足立伴子入選俳句集



(このページを始めたのは1998年2月21日からです)


「短歌のページ」に戻る

「足立憲昭のホームページ」に戻る

「足立伴子作品集」
川柳(約1600余句)、短歌(約650余首)、俳句(約570余句)の膨大なページへのリンク


ご訪問された方からのご感想、ご指導をお待ちしております。 一言でも大変励みになりますのでどうかよろしくお願い致します。 作者「足立伴子」にも出来るだけ伝えます。 俳句には全く素人の足立憲昭が書き加えた感想に対するご指導もありがたいです。 下の記入欄をお使いになるとメールの設定をされていない方でも簡単に送ることが出来ます。

あなたの E-mailをどうぞ:
次にご感想をこちらへ入れて下さい:
この「submit」というところをクリックするだけで送れます:
画面が変わってAccept. Thank youと出れば大丈夫送れてます。

あるいはメールの設定済みの方はこちら fe4n-adc@asahi-net.or.jp をクリックしてご感想、ご指導をお寄せ下さい。 詳しい文章でも送ることができます。

この色の記述は息子の憲昭による感想文です。このページの真ん中あたりから少しずつ入れ初め順次増やしています。

最近の感想文(クリックすればそこへ飛びます)


079     平成10年3月19日
028     平成10年3月9日
008     平成10年3月8日
006     平成10年3月5日
079     平成10年3月3日
001−003 平成10年2月19日
181−188 平成10年2月21日

句番号は夫富男がつけた掲載順の時系列的通し番号です


001 ○白き藤紫の藤とこぼれけり

               [花園:高桑義生選・昭和五十年七月号〕

「こぼれけり」で溢れるばかりに溜まった花びらが散る様子が出ている。 散らしたのは春風かもしれないしむしろ思わず手を出して藤枝に触れた人の手によるような気もする。 「花園」は京都妙心寺の花園会(妙心寺派宗務本所)発行の月刊誌。 「俳壇」「歌壇」の欄があり足立伴子が俳句を始めたころからよく採用してくれ 大変励みになったようだ。 昭和50年といえば私が大学を卒業した年である。

002 ○墓のみが待つふるさとや彼岸花

               [花園:高桑義生選・昭和五十年十二月号〕

「過疎」という言葉も最近は使われもしなくなった。

003 ○線香花火家族三代手のつどう

               〔花園:高桑義生選・昭和五十二年九月号〕

幼い子は自分で花火の火を付けることができない。 あわただしく手渡している様子。 足立伴子は「線香花火」が大好きで、 火が付いたばかりの花火の激しさにはしゃいでいる私たち子供とは違って 特に「松葉」から「枝垂れやなぎ」のあたりをしみじみと見入っていた。

004 ○一族の墓に花笠さるすべり

               [花園:高桑義生選・昭和五十二年十一月号〕

005 ○菊膾友みな古稀をむかえけり

               [花園:高桑義生選・昭和五十三年二月号〕

006 ○御住職胡瓜作りも僧衣にて

  〔花園:高桑義生選・昭和五十四年八月号〕

忙しいお勤めの合間をみての胡瓜作りのちょっとした作業に いちいち農作業用の服には着替えるなどという贅沢なことはできないのだろう。
しかし一般の人は初めて見るとびっくりしてしまう。 そのあとで「まあいいだろう」と許してあげる気持ちになる。
医者の白衣はそうはいかない。この間新聞に大学病院の前の食堂に医者や医学生が白衣のまま 食事に入るのが批判されていた。これはやはりけじめを付けるべきであろう。 いろいろな病気を持った患者さんを診察したあとの白衣である。
私は院内の食堂でも必ず入り口で白衣を脱いでから入るようにしている。 信州大学医学部に今はないが「クランポン」という食堂が入学したころ構内にあり そこのおじさんは 私たち医学生が白衣姿で食堂に入るのを大きな張り紙で拒否していた。 それでそこのおじさんに世間常識を教えてもらったと今でも感謝している。 大学の医学部では知識の詰め込みだけでなく世間の常識も合わせて教えてもらいたいものだ。

007 ○盆踊り男女別なき浴衣にて

     〔花園:高桑義生選・昭和五十四年九月号〕

008 ○賀状さへ横に書く代となりにけり

     〔花園:高桑義生選・昭和五十五年三月号〕

「年賀状をワープロで横書きにして作るのはあたりまえ」というのは我々の世代。 昔は非常識だったのだろう。人の感じ方の変化を教えてくれる。

白き藤紫の藤とこぼれけり
菊膾友みな古稀をむかえけり
顔見せの幕間に足をのばしけり
亀ぽとり水に落ちけり秋の暮れ
紫陽花の頬寄せあって咲きにけり
噴水の道を好みて通りけり
胃カメラをのんで炎天帰りけり
ルミナリエ四ヶ所みんなまわりけり

「けり」を使った句はいずれもきっぱりとしていて感じ良いのが多い。
下五で用言の連用形に付く「けり」には詩的な感動が盛られているだけでなく、 句の潔さが必要とのこと。 そのとおりだと思う。

009 ○墨染めの袖春風にふくらみぬ

       〔花園:高桑義生選・昭和五十五年六月号〕

010 ○もぎたての茄子は洗わず篭に盛る

【評】茄子紺の言葉があるくらい、ナスはつややかな紫紺色の夏野菜、朝露にぬれた色が美しいのでもぎたてのまま篭に盛った。茄子漬が新鮮美を代表する。


     〔花園:高桑義生選・昭和五十五年十一月号〕

011 ○顔見せの幕間に足をのばしけり

     〔花園:高桑義生選・昭和五十六年一月号〕

012 ○ふるさとや麦三寸の朝明けぬ

〔花園:高桑義生選・昭和五十六年四月号〕

013 ○思うこと亡き人ばかり春の宵

〔花園:江西一鴎選・昭和五十八年八月号〕

014 ○菊花展家族ぐるみの製作者

〔花園:江西一鴎選・昭和五十九年三月号〕

015 ○花吹雪墓地の際まで花むしろ

〔花園:江西一鴎選・昭和六十年六月号〕

016 ○駐車場あけて踊りの輪となりぬ

〔花園:江西一鴎選・昭和六十年九月号〕

私の比較的好きな句の一つ。 盆踊りと言えば昔は寺の境内など場所に苦労することはなかっただろう。 都会では土地の事情からそうはいかない。いきおい駐車場など臨時の場所を確保する必要が出てくる。 せちがらい世の中になったようでもあるがそれでもたくさんの人が踊りに集まってくる。 楽しみなのである。日常の現実と人情の暖まりが「あけて」から「なりぬ」までにかけて絡み合って おもしろい。

