GREEN TEA TIME

イギリス在住栗山みどりさんからの迫真のレポート!
イギリス環境団体事情

「砂まみれのマグカップ」でお伝えしていたイギリス屈指の環境保護団体BTCV(British Trust for Conservation Volunteers)。日本でもよく知られている団体で、日本の環境保護活動のお手本というイメージもあるようです。

でも実際に活動に参加していると、日本とイギリスの社会的特徴などの大きな違いから、そっくりモデルにするにはなかなか複雑な背景があるようです。

イギリス南部のポーツマス在住で、大学院生活のかたわらハンプシャー州ウィンチェスターでBTCVやその他の団体の活動に積極的に参加していらっしゃる栗山みどりさんから、イギリスの環境保護団体の状況について洞察に満ちたレポートをいただきましたので、ここに一挙掲載します:

スクリーン上での読みやすさを考慮し、段落切り等はこちらで多少変えさせていただきました。

UpdateされたHP拝見させて頂きました。中には私の送ったBTCVの話に感想を寄せて下 さった方もいらっしゃり、まりさんのHPのおかげで、私がここで見たり聞いたりして いることを、他の人にも知って頂けたんだなー、と大変嬉しく思い、またある種の責 任感を感じたのでした。

そこで、あまり断片的な情報で日本でまりさんのHPからイギリスの情報を得られてい る方にインパクトだけを残し、実状とは少し違うイメージをつくりあげてしまって は、さながらまりさんの論評していらっしゃるThe Guardian誌における日本特派員の ようになってしまうと思い、ここに私の今できる範囲でもう少し多く「環境保護団体 の性質と社会(階級)のかかわり」についての情報を書かせて頂こうと思います。

まりさんのHPによくコメントもあり、私自身も時折感じるイギリスの階級制度による社 会の分裂が「BTCVの活動からは感じられない」と以前にコメントしたことがあったの ですが、あれからいろいろな人に話しを聞いたり、活動を共にしたりしているうち に、「多少」前より全体像が見えて来たような気もしていますので。ただこの情報の 出所はBTCVのオフィサーでありボランティアであり、またそういう人達に囲まれて仕 事をしている私の個人的印象からくるものなので、バイアスがかかっているこ とは否めませんが(^。^;;)

私の印象としては、イギリスの「環境」は人の影響の強い箱庭的要素が強いことから 「環境保全活動の対象」は自然環境と文化史跡が同じようなプライオリティで考えら れているような気がします。別の言い方をすれば「環境」と「景観」の区別が日本よ りあいまい、とでも言えましょうか。かえってよくわからなくなっちゃったかもしれ ませんね・・・。

かなり乱暴な言い方をすれば、この中で「文化史跡を含んだ景観の保護運動」を中心 に行っているのがNational Trustであり、これは環境保護運動とはいえBTCVのハンプ シャー州の マネージャーの言葉を借りれば「一目瞭然でアッパークラスの象徴」な んだそうです。

俗に言うGreen-welly brigade(研究社リーダースプラス英和中辞典 には「グリーンウェリーたち:週末には田舎のセカンドハウスで過ごす裕福な都会 人、田舎風にドレスダウンすることを好む」と記載がありました)達は、Get Dirty することを嫌い、環境活動としてはネイチャーウォークやバードウォッチングなど 「見て楽しむ」のが一般的で、トラストの活動の財政は高いメンバーシップがメイン になり、直轄店ではバッジやティータオルなどの上品なものを売ったりしています。

BTCVなどが「環境保全必須道具!」と考えている鍬やノコギリといった、実際的な野 外活動道具を売る事はちょっとないようですね。(東京・銀座数寄屋橋阪急にナショ ナルトラストのお店が入っていますが、それをご覧になると「なるほどね。」と思わ れる事でしょう。こんなとこに店舗を構えられる事自体がものすごい裕福な団体だと いう証拠のような気がします。)

それ以外のイギリスの大きな環境保護団体というと、Wildlife TrustそしてBTCVなど がありますが、読者の方のコメントにもありましたが、この2つの団体は社会のイン フラという側面とかなり深いかかわりがあると思います。

現にこれらの団体の財政の 大部分は地方公共団体の予算で賄われています。(この2つの団体は行政から予算を 受けるという意味ではライバル同士であり、実務レベルでの関係は必ずしも良好では ありません−余談ですが。)一般からの寄付ももちろん受け付けていますが「それだ けではとてもとても」というのが現状だとか。

また以前、BTCVの元の活動は終戦後の職業訓練をかねていたと書きましたが、何もこ れはBTCVに限ったことではないようです。

もともとイギリスでは戦後、地方行政でお 金を回しきれないセクター(当時は社会保障などの分野)をボランティアセクターと して地域ボランティアに委託運営させたところが大々的なボランティア運動の発端 だったようです。

そこで戦後急増した失業者の救済と職業訓練をかねて、だぶついた 労働力をなんとかしよう、というのが行政の発想だったようですが、時代の流れでボ ランティアの分野も価値観も多様化し、そんな中で今では環境関係は一般的に言って かなりメジャーなボランティア分野になっているようです。 けれども、これとて1980 年代の半ば以降の比較的新しい現象とか。(ものの本によれば。)

・・・ということ で、ボランティア活動は歴史的に言って行政セクターの一環というような位置付けがと ても濃いようなのです。だから現在でも「行政のただ働きに貢献している。お金をも らってる人と同じように働いているのに。」という考え方をする人もけっこう多く、 これは私などが一緒に活動してても肌身で感じる事があります。

