(最近の関戸さんと視覚障害者のパソコン利用の状況については、こちらをご覧ください)
音声出力装置などを利用してコンピュータを使っている視覚障害者は少なくない。パソコン通信でのコミュニケーション、さまざまな情報へのアクセス、ワープロで文章を書いたり、CD-ROMの辞書を引いたりといったことができることは、それまで、点字化されたものなど限られた情報にしか接することのできなかった全盲の人たちにとって、画期的なことだ。最近では、スキャナ装置とOCR読み取りソフトを用いて、全盲でも普通の活字の本を読むことも可能になっている。
しかし全盲の人にとって今のコンピュータは決してやさしいものではない(目の見える人にだってまだまだ難しいのだから)。それを習得することで社会参加と自立した生活のために活かしていくことができるのであり、そのために学校教育の役割というのも大きい。
今回取材したのは、千葉県立盲学校高等部の生徒(取材当時)であり、学校と自宅とでパソコンを積極的に活用している関戸直明さん。彼が自宅で使っているパソコンは、NEC PC-9821Ce。まったく普通のパソコンである。これに音声出力装置が接続されていて、「VDM100」(以下、VDM)という音声ソフトにより、画面に表示される内容やキーボードで入力していく文章が読み上げられる。これで漢字仮名交じりの文章も普通に書くことができる。ちなみに、VDM を開発した斎藤正夫氏も全盲である。
関戸さんは、学校では生徒会長をしていて、生徒会の文書などをパソコンで作っていたという。盲学校には、全盲の生徒だけでなく弱視の生徒もいるし、教職員は晴眼者が多い。そのため、点字の文書(点字プリンタで印刷)だけでなく、墨字(点字でない普通の文字)の文書も作る必要がある。墨字で印刷されたものを読むことができなくとも、パソコンによって、それを作ることができるのだ。
そんな積極的なパソコンユーザーである関戸さんに、パソコンとの出会いから、学校でのパソコン教育のこと、視覚障害者のパソコン利用で何が問題かなど、いろいろ聞いてみた。
■コンピュータとの出会い
――パソコンとの出会いは?
小学校6年のころ、学校にあったパソコンで「AOK」という点字ワープロソフトが使えるようになったのが最初です。これは、6点キーといってキーボード上の6つのキーで点字を入力する方式で、AOK 専用の音声装置と組み合わせて使うものでした。今では普通のフルキーボードでの入力もできます。そのころはハードディスクもなく、MS-DOS も使っていませんでした。パソコンを立ち上げると AOK が起動するようになっていました。これを3年くらい使っていて、とりあえず漢字仮名交じり文も書けるようになりました。
高等部にあがってから、画面読み上げソフトの VDM など、MS-DOS 上で使えるソフトが増えてきてだんだん今のようになってきました。
■点字の世界から漢字仮名交じり文の世界へ
――点字ワープロでも漢字交じりの文が書けたということですが、普通使われている点字は、仮名だけですね。
はい、一般に使われている点字は仮名だけで、文節の区切りなどに空白を入れて分かち書きにします。点字で漢字を表すには、6点漢字といって3〜4マスで漢字1文字とする方式、それと8点漢字(漢点字)がありますが、どちらもまだあまり普及していません。
盲学校では(全盲の生徒に対する)漢字教育というのはないのです。僕も正式な漢字教育を受けたことはありません。だからパソコン通信の書き込みで漢字の間違いを指摘されることもあります。漢字変換ソフト(日本語入力 FEP)では、どうしても間違った漢字に変換されたり仮名のままでよいところまで漢字になったりします。音声ソフトの詳細読みで漢字を確認するのですが、それには漢字の知識が必要です。音声ソフトによって漢字の詳細読みがぜんぜん違っていて、例えば、AOK では「関戸」の「戸」は「コセキのコ」(戸籍の戸)、これが VDM では「コベツホウモンのコ」(戸別訪問の戸)というように読みます。それが同じ字だということを知らないとまったく分からなくなってしまいます。
――全盲の人でも普通のワープロやエディタソフトを使っている人は多いのですか?