017 ○まだ上に人の声する夏の山

【評】随分登ったと思うが、まだ自分より上に人の声がすると感慨深げである。


〔花園:江西一鴎選・昭和六十年十一月号〕

018 ○山峡の駅無人なり赤とんぼ

〔花園:江西一鴎選・昭和六十年十二月号〕

019 ○赤とんぼ飛びゆく空の広さかな

〔花園:江西一鴎選・昭和六十一年一月号〕

020 ○一日の過ぐる早さよ歳の暮

〔花園:江西一鴎選・昭和六十一年三月号〕

021 ○初孫を抱きて今年の日向ぼこ

〔花園:石川静雪選・昭和六十三年三月号〕

022 ○初孫が生まれし家に燕來る

〔花園:石川静雪選・昭和六十三年九月号〕

023 ○落ちし葉の一つ一つの良き色香

〔花園:石川静雪選・昭和六十四年一月号〕

024 ○コスモスの畑中孫が帰りゆく

〔花園:石川静雪選・平成元年二月号〕

025 ○仏花にと咲かせし白菊剪り惜しむ

  〔花園:石川静雪選・平成元年三月号〕

026 ○夫いつも聞き上手にて冬篭もり

〔花園:石川静雪選・平成元年五月号〕

027 ○献立のポイント庭の三つ葉摘む

〔花園:石川静雪選・平成元年六月号〕

028 ○春風にひらりと乗って孫来る

【評】楽しい。まことに楽しい。まさに当所すなわち蓮華国である。 お互い、仏心をお忘れなきよう。


「ひらりと」という擬態語が成功している。
079 亀ぽとり水に落ちけり秋の暮れの「ぼとり」などの擬音語もおもしろいし、 擬音語、擬態語が入った句に良い句が多いように思う。 これはある程度に達しないと出来ないことだろう。

