方法は問題の根本的な解決ではなく、部分的な解決であることを確認しておく必要がある。

 

6、政府とNGOの連携、距離

問題解決のためには政府とNGOの連携が大切だが、必ずしもうまく行っているとは言いがたい。

政府はいつまでも硬直した姿勢をとるべきではないと思うのだが、「関係国を刺激しない」原則を頑なに守ろうとする外務省と、北朝鮮難民問題を解決しようとする救援NGOとは、いつでも対立関係に発展する危うい状況にある。これは事実である。

 政府とNGOは互いに協力関係にあるべきはずだが、「関係国を刺激しない」原則を巡って衝突することがある。

問題解決をするために「静かな環境」を巡っても衝突する。政府とNGOの間で相手国に対する評価の違いから争いが起こる。 

過去に、北朝鮮難民の救援活動の中で、中国公安に拘束された人道支援家たちの救出を巡る問題でも衝突が起きた。

脱北者難民を保護すると、中国政府は刑法318条、密出入国管理令違反で処罰する。この条項は、脱北者難民に衣食住を提供したり、不法入国者を不法に運搬する罪であると規定している。

 日本政府は、あくまでも静かな環境で中国政府と交渉するので、救援のために記者会見をしないで欲しい。そうなれば相手国を刺激する、というのである。

 逆に、NGOは、このまま黙っていれば、救援活動をした人道支援家は「中国国内法を犯したのだから、処罰されて当然」という日本政府の担当者の立場を認めることになる。「中国刑法で処罰されるのもしかたがない」、という論理に与する。

しかし、NGOは、人道支援家の活動は難民条約に定めた難民を救援する、という立場で、国内法と国際法が矛盾した場合は、国際法が国内法に優先するという立場を取る。

 したがって、日本の救援活動家、人道支援家は、日本政府が相手国政府に対して毅然とした立場でNGO活動家、人道支援家の拘束は不当であり、即解除するように要求すべきである、と主張を繰り返してきた。

 人道支援家や人権活動家が拘束された場合、日本政府が積極的に解放のために動くことは少ないように思われる。大体において、日本外務省は、相手国に対して「寛大な処置」を依頼するというのが、常である。

 これが、即解放につながるなら問題はないのだが、このようなアプローチをしても8ヵ月、2年の禁固刑を言い渡されるのは承服しがたいのである。

 

7、壊さなければならない壁−脱北者の救援活動をする側にある

―誰でも望めば、韓国や日本など第三国にいけるわけではない―

これまで、北朝鮮難民救援基金は、救援する対象を北朝鮮社会の政府高官だから、軍官(将校)、労働党の幹部なら保護する、労働者や農民なら助けないと、出身によって保護する保護しないと決めたことはなかった。

また金を持っているから助ける、金がないなら助けないという立場でもない。キリスト教の信者なら助ける、そうでなければ助けられない、と言う立場を取ったことはなかった。

韓国の脱北者救援活動に関わるキリスト教会、教会の支持をうけているNGOの中には、脱北者難民を助け、保護するのに条件を課している。牧師、伝道師の課題をよくやれた脱北者から、順に第三国へ出国する道へと導いている。

@ 第三国まで旅行できる中国通貨3000元以上を持っているか。

A 金がなくても、中国内で宣教するキリスト教会に通い、朝夕の祈祷会に熱心に参加しているか。

B 聖書の勉強会に参加し、理解を深めているか。

C 中国国内で献金をする意思を実際の行動で示せるか。

D 韓国に定住したならば、自分の収入の10パーセントを献金すると約束できるか。

 

脱北者たちは、中国公安の目を逃れて保護を受けている弱い立場なので、韓国人牧師、伝道師の言うことを聞かなければならない。言うことを聞かなければ、そのシェルターにとどまる事はできないからだ。つまり自らの安全を失うことになる。それゆえ、自分の意思に反しても、牧師や伝道師の言うことを聞かなければならない立場だ。

「脱北者は中国にいるときは熱心なキリスト教徒だが、韓国に着くと教会に来なくなる」という嘆きが、キリスト教の牧師の口から語られる。キリスト教の信仰を強制されているから、強制の社会から自由の社会に入れば、束縛はなくなるからこれは当然の結果といえる。脱北者自身の自由で自発的な意思によらない信仰は、信教の自由に違反し、人権侵害問題でもある。