ワープロでは一太郎を使っている人が多いです。一太郎といっても Ver 4.3 までしか音声化できないので、いまだに 4.3 です。画面読み上げソフトは MS-DOS のテキスト画面しか読むことができないからです。
エディタでは、DM というフリーソフトウェアの視覚障害者用のエディタ(吉泉豊晴氏作)があります。このエディタは、完全に VDM に対応していて、ファイルの読み上げ機能、改ページコードだけの行にジャンプする機能、行頭が特定の文字ではじまっているものをタイトル行と見なしてそこにジャンプする機能など、視覚障害者でなければあまり使わないような機能が備わっています。それから、アメディアから視覚障害者用のエディタ VEGA が発売されています。これら視覚障害者用のエディタというのは簡単に手に入るので、みんな VZ や MIFES のような一般のエディタソフトを使っているというわけではないです。僕も普段文章を書くのには DM を使っています。
■視覚障害者とコンピュータソフトの開発
――VDM(画面読み上げ)を開発された斎藤正夫さん、それから DM(エディタ)を開発された吉泉豊晴さんも全盲ですね。吉泉さんとはお知り合いであるということですが、どういうきっかけですか?
はい。吉泉さんとは何度もお会いしています。筑波大学付属盲学校におられた長谷川貞夫先生がまだ現役でいらしたころ、3年前の93年の夏に長谷川先生と電話で話している際に吉泉さんを紹介していただいたのが、最初のご縁でした。そのときに DM も一緒にいただいたような訳です。以来、吉泉さんとは電話で連絡をとるようになりました。日本視覚障害と情報処理協会という団体があり、ここに僕も入りました。そこで初めて吉泉さんにお会いしました。長谷川先生という方は中途失明の方で、6点漢字を作った方です。
――関戸さんは自分でプログラムを書いたりはしますか?
JGAWK(テキスト処理用途に主に使われているプログラム言語の一種)を勉強しようと点訳された解説書を読んでいるのですがちょっと挫折しています。まず、プログラミングの基礎から勉強したいと思っています。将来コンピュータの仕事につきたいと思っています。
――コンピュータのハードやソフトを開発する側に望むことは何ですか?
街づくりにしてもソフトの開発にしても、障害者のことを考えて作ってほしいと思います。一方で言えることは、どうしても視覚障害者の作ったソフトの方が使いやすいということです。障害者が開発に参加していないものは障害者にとって使いづらいものになります。
■グラフィカルになっていくコンピュータのこと、インターネットのこと
――昨年の Windows 95 の登場に見られるように、コンピュータソフトの世界は、よりグラフィカルなものが主流になってきています。晴眼者にとっては使いやすくなってきているのですが、視覚障害者にとってはどうなのでしょうか?
晴眼者にとって使いやすいものは、必ずしも視覚障害者にとって使いやすくはありません。視覚障害者の場合、音声出力装置に耳を傾けながら、メニューを最後まで聞きとおし、カーソルを動かしてリターンキーを押すというような作業をしていると、コマンドを打つよりも二倍三倍の時間がかかってしまいます。自分のためだけにパソコンを使うというのであれば、むしろ今の MS-DOS の世界の方が便利と言えそうなところがあります。
僕は印刷のための文書を作るのに、ワープロソフトは使わないで、エディタで書いたものをテキストフォーマッタ(文書整形印刷ソフト)の XTR で整形して印刷しています。ワープロの画面上で書式を確認するということが盲人にはできませんので、書式指定のコマンドをテキストに埋め込んで使うテキストフォーマッタの方が使いやすいと思います。
グラフィカルなものについて、自分で見ることができなくとも晴眼者に交じって仕事をしていくためには、すくなくとも出力だけでもできなくてはと、思っています。出力だけでしたら TeX などを使えば何とかできるかと…。
――インターネットが大変ブームになっています。ここでもよりグラフィカルな WWW のホームページに話題が集まっていますが、電子メールは文字が中心ですし、WWW でもテキストの中に画像などを埋め込んで飾りをつけているわけであり、テキストだけのブラウザなどで音声出力で利用することもできますね。
メールの交換だけでもずいぶん便利になったと思いますね。今までのパソコン通信のメールでは、同じネットに加入していないとメールのやりとりもできないということがありましたから。インターネットの WWW のホームページにアクセスしようとして、今、挑戦中です。
■盲学校でのコンピュータ利用の問題点
――コンピュータが障害者の可能性を広げていくのにとても有効な道具だということがいえるわけだけど、なかなか簡単に使えるというものではないですね。そのために学校でのコンピュータ教育というのが大事だと思います。学校ではコンピュータをどう教えているのですか?