〔花園:石川静雪選・平成元年七月号〕

029 ○木の芽風縄飛びはずむ孫三人

〔花園:石川静雪選・平成元年八月号〕

030 ○五月雨や用なき電話かけており

〔花園:石川静雪選・平成元年九月号〕

031 ○お向かいも去年のすだれ吊したり

〔花園:石川静雪選・平成元年十月号〕

032 ○コスモスの咲く駅みんな小さくて

【評】純粋な気持ちが素直に伝わってくる。明るくて心地よい。秋の澄明なローカル線の駅々。空気もうまい。


〔花園:石川静雪選・平成元年十二月号〕

033 ○ぶらんこに乗りつぎなくて秋の暮

〔花園:石川静雪選・平成二年一月号〕

034 ○歩くにはもったいないよな落葉道

〔花園:石川静雪選・平成二年二月号〕

035 ○病室の闇に真冬の蘭香る

〔朝日新聞長野版:矢島渚男選・平成二年二月四日〕

036 ○雪落つるのみ司法館人気無し

〔朝日新聞長野版:矢島渚男選・平成二年二月十八日〕

037 ○粒ほどの花を持つ草秋の雨

〔花園:石川静雪選・平成二年三月号〕

038 ○ひそと住む犬と仔猫と寒雀

〔朝日新聞長野版:矢島渚男選・平成二年三月十八日〕

039 ○雪柳咲く頃いつも孫の来て

〔朝日新聞長野版:矢島渚男選・平成二年三月二十五日〕

040 ○老いぬれば落葉も親し色の良き

〔花園:石川静雪選・平成二年四月号〕

041 ○点滴のびんに映りし青葉かな

〔朝日新聞長野版:矢島渚男選・平成二年六月十七日〕

042 ○海芋咲く奈良の寺には尼が住む

〔朝日新聞長野版:矢島渚男選・平成二年六月二十四日〕

043 ○雪柳満開夜も明るくし

〔花園:石川静雪選・平成二年七月号〕

044 ○花菖蒲見ゆる所に机置く

〔朝日新聞奈良版:右白暮石選・平成二年七月二十一日〕

045 ○禅寺に関取の名の浴衣あり

〔朝日新聞長野版:矢島渚男選・平成二年七月二十二日〕

046 ○引越の荷に雨が降る桜散る

〔花園:石川静雪選・平成二年八月号〕

047 ○神戸港夜景涼しく出航す

〔朝日新聞奈良版:右白暮石選・平成二年八月二十五日〕

048 ○万緑や口笛吹いて山歩く

〔花園:石川静雪選・平成二年九月号〕

049 ○コスモスに似た母享年二十八

〔朝日新聞長野版:矢島渚男選・平成二年九月九日〕

050 ○涼風に赤とんぼ乗り寺に来る

〔朝日新聞奈良版:右白暮石選・平成二年九月二十二日〕

051 ○赤とんぼベッドまで来てすいと去る

〔朝日新聞奈良版:右白暮石選・平成二年十月十三日〕

052 ○子が書きし朝顔日記孫も書く

〔花園:石川静雪選・平成二年十一月号〕

053 ○月見草河原に尼僧二人連れ

〔花園:石川静雪選・平成二年十二月号〕

054 ○小正月犬の飲み水氷りゐる

〔朝日新聞奈良版:右白暮石選・平成三年二月十六日〕

〔朝日新聞長野版:矢島渚男選・平成三年一月二十九日〕

〔花園:石川静雪選・平成三年五月号〕

055 ○良い顔をみんなしてゐる梅見かな

〔朝日新聞長野版:矢島渚男選・平成三年二月二十六日〕

056 ○春嵐椿の花を落とし過ぐ

〔朝日新聞奈良版:右白暮石選・平成三年三月十六日〕

057 ○冬晴や夫を頼りの試歩に出る

【評】冬晴という季語がまことに適切だ。さだめし退院も間近なことであろう。

〔花園:石川静雪選・平成三年四月号〕

058 ○夜桜や琴尺八の老二人

〔朝日新聞長野版:矢島渚男選・平成三年四月十六日〕

059 ○春の朝パン焼くにほひ新しき

〔朝日新聞奈良版:右白暮石選・平成三年四月二十七日〕

060 ○看護婦と屋上で見る春の虹

〔朝日新聞奈良版:右白暮石選・平成三年五月二十五日〕

061 ○ひとり居も倦まず椿に雀きて

〔花園:石川静雪選・平成三年六月号〕

062 ○永き日や幼き写真皆可愛ゆ

〔花園:石川静雪選・平成三年七月号〕

063 ○運動に朝夕掃きぬ竹落葉

〔朝日新聞奈良版:右白暮石選・平成三年七月六日〕

064 ○囀りやセーターぬぎて試歩に出る

〔花園:石川静雪選・平成三年八月号〕

065 ○梅雨冷の部屋より暗きニュースかな

  〔朝日新聞奈良版:右白暮石選・平成三年八月三日〕

066 ○遠泳の出来た少女も老いて病む

  〔朝日新聞長野版:矢島渚男選・平成三年八月六日〕

067 ○音のして振返りしが花火消ゆ

〔朝日新聞長野版:矢島渚男選・平成三年八月二十日〕

068 ○バラ挿して店主も客も閑すこし

〔花園:石川静雪選・平成三年九月号〕

069 ○落梨とことわり宅急便のくる

〔朝日新聞奈良版:右白暮石選・平成三年九月十四日〕

070 ○月光が点滴の管明るくす

〔朝日新聞長野版:矢島渚男選・平成三年十月一日〕

071 ○時の日に形見の時計ねじをまく

〔花園:石川静雪選・平成三年十一月号〕

072 ○蝉が鳴く敗戦の日もかくありし

〔花園:石川静雪選・平成三年十二月号〕

073 ○犬小屋に黄葉紅葉の散りて積む

〔朝日新聞奈良版:右白暮石選・平成三年十一月三十日〕

074 ○枯れ草の中一茎の蒼さあり

【評】枯れすすむ中に一筋の青さが残っているのを見て安らぎをおぼえた。よく観てえた句。

  〔ジパング倶楽部:古川白雨選・平成四年一月号〕

075 ○生きている幸せ今宵虫の声

【評】生きている幸せ、生かされている幸せを、今宵は虫の声に感ずるという。毎朝毎夜、何かから感ずることのできる有難さ、尊さ。

〔花園:石川静雪選・平成四年二月号〕

076 ○笹鳴の来て快復も日毎良き

〔信濃毎日新聞:堀口星眠選・平成四年二月十八日〕

077 ○柚風呂に祖母と入りぬ今孫と

〔朝日新聞長野版:矢島渚男選・平成四年二月十八日〕

078 ○冬深し夜空の星も三日月も

〔朝日新聞奈良版:右白暮石選・平成四年二月二十二日〕

079 ○亀ぽとり水に落ちけり秋の暮れ

〔花園:石川静雪選・平成四年三月号〕

「亀ぼとり」の特に「ぼとり」がおもしろい。 「秋の暮れ」でなくても四季のうちいずれであってもそれぞれ趣があるのでは。

「亀」といえば「亀の声」という季語(春)があるそうだ。 もちろん亀は鳴かないはずだがのんびりとした春の夜に 何とも知れぬ声が聞こえてくる気がするのを 「亀が鳴いているのだ」と信じている土地の人達がいたのだろう。 同じようなことがミミズでもある。 夜「ジージー」と実はケラが鳴いているのを昔のひとは 「ミミズが鳴いている」と言った。

上記につき
「ハードエッジの落選俳句館」(http://member.nifty.ne.jp/HE/ を運営されている森田眞明様より 下記ご指摘を受けました。ご指導ありがとうございました。  

意味としては、亀が鳴けば、「亀の声」ですが、
 季語としては、「亀鳴く」です
 実作上も、「亀鳴くや」として 使われるのが 大半と 思います
         (平成10年3月19日)                  

「亀鳴く」という季語を使えるようになったら俳人として一人前だと聞いて、 母もそういう句を作っているかと「亀」で検索をかけたら 「亀鳴く」は出て来ずに「亀ぼとり」が出てきた。

亀鳴くや皆愚かなる村のもの      高浜虚子

080 ○暦買ふ花いっぱいの絵にひかれ

〔花園:石川静雪選・平成四年四月号〕

081 ○冬晴を愛す病院のベッドにて

〔朝日新聞長野版:矢島渚男選・平成四年三月二十四日〕

082 ○春着縫ふ母の名前の尺ざしで

〔朝日新聞全国版:加藤楸邨選・平成四年四月十一日〕

083 ○歳晩の旅露天風呂ひとりにて

〔花園:石川静雪選・平成四年五月号〕

084 ○着ぶくれて老婆になりぬきっぱりと

【評】なれば良い、きっぱりとなれば良い。随処に主となれば立処皆な真なり、と。

〔花園:石川静雪選・平成四年六月号〕

085 ○仏壇を開け母の日の僧を待つ

〔朝日新聞長野版:矢島渚男選・平成四年六月十六日〕

086 ○遠まはり花多き道病院へ

〔花園:石川静雪選・平成四年七月号〕

087 ○噴水の飛沫(しぶき)も受けて在パリ

〔朝日新聞全国版:金子兜太選・平成四年七月四日〕

088 ○墓地に咲く姫百合は亡き娘と思う

〔朝日新聞奈良版:津田清子選・平成四年七月四日〕

089 ○春雨にしづもる心衣を縫ふ

〔ジパング倶楽部:古川白雨選・八月号〕

090 ○花柄でちょっと変身初夏の街

〔花園:石川静雪選・平成四年十月号〕

091 ○蝉生まる短きいのち動かして

  〔花園:石川静雪選・平成四年十一月号〕

092 ○大根干す昔ながらの一軒家

〔ジパング倶楽部:古川白雨選・平成五年一月号〕

093 ○名月や孫の手ひいてノート買い

〔花園:石川静雪選・平成五年三月号〕

094 ○一鉢のすみれで病ふと忘れ

  〔兵庫医大「かけはし」・平成五年六月十日〕

095 ○千羽鶴たまりて病い春はゆく

  〔兵庫医大「かけはし」・平成五年六月十日〕

096 ○菖蒲湯に胃なき老躯を沈めたり

〔朝日新聞長野版:矢島渚男選・平成五年六月二十二日〕

097 ○花風を入れてドライブ山の尾根

〔ジパング倶楽部:古川白雨選・平成五年七月号〕

098 ○あともどりしそうな病春の雪

〔花園:石川静雪選・平成五年七月号〕

099 ○一蝶の城を仰ぎて春惜しむ

〔花園:石川静雪選・平成五年八月号〕

100 ○白百合にひかれて白に更衣

〔朝日新聞長野版:矢島渚男選・平成五年七月二十七日〕

101 ○庭石となりてひき臼落葉受く

【評】原句の「なりし」を「なりて」に改めた。「し」では説明だけに終り、「て」で、現状に安堵してなり切っている表現となる。如実がいい。

〔花園:石川静雪選・平成五年九月号〕

102 ○鏡拭く夏痩せひどき顔にして

〔朝日新聞長野版:矢島渚男選・平成五年八月三十一日〕

103 ○人佳かれ我もよかれと菊植うる

 