イギリスの環境ボラ ンティアが行政の末端組織に位置するのと比べ、日本の環境ボランティアはという と、どちらかといえば現行の行政に「反対する」立場から草の根で自力で発達したも のが多いというのが、わたしの限られた経験からの印象です。それを考えると日本の 環境ボランティア組織の社会インフラとしての意義や行政との関係は、イギリスのそ れとは180度違うと言えるかもしれません。

話が少し横道にそれましたが、社会インフラの側面をもつ環境保護団体、といえば先 に書いたNational Trustなどの運動と比べて、参加する人のClassが違うのはある程 度想像のつくところです。行政の責任で一般市民の自立を促す、というのが当初の目 的であったでしょうから、それほどお金持ちの人たちが関わる事ではなかったことで しょう。

こういった団体は活動内容として、「実際に保全活動で働く」ことに重きを 置いていて、以前まりさんのHPのコメントにあった通り、National Trustとは正反対 でGet dirtyが身上です。また同じように行政の一環的役割を持っていても、こと Wildlife TrustとBTCVをとると「自分の庭を持つか持たないか」という点で違いがあ ります。

Wildlife Trustは自ら管轄する自然保護エリアを持っており、そこの保護運 営のためにボランティアを使っています。一方BTCVは、といえば、「他の団体との協 力関係で、その場その場に適した自立援助をする」というのが身上なのでボランティ アは、Wildlife Trustの管轄地で働くこともあれば、ナショナルパーク内で働く事 も、個人の牧場主の元で働く事もあります。

簡単にポリシーの違いを言えば、 Wildlife Trustはボランティアを組織の持続運営のための労働力として使っています が、BTCVの究極目的は「BTCVという組織がなくなっても同じことが地域市民でできる ようになること」を目指している、ということです。(ハンプシャーオフィスのマ ネージャーの言葉です)ちょっとBTCVよりの発言になったかな?!(^。^;;)

ただ、こんな特徴から、BTCVは便利屋的な側面があるような。このスタンスの違いは両 組織の中での格付け意識に影響し、Wildlife Trustのオフィサーの中には肉体労働を 伴うような仕事を称して公然と「これはBTCVのする仕事」と発言する人もいるとか。 (一ボランティアの証言です。)そういう意味ではまりさんのおっしゃったような環 境保全活動のヒエラルキーをここにも見る事ができますが、私としてはそれぞれの団 体の目的自体が違うと考えたい気もします。

現在イギリスでは階級制度が厳然と残っているといっても、下層階級でお金持ちに なった「成り金」もいれば、貴族でありながら税金を払えず貧困の中にある人たちが いる、という状況もでてきているとかで、社会の分離の仕方が「以前に比べたらずっ とわかりづらく、複雑になってきている」と聞きます。

そんな中、BTCVの活動も全国 組織の活動とはいえ、各地でかなりの違いがみられる気がします。(BTCVの活動内容 はカウンティといわれる州ごとにほぼ独立しています。)まりさんが書かれていたよ うに、ロンドンでの活動などを見るといまだに職業訓練的な側面はかなりはっきり 残っているのかも知れません。わたしがイギリス北部の都市マンチェスターのBTCVオ フィスを訪れた時もロンドンオフィスと同じような印象を受けました。

これらの印象 はハンプシャーでの活動のそれとはかなり異なっています。ハンプシャーの活動自体 には職業訓練的臭いはほとんどなく、焦点は「地域の環境保全を地域市民が自力で行 える『持続可能な環境保全』のための市民の能力開発」ということにあります。だか ら職業的な個々の技術の習得よりは「なんで雑木林を守る必要があるのか」などの市 民を対象にした包括的理解を促そうとする講座の開講などが多いです。

この中に見ら れるBTCVの活動の根元は「人」に重きをおいていることですが、以前のコメントで 「環境保全自体より『人』に重きを置いている」とハンプシャーのオフィサーの言葉 を紹介しましたが、これは私の翻訳能力の未熟の致すところで、もっとよくよく聞け ばどちらに大きいプライオリティーを置くというのではなく「Environment through people」(人の見える環境保全活動、とでもいいましょうか。う〜ん・・・)という のが彼らの目指すところだといいます。私自身はロンドンでのBTCVの活動についてそ れほどよく知りませんが、まりさんのお話を伺う限り、同じ団体でもインフラとして 持つ機能は、エリアによってかなり違うような気がしました。

また、これはとても個人的意見ですが、社会インフラが発達するというのはそれだけ 行政の助けを必要とする弱者が社会に多い、ということも意味するのではないかとも 思います。先日BBCで「UK is socialy most devided country in the world.」 〈イギリスは世界で一番社会的分裂の著しい国〉という国連のコメントが紹介されて いました。

「行政が面倒を見なければならない必要性」というのが「伝統豊かな先 進国イギリス」という一般的イメージとはそぐわない程大きいんじゃないかと思いま す。事実、回りで見ていて、国や地方行政の提供する社会保障に大きく依存する人の 度合いは日本のそれとは比較にならないほど高いような気がします。社会の半分以上 の人が「自分は中流に属する」と考えているという日本の社会とは簡単には比較ので きない社会状況の違いがここにあるような気がします。

大変長く、まだるっこしい文になり恐縮ですが、「私の書いたものを読んでくれる人 がいる!」と嬉しく思うだけに、先日お送りした文がちょっと短絡的な言いまわし だったか、と心配になり少しでも状況の補足をさせて頂ければと思い書きました。こ の文が更なる疑問を呼ぶようなことのない事を祈りつつ・・・。

御自身の体験を縦軸に、イギリス社会に対する洞察を横軸に、正直に丹念に編み上げられたという感じが伝わってくる、栗山みどりさんからの迫真のレポートでした。

みなさんはお読みになってどのようにお感じになったでしょうか?御意見・御感想をぜひお寄せ下さい:

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