盲学校の生徒はいろいろな問題を抱えていて、そのため生活訓練の時間で、自分でお茶が入れられないとか、歩行がうまくできない、点字が遅いなどの生徒のために訓練をするわけですが、そこで何も問題がなくて残った生徒だけがパソコンの指導を受けているというような状態です。パソコンのことが良く分かっている先生もあまりいません。いったん何かトラブルがあると直せる人が学校にいません。パソコンと音声装置のセットアップや、トラブルの対処など、パソコンに詳しい卒業生など外部の人に頼りきっているという実態です。
同じパソコンを全盲の生徒も、弱視者も、晴眼者の教師も使っています。そうすると、設定がしょっちゅう変わってしまって全盲者には使えないものになってしまうということがあります。盲学校の中で全盲者はむしろ少数派です。理療科を除けばほとんどの教師は晴眼者です。
また、パソコンが使える先生は点訳ソフトに頼ってテストを作ったりするので、点字をよく知らなかったり、逆に点字を良く知っている先生はパソコンのことが分からなかったりということがあります。
僕は生徒会の仕事にパソコンを使っていますが、学校にあるパソコンでは、まず使えるように直すのに時間を取られてしまいます。自宅の自分のパソコンならとても快適に使えるのですが。
――関戸さんは、自分のパソコンを持っていて、それを障害を克服するために役立てているわけだけど、視覚障害者のパソコン購入などに公的な補助があるべきだと思いませんか?
自治体によっては視覚障害者のパソコン購入に補助金がでるというところがあります。このような制度が広がってほしいとは思います。でも、パソコンはスイッチを入れれば使えるというものではありません。僕はたまたま周りの環境がよくて、ソフトの開発者などとも知り合うことができて、かなりパソコンに習熟することができたけど、みんなそういうわけにはいきません。ですから、まず学校で、パソコンが使えるように教えてほしいと思います。そうしないと、たとえパソコンがタダで手に入ったとしてもまったく役に立ちません。
――盲学校には全盲ではない弱視の生徒も多いということですが、弱視者が抱えている問題は全盲者とくらべてどうなのですか?
普通学校で目が悪いために勉強についていけなくて盲学校に転入してくる生徒がかなりいるので、学年が上がるにつれて弱視者の割合が増えてきています。そのような生徒の場合、まず、勉強に遅れるだけ遅れてしまっていることが多くてとりもどすのがたいへんです。
コンピュータの利用については、弱視者の場合は音声出力があってもどうしても眼に頼りがちで、ルーペなどでの画面の拡大で対応しようとしますし、画面に非常に目を近づけたりします。全盲者のためには VDM などがあるので、かえって弱視者のための環境というのは厳しいともいえます。
■「視覚障害者のことをもっと知ってほしい」
――最後に、読者へのメッセージなどがあれば…
視覚障害者でも普通の人と同じことをしようと努力しているし、現にできているのです。そのことがあまりにも知られていないと思います。盲人でもテレビを見るのかと驚かれたことがありますが、世の中はそれほど無知なんです。
マスメディアに盲学校のことが取り上げられることもほとんどありません。もっと盲学校のことを一般の人に知ってほしいのです。
障害者学校はとても閉鎖的になりがちです。親も子どもに障害のあることを隠したがる傾向があります。でもそれでは状況は良くなりません。
盲学校の生徒は外に出ていく機会がほとんどありません。唯一あるのはスポーツくらいです。音楽の才能のある生徒などもなかなか学校の外に出ることがないというのが残念です。
視覚障害者がもっと世の中にかかわりを持っていくための接点がほしいのです。
数年前に XTR というフリーソフトのテキストフォーマッタを作り NIFTY-Serve などのパソコン通信上で公開しました。この反響としてたくさんのユーザーからメールやメッセージをいただいたりしたのですが、その中には全盲の方が何人かいて、それがきっかけで視覚障害者のパソコン利用ということに関心を持つようになりました。
関戸さんの話にも登場する吉泉豊晴さんは、全盲者向けに「整った墨字文書を能率よく作成するために」としてテキストフォーマッタ XTR などの解説を書いて公開しています('92年ころ)。そして吉泉さんと知り合いである関戸さんも XTR を使うようになり、このソフトを使っていてのトラブルについて電話をかけてきてくれたのが、そのときまだ17才で、全盲でとてもたくみにパソコンを使っている盲学校生徒の関戸さんとの出会いです。
今回「インタビュー」ということで千葉の関戸さんの自宅にお邪魔して取材させてもらいました。とても勉強になりました。ありがとうございます。(村上真雄)
最近の関戸さんと視覚障害者のパソコン利用の状況について書いてもらいました。(97年12月)