〔毎日新聞全国版:岡本眸選・平成五年九月六日〕

104 ○病床の部屋六人も更衣

【評】病室の六人は、同じ境遇であり、同じ不安を抱いている。六人が揃って更衣したことに、それが暗示されている。

〔読売新聞兵庫版:澤井我来選・平成五年九月二十二日〕

105 ○巡る季の青葉の中に夫とゐる

【評】春夏秋冬、幾年一緒に楽しんで来たことか。しかも何時もこうして青葉の中に居るような、と。満面の幸福感。

〔花園:石川静雪選・平成五年十月号〕

106 ○梨をむくつきそひ婦の手つややかに

〔信濃毎日新聞・平成五年十月十三日〕

107 ○秋簾目かくしの役まだありて

〔朝日新聞長野版:矢島渚男選・平成五年十月十九日〕

108 ○一本の胡瓜の余る老いひとり

〔読売新聞兵庫版:澤井我来選・平成五年十月二十日〕

109 ○香水の香の病室に安眠す

〔花園:石川静雪選・平成五年十一月号〕

110 ○秋の蝉ひた鳴くこゑの澄み透り

〔毎日新聞全国版:飯田龍太選・平成五年十一月八日〕

111 ○手習いの墨蒸発の大暑かな

〔読売新聞兵庫版:澤井我来選・平成五年十一月十日〕

112 ○まだ健在灯火親しむ片目あり

〔朝日新聞長野版:矢島渚男選・平成五年十二月八日〕

113 ○墓ぬらす暑かろうかとまた濡らす

〔花園:石川静雪選・平成六年一月号〕

114 ○時雨雨はや京の町灯がともる

〔読売新聞兵庫版:澤井我来選・平成五年十二月二十二日〕

115 ○旅に病むスペイン医師の黒コート

〔朝日新聞全国版:金子兜太選・平成六年一月二十三日〕

116 ○山鳩のほろりと鳴いて秋の風

〔花園:石川静雪選・平成六年二月号〕

117 ○元日や粥(かゆ)流しこむ胃無き身に

〔朝日新聞全国版:金子兜太選・平成六年二月十三日〕

118 ○かす汁や老いし夫婦の黙しがち

〔読売新聞兵庫版:澤井我来選・平成六年二月二十三日〕

119 ○冬にさよならピンクの服に白い靴

〔読売新聞兵庫版:澤井我来選・平成六年三月十六日〕

120 ○摩耶山へ徒歩は遥かや木の葉髪

〔花園:石川静雪選・平成六年四月号〕

121 ○梅林や写真撮る場所皆同じ

〔日本経済新聞全国版:江国滋選・平成六年四月十七日〕

122 ○不出来でもおはぎと申し彼岸かな

〔読売新聞兵庫版:澤井我来選・平成六年四月二十日〕

123 ○手術すみやっと軽口春の空

   〔兵庫医大病院「かけはし」・平成六年五月二十五日〕

124 ○雀来て共に今年の日向ぼこ

〔花園:石川静雪選・平成六年六月号〕

125 ○身ぶるいをして紅白の梅の中

〔花園:石川静雪選・平成六年七月号〕

126 ○紫陽花の頬寄せあって咲きにけり

〔毎日新聞全国版:高羽狩行選・平成六年八月一日〕

127 ○貧しさを知らざりし日よ海泳ぐ

【評】大きい海に浮かぶと、自分という小さい存在が悲しいほどいとしく感じられてくる。その孤独感から、曹つて貧しさを知らなかった日のことが、俄に強く思い出されてくるのだ。

   〔読売新聞兵庫版:澤井我来選・平成六年八月十七日〕

128 ○試着室水着もやはり着なければ

【評】デパートの女性用水着売場には、ずらりと試着室が並んでいることを、家人に確かめた上で採用した。おもしろい句です。

  〔日本経済新聞全国版:江国滋選・平成六年八月二十八日〕

129 ○夏菊や白はやっぱり仏壇に

〔花園:石川静雪選・平成六年九月号〕

130 ○夕風や老師の白き単衣帯

  〔読売新聞兵庫版:澤井我来選・平成六年九月七日〕

131 ○夕風や孫の浴衣の袖短か

〔読売新聞兵庫版:澤井我来選・平成六年九月二十八日〕

132 ○氷菓子食べつつまわる異人館

〔読売新聞兵庫版:澤井我来選・平成六年十月十二日〕

133 ○萩こぼる車椅子なるわがひざに

【評】車椅子の不自由な身だが、そんな自分の膝にも萩の花がこぼれてきたのだった。大自然の公平なめぐみを作者は感じるのであった。 

〔読売新聞兵庫版:澤井我来選・平成六年十一月二十三日〕

134 ○菊人形作りし人の日毎見に

  〔朝日新聞長野版:矢島渚男選・平成六年十一月十六日〕

135 ○打ち水の出来る庭ありこれも幸

  〔花園:石川静雪選・平成六年十二月号〕

136 ○夫は留守水を汲み置く落ち葉焚き

〔朝日新聞全国版:川崎展宏選・平成六年十二月四日〕

137 ○終戦日孫八人と風呂に入り

【評】孫八人と風呂に。平和な証拠。平和ほど有難いものはない、戦時を回想すれば殊更に。

〔花園:石川静雪選・平成七年一月号〕

138 ○ロープエー紅葉の波を見おろしつ

〔読売新聞兵庫版:澤井我来選・平成七年一月十一日〕

139 ○正月や入試の孫は微笑せず

〔日本経済新聞全国版:江国滋選・平成七年一月二十二日〕

140 ○このままにねむるは惜しや虫の声

  〔兵庫医大「かけはし」第21号・平成七年一月十五日〕

141 ○うそ寒く整形外科に日参す

〔朝日新聞長野版:矢島渚男選・平成七年一月二十四日〕

142 ○菊枕にも頼りゐる病後かな

〔花園:石川静雪選・平成七年二月号〕

143 ○紅葉して祭のごとき山の中

〔花園:石川静雪選・平成七年三月号〕

144 ○春浅く津波の如く余震来る

                  