 

8、日本政府の定住、定着支援

―脱北者の保護は、日本国籍者に準じて行う―

日本政府は2002年から、北朝鮮からの脱北者難民を「日本国籍者に準じて保護する」とした。これは、瀋陽の日本総領事館に駆け込んだ「ハンミちゃん事件」以後に定着した方針である。

事件を撮影した映像が繰り返し、大々的に世界のメディアを通じて中国の人権無視の姿、北朝鮮難民の存在を世界に知らしめた。

そして、外務省は領事の対応が不適切であったために、日本の世論から激しい非難を受け、外務大臣、官房長官談話で「脱北者の保護は、日本国籍者に準じて行い、相手政府に人道的な処理を要請する」ことを明らかにした。

その後、北朝鮮からの脱北者のグループが北京の日本人学校に駆け込んだ事件もあったが、日本総領事館の対応はすばやく、すぐさま日本大使館内に保護し、本人たちの意思確認を行った後、彼らが韓国行きを希望していることが判明するや,これもすばやく、在北京、韓国大使館に全員の身柄を引き渡している。

日本政府の管理下に入った脱北者は、無条件で保護されるが、脱北者自身の定住希望地に従って比較的速やかに身柄が当該国に引き渡されるシステムになっている。

 

―脱北者が、日本への定住を希望する場合は、希望する本人が日本と関係があれば、「日本国籍者に準じて扱う」方針によって受け入れられる―

日本国籍者に準じて受け入れられる人とは、「特別永住者」の資格を持つ元在日朝鮮人とその三親等までの人を意味している。

1959年から1976年まで、途中に中断があるものの187回の帰還船によって9万3千人以上の在日朝鮮人たちが、朝鮮半島の北半分に帰っていった。

1945年日本は太平洋戦争で敗北し、植民地を失い、日米講和条約によって独立を果たした。それまで日本で暮らしていた在日朝鮮人は、日本国籍を失い朝鮮籍となった。韓国が独立し、韓国に戻った人もいたが、在日朝鮮人は、「朝鮮籍」の外国人として「特別永住者」となった。その後、1950年の朝鮮戦争で日本に逃れた密航者たちは、特別在留許可を得、それはやがて特別永住者の資格を得ることになるのである。

特別永住者の間で、朝鮮半島の政治情勢を反映して韓国を支持する大韓民国居留民団(民団)と北朝鮮政府を支持する朝鮮総連とに分裂した。

朝鮮総連を支持する人たちは、共和国は「地上の楽園」という宣伝の下に、北へ移住していったという歴史的な背景がある。

日本政府は過去の帰還運動(北送事業、帰国事業)歴史に照らして、特別永住者とその親族の日本への再定住を認めている。

93千人の北朝鮮への帰還者の中には、日本人妻、日本人夫などの日本人配偶者もふくまれている。北朝鮮への帰還者たちは家庭を持ち、その人口は、およそ30万人に達しているものと推定される。

 

9、日本定住へのプロセス

北朝鮮を脱出し日本政府(日本大使館、日本領事館)に保護を求めると、定住資格があるかどうかの審査がある。個々のケースによって、在外公館が結論を出すまでに、時間の差がある。

早くて30日から90日ほどを要し、長い場合は11ヵ月かかった例もある。最近は長期化の傾向にある。

 

基金では、脱北者難民を保護する少なくとも以下の点を確認する。

@ 本人が日本に定住を希望する意思が確認できるか。

A 北朝鮮を脱出してきた理由。北朝鮮で暮らせない理由。

B 特別永住者とその家族であるかどうかの確認。

C 日本から北朝鮮に出国したことの確認(第何次船で出国したか)

D 身元引け請け人がいるか。

 

北朝鮮難民救援基金では、上記の@−C以外に、本人の意思確認にかなり時間をかける。

@ 特に北朝鮮での暮らし。

A 北朝鮮を脱出してきた理由。

B 北朝鮮に戻れない理由。

C 中国に滞在できない理由。

D 日本での生活に望むこと

 

これは、日本で定住をするときのアドバイザーにとって重要な情報になるためである。

 

