日本版北朝鮮人権法を考える
民主党「北朝鮮に係る人権侵害の救済に関する法律案(仮称)要綱」と
自民党「北朝鮮人権法(仮称)骨子案」及び政府による留意点

 2月9日、「日本版北朝鮮人権法案」要綱が民主党から、また2月3日、自民党からも自民党案骨子が、さらに7日、骨子に対する政府の留意文書が発表されました。
 両案の違いを朝日新聞記事が簡潔に説明しているので、その抜粋を掲載します。それによると、
<両党案の最も大きな違いは、脱北者にどの程度門戸を開くかという考え方である。民主党案は、脱北者は北朝鮮に戻れば迫害される可能性が高いとして、国連難民条約に基づく「条約難民」に準じて幅広く保護の対象とすべきだとしている。
 そのため、脱北者保護を「国の責務」と位置づけ、法相が脱北者を「認定」する制度を設け、在留資格の取得や永住許可などの要件を比較的緩やかにしている。
 これに対し、自民党案は、脱北者の身元確認が難しいことなどから、治安対策への配慮を求める法務省などの意見を踏まえ、在外公館での保護は「努力義務」にとどめ、国内への受け入れも「一定の要件を満たす場合」と条件をつけている。
 法務省は、脱北者のほとんどは戦災や飢餓から逃れてきた「避難民」であり、条約に基づいて保護すべき「難民」ではないと位置付ける。政府の基本的な考え方は、国内受け入れを検討するのは元在日朝鮮人とその家族に限り、それ以外は原則として第三国に移送するというものだ。
 一方、拉致問題の扱いも両党案は微妙に異なる。自民党案は拉致問題に比重を置かず、政府の「解決への努力」をうたうなどにとどめた。これに対し、民主党案は冒頭に拉致問題を掲げ、「国の責務」を明示するとともに、首相を本部長とする拉致被害調査・対策本部や拉致問題担当相の設置を盛り込んだ。
 民主党北朝鮮問題プロジェクトチームの中川正春座長は「拉致問題を人権問題と位置づければ、6者協議の場で解決を図れる」と語るが、自民党内には拉致問題を6者協議に絡めると、独自の経済制裁に踏み込みにくくなるとの意見がある。>
 この法案は今後の北朝鮮難民救援活動にとって、無視することの出来ない影響があるものと考えられます。そのために自民党最終要綱案の発表を待たずに、ここに掲載いたします。

2005.2.15 北朝鮮難民救援基金


A、民主党
北朝鮮に係る人権侵害の救済に関する法律案(仮称)要綱


第一 目的
 この法律は、拉致問題への対処に関する国の責務を明らかにするとともに、脱北者の保護及び支援並びに北朝鮮に対して支援を実施する際の基本原則等について定めることにより、拉致問題の解決その他北朝鮮に係る人権侵害の救済に資することを目的とすること。

第二 拉致問題への対処
 一 国の責務
  1 国は、日本国民の拉致又は日本国からの拉致という北朝鮮当局の国家的犯罪行為による問題を解決するため、最大限の努力をするものとすること。
  2 国は、拉致被害について調査するとともに、北朝鮮当局によって拉致された日本国民及び日本国から拉致された者(以下「拉致被害者」という。)の帰国を実現するよう努力するものとすること。
  3 政府は、拉致問題の解決のため、関係国等と連携するものとすること。

 二 拉致被害調査・対策本部(仮称)の設置
  1 内閣府に、拉致被害調査・対策本部(仮称)(以下「本部」という。)を置くこと。
  2 本部は、次の事務をつかさどること。
   ア 拉致被害者及び拉致被害者であることが疑われる者についての調査を行うこと。
   イ 拉致被害者の帰国を実現するための施策の企画及び立案並びに総合調整に関すること。
  3 本部は、拉致被害調査・対策本部長、拉致被害調査・対策副本部長及び拉致被害調査・対策本部員をもって組織すること。
  4 本部の長は、拉致被害調査・対策本部長とし、内閣総理大臣をもって充てること。
  5 本部に、拉致被害調査・対策副本部長を置き、拉致問題担当大臣をもって充てること。
  6 本部に、拉致被害調査・対策本部員を置き、関係行政機関の職員のうちから内閣総理大臣が任命すること。
  7 本部は、2のアの調査を行うに当たっては、民間の団体と連携するよう努めるものとすること。
  8 その他本部に関し必要な規定を設けること。

 三 国会報告
   政府は、二の2のアの調査により拉致被害者に係る事実が判明したときは、できる限り速やかに、これを国会に報告しなければならないものとすること。

第三 脱北者の保護及び支援
 一 定義
   この法律において「脱北者」とは、北朝鮮を脱出した後生活の本拠を有することなく日本国に保護を求める者であって、北朝鮮に戻ると迫害を受けるおそれがあると認められるものをいうこと。