〔読売新聞兵庫版:澤井我来選・平成七年三月二十九日〕

145 ○着ぶくれて余震の中でなほ無口

〔読売新聞兵庫版:澤井我来選・平成七年四月五日〕

146 ○神戸市は瓦礫と化して寒灯下

〔神戸新聞:伊丹三樹彦選・平成七年四月十七日〕

147 ○佐保姫のお出ましを待つ震災地

〔神戸新聞:伊丹三樹彦選・平成七年四月二十四日〕

148 ○北風や一本榎すくと立ち

〔読売新聞兵庫版:澤井我来選・平成七年四月二十五日〕

149 ○海からの風山からの風神戸春

〔読売新聞兵庫版:澤井我来選・平成七年五月十七日〕

150 ○避難所にまだ人住める夕若葉

〔毎日新聞全国版:岡本眸選・平成七年六月十一日〕

151 ○薔薇咲いて吾が家突然美しき

                〔朝日新聞長野版:矢島渚男選・平成七年六月十四日〕

152 ○そのあたりまで送りぬと梅香り

                       〔俳句:阿部完市選・平成七年七月号〕

153 ○顔洗う仮設住宅水ぬるむ

               〔読売新聞兵庫版:澤井我来選・平成七年六月二十八日〕

154 ○避難所の紙箱の上紙の雛

                       〔花園:石川静雪選・平成七年七月号〕

155 ○蕗煮るや瓦礫の街をもどり来て

【評】不自由な生活の中でも、季節の味覚を大事にする。家族の為、自分への励ましのため。

                  〔毎日新聞全国版:岡本眸選・平成七年七月三日〕

156 ○いきいきと雨を受けつつ濃紫陽花

               〔日本経済新聞全国版:江国滋選・平成七年七月十六日〕

157 ○ころもがえ白きを着れば気もそぞろ

                  〔神戸新聞:伊丹三樹彦選・平成七年七月十八日〕

158 ○地震などはうそのやうなる春うらら

                       〔花園:石川静雪選・平成七年八月号〕

159 ○罹災者もテントの中で更衣

                 〔神戸新聞:伊丹三樹彦選・平成七年七月二十四日〕

160 ○炎天を避けて夕べの犬散歩

                       〔毎日新聞兵庫版・平成七年八月三日〕

161 ○白服や少女でありし頃偲ぶ

                 〔読売新聞兵庫版:澤井我来選・平成七年八月九日〕

162 ○パラソルのレースひらひら瓦礫町

                 〔毎日新聞全国版:岡本眸選・平成七年八月十三日〕

163 ○噴水の道を好みて通りけり

               〔読売新聞兵庫版:澤井我来選・平成七年八月二十三日〕

164 ○早立ちを絽にて見送る若女将

【評】朝早い出発を、以外にも旅館の若い女将が見送ってくれた。しかも絽を着て。絽と若女将が抜群。

                  〔VISA機関紙:岡本久一選・平成七年九月号〕

165 ○教え子も祖母となりいて盆踊り

【評】作者はすでに年輩の元教師であろう。あの「教え子」にもう「孫」がいるなんてーーー。

               〔毎日新聞兵庫版:和田悟朗選・平成七年八月二十九日〕

166 ○白鳥にパン屑与ふ涼しさよ

                〔読売新聞兵庫版:澤井我来選・平成七年八月三十日〕

167 ○柏餅買ふ三人の孫を連れ

〔花園:石川静雪選・平成七年九月号〕

168 ○緑陰の椅子に一人はいつも居り

               〔朝日新聞長野版:矢島渚男選・平成七年八月二十九日〕

169 ○秋風や被災のわれは無一物

                       〔毎日新聞兵庫版・平成七年九月五日〕

170 ○スペインを恋ふ向日葵の黄なる畑

                 〔日本経済新聞:石原八束選・平成七年九月十七日〕

171 ○秋風や地震に真実無一物

               〔毎日新聞全国版:大峯あきら選・平成七年九月十八日〕

172 ○震災のかたづけばかり更衣

                       〔俳句:草間時彦選・平成七年十月号〕

173 ○蝉時雨地震の神戸も蝉時雨

                 〔神戸新聞:伊丹三樹彦選・平成七年九月二十六日〕

174 ○近づいてまた遠ざかる稲田かな

                〔毎日新聞全国版:大峰あきら選・平成七年十月二日〕

175 ○秋彼岸すみて山門しづもるる

               〔日本経済新聞全国版:江国滋選・平成七年十月十五日〕

176 ○蓮開く寺ある奈良の娘の住居

                 〔神戸新聞:伊丹三樹彦選・平成七年十月二十三日〕

177 ○立秋や老女と言われ途惑える

               〔読売新聞兵庫版:沢井我来選・平成七年十月二十四日〕

178 ○蝉の穴ある庭がある家に住む

                      〔花園:石川静雪選・平成七年十一月号〕

179 ○野良猫や顔見て日なたでんと居り

               〔兵庫医大「かけはし」第22号・平成七年十月十五日〕

180 ○こんな良い虫の音聞ける生きたけれ

               〔朝日新聞長野版:矢島渚男選・平成七年十月三十一日〕

181 ○神無月いつも変らぬ茶色着る

                〔毎日新聞兵庫版:和田悟朗選・平成七年十一月一日〕

秋は茶色の季節。茶色の服装をしておれば無難である。 片意地を張らないで無難に過ごそうという 気持ちに落ち着いてしまうのも秋の季節のなせる業か。 春だとこういうわけにはいかない。少しは目立つ服も着たくなるものである。 「服は茶色にした。季節の色だから文句は無いだろう。さあ出発だ。」との意気込みさえも 逆に感じられる。

182 ○月仰ぐただそれだけで豊かなり

               〔毎日新聞兵庫版:和田悟朗選・平成七年十一月十四日〕

月をぼんやりと眺める余裕が現代人には少ない。 働き盛りでもしもそんな事が出来る人がいたらよほど恵まれた人でしょう。 「月仰ぐ」事が出来るかどうかは余裕のある人かどうかの尺度になるのかも。

183 ○残酷な鏡よ秋の私がいる

                 〔神戸新聞:伊丹三樹彦選・平成七年十一月二十日〕

「鏡よ鏡、この世で一番美しい女性は誰か!」と白雪姫の魔女の鏡を想い起こさせる。 魔法の鏡よりも厳しい正直な鏡が襲う現実の姿。 「秋の私」がおもしろい言い方。きつい言葉で始まってはいるが最後は達観、納得で終わっている。