10、日本政府の定住政策

日本政府の脱北者難民に対する特別な政策はない。

韓国政府は、大成公社による人定調査(身元、身分調査)が30日、再定住訓練施設であるハナ院で30日間の研修期間を終えて、一般社会に出て行く。ハナ院を卒業するときには、就職先の紹介、住居も提供される。

(注:大成公社とは国家情報院、警察庁、軍情報司令部などの情報機関が脱北者を集中して合同調査する施設

しかし日本の場合は、明確な調査期間、再定住訓練、教育施設や担当する機関がない。したがって就職を特に世話する機会もなく、自力で探すかNGOの紹介によって探すことになる。

韓国は一定の定住教育、脱北者難民に対して生活定着資金を支給するが、日本政府は生活定着資金を提供しない。

日本に上陸するまでは、外務省の仕事だが、定着支援は身元引受人、あるいは身元引受人がいない場合は、それにかわるNGOが担当することになる。

脱北難民は日本では人道的な立場から、特別永住者とその親族を三親等まで身元を引受けるという立場で、脱北者難民という立場の公的支援はない。

日本定住に当たってもっとも深刻な問題は、日本に再定住を求める脱北者難民に日本語ができるのか、否か。日本語ができなければ、日本での定住はかなりの困難が伴う。脱北者難民にとって、日本語は外国語であり、北朝鮮への帰国一世に日本語はできても、二世となると日本語はできないと考えなければならない。一世でも現在日本に帰還した人たちは、北朝鮮に帰国した当時1歳の人でも現在49歳である。1歳のときに北朝鮮に渡った場合は、日本語はできないと思わなければならない。

日本に戻ってくる帰国三世は、年齢的に見ても10歳代後半、から20歳代なので日本習得は、比較的早く、就職もしやすい。そうなれば、日本への定住も円滑に進むが、帰国二世の場合は年齢が高いために日本語習得に時間がかかる。

日本語の習得も、ボランティアベースで教える日本語教室はあるが、完全に習得するためには不十分なものである。

北朝鮮から日本に再定住するために、日本へ帰還する人たちは、ほとんどの場合、着の身着のままで財産らしい物は何もないので、民間の日本語学校に行って授業料を支払う資金的な余裕がない。

 

11、生活定着資金でなく、生活保護費の支給

―生活定着資金がなくてどのように定住するのか―

 空港に降り立ち、自分の定住したい地域までに移動するのにも、交通費はかかる。これは書類上の身元引受人となった人の負担になる。身元引受人が遠隔地に住む場合は、出迎えに行くNGOの負担となる。

 次に住む住居だが、身元引受人がいて準備できる場合には問題はない。身元引受人となる親族がいても高齢で、年金生活者になっている場合は、住居を探しても、その費用負担ができない場合が多い。生活定着資金の制度がないので、身元引受人がない場合は生活保護を受けることになる。

 

―住所登録をした行政区で生活保護の申請をする―

生活保護を受けるには、住民登録をしなければならないが、住民登録をしなければ、生活保護も受けられない。無一文で日本に戻ってきた脱北者難民が、自力でこの問題を解決するのは、至難の業である。

住所を定めるためにNGOが必要な費用を立て替えたら、収入があったと見なされ、住居費の支給を拒否されるという不合理が存在する。

生活保護受給の資格が認定されると、その行政区で定められた家賃(東京の場合、最高額6万8千円)と生活費一人当たり8万6千円が支給されるので、この制度を利用することになる。しかし、決められた住居費の規準では、住居が探せないことが多く、基準自体が実勢に合っていない。

 もう一つの問題は、言葉ができないと外国人と見なされることである。住居の賃貸人が入居を断る場合がしばしばある。脱北者難民の事情に理解のある人で賃貸人を探す必要がある。

 どうしても住居を見つけられない場合は、生活再建をめざす施設に入所する。

 医療が必要な場合は、生活保護世帯になると医療券が発給され、医療費は無料となる。

 高齢者の場合は、就職先を見つけるのが困難であり、年金もないところから自立するのは困難である。生活保護を一度受けるとそこから抜け出せない、稼働年齢の人に生活保護受給者が多く生み出されているなど問題も多い。