 二 国の責務
  1 国は、脱北者を保護し、及び支援する責務を有すること。
  2 国は、脱北者から在外公館に対して保護の要請があった場合には、その安全を確保するため、最大限の努力をするものとすること。
  3 国は、脱北者の希望に配慮した日本への帰国若しくは入国又は他国への出国のための措置を講ずるものとすること。
  4 政府は、脱北者の安全の確保等について、関係国の理解と協力を得るよう努めるものとすること。
  5 政府は、脱北者の保護及び支援に当たっては、脱北者及びその関係者の安全を確保するため、これらの者に関する情報の取扱い等について、十分に配慮するものとすること。
  6 政府は、北朝鮮を脱出した者の保護及び支援について、関係国及び国際連合人権委員会、国際連合難民高等弁務官事務所その他の国際機関との緊密な協力の下に積極的な役割を果たすものとすること。

 三 脱北者の定住資格等
  1 法務大臣は、申請に基づき、脱北者である旨の認定を行うことができること。
  2 法務大臣は、1により脱北者の認定をする場合において、1の申請をした者が在留資格を取得していない外国人であるときは、当該外国人が一定の除外事由に該当する場合を除き、その者に定住者の在留資格の取得を許可するものとすること。
  3 脱北者の認定を受けている者から永住許可の申請があった場合には、法務大臣は、その者が独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有しない場合であっても、永住を許可することができること。
  4 脱北者の認定を受けている者のうち、本邦に在住していたことがあるもの(過去に日本国籍を有していた者及びその子に限る。以下「元本邦在住者」という。)から永住許可の申請があったときは、法務大臣は、本邦に在住していた期間、北朝鮮に居住することとなった経緯等を勘案し、適切な配慮をするものとすること。
  5 その他脱北者の認定等に関し必要な規定を設けること。

 四 脱北者の定住支援
  1 国及び地方公共団体は、脱北者の認定を受けている者の定住を支援するため、住居の確保、就業の支援、日本語教育等に関し必要な施策を講ずるものとすること。
  2 国及び地方公共団体は、1の施策を講ずるに当たっては、民間の団体と連携するよう努めるものとすること。

 五 脱北者の支援を行う民間の団体との協力及びこれに対する支援
   国は、脱北者の保護及び支援に当たって民間の団体と協力するとともに、脱北者の支援を行う民間の団体の活動に係る安全の確保及びその活動の促進を図るため、情報の提供、財政上の措置等必要な施策を講ずるよう努めるものとすること。

 六 国会報告
   政府は、毎年、国会に、脱北者の保護及び支援の状況に関する報告を提出しなければならないものとすること。

第四 北朝鮮に対する支援
 一 北朝鮮に対する支援を行うに当たっての留意事項
  1 北朝鮮に対する支援については、支援の目的、拉致問題の解決に対する北朝鮮の対応、北朝鮮における人権侵害の状況等を勘案して、その支援を実施するかどうかを決定するものとすること。
  2 北朝鮮に対する人道支援については、支援物資に係る供給及び分配の状況その他支援の実施状況を監視し、適切に実施されていない場合には中止するものとすること。

 二 国会報告
   政府は、毎年、国会に、北朝鮮に対する支援の目的及び内容、支援物資に係る供給及び分配の状況その他支援の実施状況並びにこれらに対する監視の状況に関する報告を提出しなければならないものとすること。

第五 北朝鮮における人権状況の改善のための努力
 一 北朝鮮における人権状況の把握
  1 政府は、元本邦在住者及びその日本人配偶者の置かれている状況並びに北朝鮮における人権状況の把握に努めるものとすること。
  2 政府は、日本赤十字社に対し、元本邦在住者及びその日本人配偶者の置かれている状況の把握のために必要な協力を求めることができるものとすること。

 二 国際社会の取組への寄与
   国は、北朝鮮における人権状況の改善に関する国際社会の取組に関し、主体的かつ積極的に寄与するものとすること。

第六 施行期日
  この法律は、平成  年  月   日から施行すること。



B、自民党
北朝鮮人権法案(仮称)の骨子


1、脱北者の保護・支援
一、在外公館に保護を求めてきた脱北者は日本または第三国に出国させる
一、脱北者が一定の要件を満たす場合、入管法上の在留資格により受け入れ、定住を支援

2、北朝鮮の人権状況改善
一、国際社会の取り組みに、日本も積極的な役割を果たす
一、北朝鮮の人権状況改善に向けた活動を行うNGOに財政上やその他の支援を行う

3、拉致問題の解決
一、安否不明の拉致被害者および拉致被害者であることが疑われる者について、積極的に調査
一、問題解決の進展状況を国会に報告、国民に公表

2月7日、政府は自民党案(骨子)に対する留意点などをまとめた文書を発表した。自民党案はそれを受けて2月末までに作成される予定である。

<自民党案(骨子)に対する政府の留意点要旨>

1、文書は日本の在外公館における脱北者の保護について、中国、韓国など関係国への配慮から「義務化は避ける」と明記。

2、日本への受け入れについては(1)日本国籍を持つ者は当然保護する(2)在日朝鮮人だったが何らかの事情で北朝鮮に渡った人とその家族は個々の事情を具体的に検討したうえで判断する(3)それ以外は第三国に移送する。

3、 北朝鮮の人権状況の改善に取り組むNGO(非政府組織)への財政的支援は、ODA(政府の途上国援助)大綱に「内政不干渉」の原則があるため、ODAの活用は「運用上難しさがある」。

4、内閣府に脱北者支援室を新設し、支援を円滑に進めるため、法律に関係省庁と地方自治体の責務を明確化することが有益である。