184 ○朝顔の一対の鉢門前に

                      〔花園:石川静雪選・平成七年十二月号〕

「朝顔に釣瓶取られてもらい水」とお千代さんの句を思い出したが、 「一対の」とはささやかな感じがする。 「花園」は京都妙心寺の花園会発行の月間誌。

185 ○洗濯を干して仰げば鰯雲

              〔朝日新聞全国版:稲畑汀子選・平成七年十一月二十六日〕

昔は洗濯干しと言えば長い棒の先にY字型をしたものを使って竿竹を挙げていた。 竿竹は夏の昼寝のころに「さーおーだけー」と良く売りに来て幼少時この声を聞くと眠くなったものだ。 竿竹の持ちを良くするために私が小学校のころ 合成樹脂で覆い熱湯をかけて締め付け固めるものが出回り、母も使っていたが最近はどうか。 「鰯」という漢字の読みは灘中の入学試験にでも出題されそうであるが「いわし」で合っていた。 全国版に選ばれているが、主婦生活感のこもった出だしで「干して仰げば」と展開し 最後に季節感あふれる「鰯雲」が入って全体の構成も良さそうだし、 洗濯物を持ち上げる力や空を見上げる動きも感じられておもしろい句だと思う。 最近は室内に便利な乾燥機が普及し空を仰ぐような作業をすることも少なくなった。

186 ○地震神戸街路樹ギンナン黄ばみたり

              〔読売新聞兵庫版:沢井我来選・平成七年十一月二十九日〕

187 ○名月や仮設の街はただ静か

【評】震災の町で名月を仰ぎみての感懐。 下五の<静か>には人間の運命を象徴する鋭さがある。

              〔日本経済新聞全国版:石原八束選・平成七年十二月三日〕

芭蕉の時代から使われるようになった 古典的な、古臭い感じの「季語(四文字)+や」の上五で始まる句には中七下五で 常識的な関係のものを配合したのでは駄目で、作者独自の視点でつながりを持たせ 独特の世界を盛ることが必要とされる。
「名月」と「仮設住宅」を結び付けたのは「独特」以外の何者でもない。 「静か」の鋭さを映えさせる「ただ」と言う言葉の響きに俳句に素人の私は心を打たれる。 復興に専念せざるを得ない被災者にとって名月を愛でる余裕があろうか。 それよりも夜は休息を「ただ」ひたすら取る必要がある。疲れた体と心のために。

188 ○紅葉狩近い有馬も五年ぶり

〔毎日新聞兵庫版:和田悟朗選・平成七年十二月六日〕

「00坊」という旅館名が多く、秀吉も紅葉を愛で、 万葉集時代から日本人なら誰でも知っている有馬温泉は 京阪神からすぐ近くにあるが結構高くつくので庶民階級が行くことは意外と少ない。 作者は忙しない昨今、風流に身を委ねることの難しさを詠んだのであろうが 「5年ぶり」にもなってしまう原因はそういうところにあるというのが私の実感である。

「有馬温泉病院」も以前は入院するのに月に数十万円も必要とされた。 私が院長に招聘されたころから健康保険のみで入院できる部屋が半数くらいにまで増えたが それまではよほど特別な人達か, 一般人が田や畑、山林を手放すなどして入院していた。

「有馬温泉病院は超高級病院だ」としていまだに敬遠する人達も多いが, 実際は亜急性期のリハビリテーション病院として生まれ変わろうと私が離れてからも 真摯な努力をしているようだ。 「お医者様でも有馬の湯でも」治らない特殊な病もあるようだが大概の苦しみは 癒してくれる、社会の要求に答えることのできるような素晴らしい病院に発展するものと期待している。

189 ○木枯らしを突っきり走る宅急便

               〔毎日新聞兵庫版:和田悟朗選・平成七年十二月十二日〕

190 ○萩さかり整形外科へ通勤す

               〔読売新聞兵庫版:沢井我来選・平成七年十二月十三日〕

191 ○向日葵と空だけありてアンダルシァ

                     〔俳句:草間時彦選秀逸・平成八年一月号〕

192 ○海水浴五十余年もせず老いぬ

                    〔俳句:星野麦丘人選秀逸・平成八年一月号〕

193 ○枯蔦や蛇のぬけがら絡みゆれ

              〔朝日新聞長野版:矢島渚男選・平成七年十二月二十四日〕

194 ○デパートも小売りの店もジングルベル

                  〔神戸新聞:伊丹三樹彦選・平成八年一月十五日〕

195 ○紅葉散る地震の街角バス停に

               〔読売新聞兵庫版:沢井我来選・平成八年一月三十一日〕

196 ○仮設村大さむ小さむ暮となる

                〔読売新聞兵庫版:沢井我来選・平成八年二月十四日〕

197 ○これがまあ神戸か雪の仮設村

                〔朝日新聞全国版:川崎展宏選・平成八年二月十八日〕

198 ○裸木と仮設住民耐えている

                  〔神戸新聞:伊丹三樹彦選・平成八年二月十九日〕

199 ○土瓶蒸し和気あいあいの声高し

                       〔花園:石川静雪選・平成八年三月号〕

200 ○甘酒を飲めば祖母とのかの頃よ

                 〔神戸新聞:伊丹三樹彦選・平成八年二月二十六日〕

201 ○立春の陽を背にグリム童話読む

               〔読売新聞兵庫版:澤井我来選・平成八年二月二十九日〕

202 ○冬に死すフォークダンスの友つぎつぎ

               〔朝日新聞長野版:矢島渚男選・平成八年二月二十五日〕

203 ○近づけばポッと香りす梅一輪

                〔毎日新聞兵庫版:和田悟朗選・平成八年三月十二日〕

204 ○やり直す人生ほしや年の暮

                       〔花園:石川静雪選・平成八年四月号〕

205 ○いかなごがととれて浜辺に春が来た

               〔毎日新聞兵庫版:和田悟朗選・平成八年三月二十六日〕

206 ○パンジーが窓で人呼ぶ喫茶店

               〔毎日新聞兵庫版:和田悟朗選・平成八年四月十日〕

207 ○夜の梅だーれも観ずに月が見る

                 〔神戸新聞:伊丹三樹彦選・平成八年四月二十二日〕

208 ○日脚伸ぶベンチに老いの二三人

                   〔神戸新聞:澤井我来選・平成八年四月十八日〕

209 ○三日月や一村一寺雪の中

                       〔花園:石川静雪選・平成八年五月号〕

210 ○(文字化け改定中)

