中国政府の難民への行いと北朝鮮政権の人権への犯罪

                        加藤 博

 

バンコク北朝鮮人権国際委員会の皆様に、お話しする機会をおあたえ下さいましたことを、北朝鮮難民救援基金を代表いたしましてお礼申し上げます。

 皆様の中には、北朝鮮難民救援基金とはいったい何者なのかと疑問をお持ちの方もおいでのことと思います。私どもは、日本の小さな非営利団体でございます。1998年に、少しでも多くの北朝鮮難民を救いたいと設立いたしました。現在は、約150人の会員がおりまして、日本人、韓国人、中国人、アメリカ人、オーストラリア人、カナダ人などが構成員です。

現在中国の東北三県には、約10万人の北朝鮮人が隠れ住んでいるものと私どもは推測しております。私共の仕事は、幾つかのカテゴリーに分けることができます。

 最初の2つは、北朝鮮から飢えのために逃れ出てきた人々に、食料と衣服を配布すること、そして、薬品や衣料を供給することです。また、中国国内で、隠れ家を必要とする人々にこれを提供することもしております。

 4番目に、難民や孤児の子供たちには基礎的な教育が必要と考え、教育里親制度も行っております。朝鮮族の小学校長先生や、漢族の村人たちとの非公式な協力をいただきながら、こうした子供たちを学校に行かせております。また、退職した朝鮮族の元教師たちに隠れ家に来ていただいて教えていただくこともしております。

 教育里親制度では、難民の子供や孤児たちを保護し教育しております。 

現在の北朝鮮を人権という観点から考えますと、見過ごせない最大の問題は人身売買です。正確な数字を知ることは不可能ですが、北朝鮮難民救援基金では、犠牲者の数は少なくとも7万人以上であると考えております。私どもが隠れ家をもっている村々で調査しましたところ、10パーセントから12パーセントの家族で、女性たちが婚姻という名の下で売られてきていました。

私どもが知っている中でもっとも若い人身売買の犠牲者は8歳で、朝鮮族中国人の家で育てられ、14歳の時に漢族の男性に1,500元で売られました。19歳のときに子供を生みましたが、生んだ後、ブローカーにより、また別の男性に売られました。今現在、彼女がどこでどうしているのか私どもにはわかりません。ブローカーによるこうした再売買のケースは、中国ではけしてまれなことではないのです。

20代の女性は現在20,000元から30,000元で売られ、30代の女性は15,000元から20,000元で40代は5,000元から6,000元で売られています。子供を連れた女性の場合は500元から1,000元安い値がつきます。

1990年代の中ごろには北朝鮮の配給制度が壊れはじめていましたので、食べる物を求めて北朝鮮を離れる人々の数が増え始めました。中国の朝鮮族の人々は、彼ら同胞を哀れんで、食べ物や衣服を与えました。しかし、こうした朝鮮族の人々の善意も長くは続きませんでした。強盗や殺人事件が増加し、良い関係が失われていき、中国の保安当局が脱北者たちの取り締まりに乗り出しました。1997年には、さらに多くの人々が飢餓から逃れるために中国国内へと逃れるようになりました。

2,000年ごろから、女性の人身売買が知られるようになってきました。北朝鮮での想像を絶する貧困に苦しんでいた女性たちは、生存の活路を中国に求めはじめました。同時に、女性脱北者たちがブローカーたちの手に落ちる事例が数多く報告されるようになりました。こうした報告は、北朝鮮人の女性や子供をかくまっていた私共の隠れ家の世話人たちから送られてきていたのです。

中国当局は北朝鮮の保安局と緊密に連絡をとりあっています。中国の朝鮮族の男性と結婚した北朝鮮人の女性たちのあぶり出しに努めています。中国当局に検挙され、北朝鮮に送還された女性たちは、子供たちを中国国内に残していくことになり、子供たちの面倒を見る人は誰もいなくなります。こんなふうにして孤児になった子供たちは、農作業を手伝い、牛たちの世話をする代わりに食べ物と寝るところをもらって生きることになります。

人身売買の犠牲となった女性たちの子供の将来は、心底寒々としたものです。彼らには自分が生まれた国も、親も定かではないのです。中国で違法に暮らす女性たちの子供に国籍は、ありません。彼らは中国人でも、北朝鮮人でもありません。教育を受ける権利などというようなあらゆる権利は生まれたときから剥奪されているのです。そして、極度の貧困を生きることになるのです。

 お分かりいただけると思います。何故、中国政府はこうした家族に何の哀れみの情も示さないのか不思議でなりません。中国政府は、冷酷にも、子供たちを母親たちから引き剥がしているのです。人間らしい感情が全く感じられない政策です。

 中朝国境に近い延吉市や龍井市等々では、中国と北朝鮮が共同して検挙を強化しています。北朝鮮当局は、中国の公安警察に脱北者の情報を渡し、中国の警察は情け容赦なくこれを利用しています。中国の警官が張り切るのには訳があります。中国政府が高い奨励金を彼らに渡すからです。北朝鮮難民一人を逮捕するたびに、彼らは2,000元をもらえるのです。この額は、中国では、大卒者の一ケ月の給料に相当する金額です。

もう何年も、人権に関わるNGOや、国際機関や諸外国の政府が中国政府に、この中国内の脱北者に関して膨大な数の要請をしてきました。中国政府はこうした要請をすべて無視してきました。実際、中国はこうした要請に答えることさえせずに、北朝鮮難民を強制送還し、北朝鮮国内で受ける恐ろしい迫害にさらしているのです。これが人権規範の侵犯であることは明らかです。中国政府が国際社会の思惑などなんらの興味も持っていないのは明らかです。UNHCRの数多の要請も、中国政府はことごとく無視しています。中国はまた、北朝鮮難民救援活動の罪でとらえられた活動家たちの韓国政府からの釈放要請も無視してきています。

過去のできごとから、私たちは2つのことを学んできました。ひとつは、中国は、外国から強力な力を見せられた時には反応するということです。二つ目は、中国政府は人道的な要請には一切耳を貸さないということです。中国は、力を見せ付けられると柔軟になりますが、弱者に対しては慈悲のかけらも見せません。脱北者たちは、外国公館の保護下に入ると強くなりますが、強い力の保護下にいないと弱くなります。

今、私は韓国の活動家と北朝鮮難民に公然と呼びかけます。これから先、細部にわたるあらゆる証拠、証言、情報を集めて、国際社会と国連北朝鮮人権報告官に報告すべきだと。しかし同時に知っておかなければならないことがあります。太陽政策を取り続ける韓国政府がこうした呼びかけを取り上げることになれば、韓国政府が今までしてきた北朝鮮人権の無視の苦い記憶をも呼び返すことになることを。

もし韓国政府が北朝鮮人権問題をとりあげることになれば、韓国政府には損失も大きいということを私たちは知っておかねばなりません。同時に、韓国政府に対して、韓国政府は北朝鮮政府による人道に対する犯罪の無辜の犠牲者たちを助けようとする国際的な努力を妨げてはならないしするべきでないということを私たちは強く要求するべきであることを付け加えます。

また、ここにいる私たち皆が、北朝鮮難民をけして送還しないというタイ国政府の姿勢に、深い感謝をもっていることをこの機会に述べさせてください。

 終りに,皆様のお許しを得て、国際社会がこぞって、北朝鮮人民の状況に決然と関わることを、個人として強く呼びかけさせていただきたいと思います。

 いつの日にか必ず、すべての無辜の北朝鮮人の囚人や、韓国や日本のすべての拉致被害者の方たちが国際社会からただのひと時も忘れられていなかったという事実を知る日を実現さようではありませんか。