                 〔神戸新聞:伊丹三樹彦選・平成八年五月二十七日〕

211 ○雛段にフランス人形置くことも

                〔読売新聞兵庫版:澤井我来選・平成八年六月十二日〕

212 八十路過ぎ又して舞の夏稽古

                〔毎日新聞兵庫版:和田悟朗選・平成八年六月十一日〕

213 ○新しき白靴卸クラス会

                〔毎日新聞兵庫版:和田悟朗選・平成八年六月十八日〕

214 ○落椿皿に浮べて物思ふ

                〔読売新聞兵庫版:澤井我来選・平成八年六月二十日〕

215 ○孫の言ふ事して遊ぶ子供の日

【評】幼い子供というものはこんなもの。こちらの都合など構わず自分の好きな遊びにつき合ってやっているおばあさん。季語が仲々よく利いている。

                〔角川書店刊「俳句」:辻田克巳選・平成八年七月号〕

216 ○母と子の入学式のよいお顔

                       〔花園:石川静雪選・平成八年七月号〕

217 ○みなみ西新築林立風薫る

                 〔毎日新聞兵庫版:和田悟朗選・平成八年七月二日〕

218 ○紋白蝶たった一羽で河を越し

                 〔毎日新聞兵庫版:和田悟朗選・平成八年七月九日〕

219 ○明日開くあやめの数を話し合ふ

                 〔毎日新聞全国版:岡本眸選・平成八年七月十四日〕

220 ○ひざ頭かばふ冷房強き部屋

                〔毎日新聞兵庫版:和田悟朗選・平成八年七月十七日〕

221 ○風薫る神戸新築あちらこちら

           〔神戸新聞:伊丹三樹彦選・平成八年七月十八日〕

222 ○夏痩せて更地の街を歩みたり

               〔毎日新聞兵庫版:和田悟朗選・平成八年七月二十三日〕

223 ○たんぽぽは顔しっかりと上げて笑む

                       〔花園:石川静雪選・平成八年八月号〕

224 ○山葵沢水躍りつつ流れゆく

                  〔ジパング倶楽部:古川白雨選・平成八年八月号〕

225 ○出不精の友に紫陽花持ちて訪ふ

                〔毎日新聞兵庫版:和田悟朗選・平成八年七月三十日〕

226 ○仮設にも二度目風鈴位置をしめ

               〔毎日新聞兵庫版:和田悟朗選・平成八年七月二十三日〕

227 ○向日葵や階段両横書籍積む

               〔朝日新聞長野版:矢島渚男選・平成八年八月二十五日〕

228 ○若葉風腹立てぬよう吹かれゐる

                       〔花園:石川静雪選・平成八年九月号〕

229 ○疎開地を訪うて草笛古稀の人

               〔毎日新聞全国版:堀口星眠選・平成八年八月二十五日〕

230 ○胃カメラをのんで炎天帰りけり

                〔毎日新聞兵庫版:和田悟朗選・平成八年七月三十日〕

231 ○一病も二病も持って夏を越し

                〔日本経済新聞全国版:江国滋選・平成八年九月八日〕

232 ○林立の復興の家梅雨に入る

【評】復興の家が林立している。人間の逞しい力が感じられる。そういったときにも自然の巡りはすすみ、今は「梅雨に入る」季節なのである。

                〔読売新聞兵庫版:澤井我来選・平成八年九月十一日〕

233 ○レース着て白いパラソルくるりさす

                  〔神戸新聞:伊丹三樹彦選・平成八年九月十六日〕

234 ○海の空神戸がんばりあげ花火

               〔毎日新聞兵庫版:和田悟朗選・平成八年九月二十五日〕

235 ○しんみりと梅雨の音聞くこれも贅

                       〔花園:石川静雪選・平成八年十月号〕

236 ○炎昼のはたと絶えたる人通り

                 〔読売新聞兵庫版:澤井我来選・平成八年十月三日〕

237 ○震災を忘れようとて泳ぐ海

               〔日本経済新聞全国版:石原八束選・平成八年十月六日〕

238 ○盆踊りやはりつられて踊りたり

               〔毎日新聞兵庫版:和田悟朗選・平成八年十月二十三日〕

239 ○おそろいの赤い鼻緒の盆の下駄

          〔神戸新聞:伊丹三樹彦選・平成八年十月二十八日〕

240 ○八月や日影に孔雀羽根のばす

               〔読売新聞兵庫版:澤井我来選・平成八年十月三十一日〕

241 ○あの世ともこの世ともかな虹二つ

                 〔神戸新聞:伊丹三樹彦選・平成八年十一月十二日〕

242 ○静けしや時雨となりし災害地

               〔毎日新聞兵庫版:和田悟朗選・平成八年十一月十三日〕

243 ○旅人のわれに時雨の冷たかり

                〔毎日新聞兵庫版:和田悟朗選・平成八年十二月三日〕

244 ○大さむと皆かけ込んで来る医院

               〔毎日新聞兵庫版:和田悟朗選・平成八年十二月十七日〕

245 ○黒揚羽年毎来る母なれや

                〔角川書店刊「俳句」:和田悟朗選・平成九年一月号〕

246 ○夕やけや地蔵のひざに散る落葉

            〔兵庫医大病院「かけはし」第23号:平成八年十二月二十五日〕

247 ○鳩どもがパンに寄りくる日向かな

            〔兵庫医大病院「かけはし」第23号:平成八年十二月二十五日〕

248 ○まわらない言葉で孫はおめでとう

            〔兵庫医大病院「かけはし」第23号:平成八年十二月二十五日〕

249 ○山茶花や手袋の手でそっとふれ

            〔兵庫医大病院「かけはし」第23号:平成八年十二月二十五日〕

250 ○丸めたる背なにころりと木の実ふる

                  〔神戸新聞:伊丹三樹彦選・平成九年一月十三日〕

251 ○家じゅうのガラス磨いて師走かな

                〔毎日新聞兵庫版:和田悟朗選・平成九年一月十四日〕

252 ○女孫居り美しきお正月

【評】「美しきお正月」とは何といい言葉だろう。いい切ってさわやか。「女孫」は「美しきお正月」の中心。

               〔朝日新聞全国版:川崎展宏選・平成九年一月二十七日〕

253 ○霧吹いて明日のブラウス秋の色

            〔角川書店刊「俳句」:草間時彦選(秀逸)・平成九年二月号〕

254 ○別れ来て白壁長く影うつる

 

                〔角川書店刊「俳句」:和田悟朗選・平成九年二月号〕

255 ○ルミナリエ四ヶ所みんなまわりけり

               〔毎日新聞兵庫版:和田悟朗選・平成九年一月二十八日〕

256 ○仮設にてまだ住みをれる冬至かな

                 〔読売新聞兵庫版:澤井我来選・平成九年二月五日〕

257 ○石けりをしつゝ帰る子春近し

                  〔朝日新聞全国版:飴山實選・平成九年二月九日〕

258 ○元日や区画整理はまだすまず

                〔毎日新聞兵庫版:和田悟朗選・平成九年二月十一日〕

259 ○逝きし友来て見つるらむルミナリエ

                  〔神戸新聞:伊丹三樹彦選・平成九年二月十七日〕

260 ○秋の山久し振りなる深呼吸

                       〔花園:石川静雪選・平成九年三月号〕

261 ○悴みし一月十七日風の音

                  〔神戸新聞:伊丹三樹彦選・平成九年三月十一日〕

262 ○冬鳥の来る池見むと言いしまま

                〔角川書店刊「俳句」:和田悟朗選・平成九年四月号〕

263 ○朝霜や京の漬け物買ひに立つ

                       〔花園:石川静雪選・平成九年四月号〕

264 ○春昼のなつメロ老女ばかりなり

               〔読売新聞兵庫版:澤井我来選・平成九年三月二十六日〕

265 ○二度三度出会うや梅林近くして

               〔毎日新聞兵庫版:和田悟朗選・平成九年三月二十六日〕

266 ○震災のことも話題に屠蘇をくむ

【評】神戸の方にはあの震災で受けた心の傷はいつまでも消えないもの。

                  〔ジパング倶楽部:古川白雨選・平成九年四月号〕

267 ○地震の事夢でありしや梅仰ぐ

                 〔毎日新聞兵庫版:和田悟朗選・平成九年四月三日〕

268 ○ふらここのスカート花の開くごと

 

                   〔神戸新聞:伊丹三樹彦選・平成九年五月五日〕

269 ○水温むカルチャー広告どさり来る

                  〔神戸新聞:伊丹三樹彦選・平成九年五月十二日〕

270 ○桜散る連隊跡の大病院

                 〔朝日新聞長野版:矢島渚男選・平成九年五月十二日〕

271 ○着ぶくれて家が一番よいと言ふ

                       〔花園:石川静雪選・平成九年六月号〕

272 ○鯉幟あぐ男孫四人居り

                〔毎日新聞兵庫版:和田悟朗選・平成九年五月二十日〕

273 ○陽炎ひてふるさとの人みな優し

【評】陽炎の中に立っているのはふるさとの人。その人が優しく感じられるのは、ほのぼのとしたかげろうのせいだろう。或いは、この人のやさしさが、陽炎となって漂っているのかも。

               〔読売新聞兵庫版:沢井我来選・平成九年五月二十八日〕

274 ○菖蒲咲く橋は壊れしそのままに

                 〔毎日新聞兵庫版:和田悟朗選・平成九年六月三日〕

275 ○裾上げてコスタデルソルの海にひたる

                  〔神戸新聞:伊丹三樹彦選・平成九年六月十七日〕

276 ○父の日の机上パソコン巻煙草

                〔毎日新聞兵庫版:和田悟朗選・平成九年六月十八日〕

277 ○雪女郎亡母上ならばまみえたし

                〔角川書店刊「俳句」:草間時彦選・平成九年七月号〕

278 ○クッションのカバー変えれば夏が来た

                   〔神戸新聞:伊丹三樹彦選・平成九年七月七日〕

279 ○病棟の病める匂いの梅雨に入る

                〔読売新聞兵庫版:澤井我来選・平成九年七月十六日〕

280 ○天守出て天守と桜仰ぎ見る

                       〔花園:石川静雪選・平成九年七月号〕

281 ○冷房の道まで届く電器店

               〔毎日新聞兵庫版:和田悟朗選・平成九年七月二十九日〕

282 ○夜に入れば涼しく静か手紙書く

                〔朝日新聞長野版:矢島渚男選・平成九年八月十八日〕

283 ○向日葵とアンダルシアは青い空

                   〔神戸新聞:伊丹三樹彦選・平成九年九月一日〕

284 ○しゃぼん玉飛ばそ仮設の老婆とね

                 〔毎日新聞兵庫版:和田悟朗選・平成九年九月九日〕

285 ○核家族秋風を聞く端居哉

                〔毎日新聞兵庫版:和田悟朗選・平成九年九月三十日〕

286 ○雨上る虹の彼方に母がゐる

                      〔花園:石川静雪選・平成九年十一月号〕

287 ○笛の音にずーっと昔の偲ばるる

                〔朝日新聞長野版:矢島渚男選・平成九年十月十九日〕

288 ○短夜の祭り終わりし神戸市よ

                〔読売新聞兵庫版:澤井我来選・平成九年十月三十日〕

289 ○栗めしの炊きあがりたり孫来る日

【評】子供は栗が好きだ。

                〔毎日新聞兵庫版:和田悟朗選・平成九年十一月六日〕

290 ○霜月や夕べの雨戸早く閉め

             〔毎日新聞全国版:大峯あきら選・平成九年十一月二十四日〕

291 ○病後でも好きな事故盆踊る

               〔角川書店刊「俳句」:和田悟朗選・平成九年十二月号〕

292 ○ダリア挿す退院の日を知らされて

                      〔花園:石川静雪選・平成九年十二月号〕

293 ○首筋をすくめて歩み冬めける

                  〔神戸新聞:後藤比奈夫選・平成九年十二月八日〕

294 ○舞う枯れ葉わがはかなさの命とも

 

                 〔神戸新聞:後藤比奈夫選・平成九年十二月十六日〕

295 ○すす掃きや重たき本はそのままに

               〔毎日新聞兵庫版:和田悟朗選・平成九年十二月十八日〕

296 ○青空に赤い手鞠のごと柿よ

                〔神戸新聞:伊丹三樹彦選・平成九年十二月二十二日〕

297 ○河豚食べて高いだけだと嫁の母

                 〔毎日新聞全国版:堀口星眠選・平成十年一月五日〕

298 ○九九となふ孫三人の冬休み

                〔朝日新聞長野版:矢島渚男選・平成十年一月十二日〕

299 ○冴ゆる夜の書架に戦時の本並ぶ

               〔毎日新聞兵庫版:和田悟朗選・平成十年一月二十二日〕

300 ○枯枝をわが身なりしと思ふ日も

               〔読売新聞兵庫版:澤井我来選・平成十年一月二十二日〕