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イギリス動物交通事故事情

東京都のN.R.さんとお話しした際、「イギリスの高速道路上では小動物の死骸が多いが、日本の高速道路ではあまり見たことがない」ということに気がつき、調べてみることにしました。


写真はイギリスの高速道路M4線(イングランド内は片側3車線)

調査(1)- :高速道路・一般道路上の小動物・鳥の交通事故死件数
調査日:1998年11月1日(日)
天気:晴れ
調査場所:ロンドン市内〜Kent州のBedgebury針葉樹木園の往復路
調査結果:
往路:
A区間(ロンドン市内〜A20線。直線距離約30km):ウサギ 1、ハイイロリス 1
B区間(M25高速道路の3番〜5番出口間。直線距離約12.5km):小動物(ハタネズミなどネズミ類) 3
C区間(A21線〜針葉樹木園間。直線距離約35km):ウサギ 2、ハイイロリス 1、小動物 6、(生きたX= 1)

復路:
C区間(針葉樹木園間〜A21線):ウサギ2、小動物 2
B区間(M25高速道路の5番〜2番出口間):ウサギ 1、トリ 1、(生きた6;;7^ 1)
A区間(A2線〜ロンドン市内):小動物 1、トリ(種不明)1

(注1)小動物にはハタネズミやトガリネズミ等が含まれると思われますが、もともと小さい上、とりわけ中央車線で平均時速120〜130kmの高速道路走行中の種類の判別は不可能でした。

(注1)ハイイロリスは上記小動物よりかなり大型のため判別は容易ですが、死体の損傷の具合によりウサギと見分けがつかない場合も考えられます。道路が林間部を通る場合はかなりの確率でハイイロリスであると考えました。(ちなみにエゾリスの親種であるアカリスは、北米産外来種のハイイロリスによって、イギリス南東部では殆ど見られなくなっています。イギリス林野庁(Forestry Commission)発行のアカリスに関するパンフレット(1998年9月付)によれば、ここに掲載した調査(1)〜(4)の地域にアカリスは生息していません。)

写真は調査(1)の際撮影したA21線(高速ではないが殆ど自動車専用道路。片側2車線)

調査(2):
調査日:1998年11月22日(日)
天気:晴れ
調査場所:ロンドン市内〜Glocestershire州のForest of Deanの往復路
調査結果:
往路:
A区間(ロンドン市内〜M4・M48高速道路上。直線距離約170kmですが道路の湾曲により実際は200km強と思われる。)):ウサギ 7、ハイイロリス 3、小動物 11
B区間(M48高速道路を降りてから現地まで。直線距離約20km)):ウサギ 4、トリ 1

復路:
B区間(現地〜M48高速道路に乗るまで):小動物 1
A区間(M48・M4高速道路上〜ロンドン市内):日没のため調査不能

M4高速道路

調査(3):
調査日:1998年12月19日(日)
天気:曇
調査場所:ロンドン市内〜Glocestershire州のWestonbirt樹木園の往復路
調査結果:
往路:
A区間(ロンドン市内〜M4高速道路上。直線距離約140kmだが、道路の湾曲により実際は160km強と思われる):ウサギ 7、小動物 11
B区間(M4高速道路を降りてから現地まで。直線距離約15km):小動物 1

復路:
B区間(現地〜M4高速道路に乗るまで):日没のため調査不能
A区間(M4高速道路上〜ロンドン市内):日没のため調査不能

左:M4高速道路脇の風景。右:M4を降りて現地に向かう途中の道路と風景。

調査(4):
調査日:1999年1月10日(日)
天気:曇
調査場所:ロンドン市内〜Wiltshire州のAveburyの往復路
調査結果:
往路:
A区間(ロンドン市内〜M4高速道路上。直線距離約110km。):ウサギ 12、小動物 6、リス 1、トリ 2。(生きたカササギ1、サービスエリア付近で生きたカラス5。)
B区間(M4高速道路を降りてから現地まで。直線距離約20km):小動物 2

復路:
B区間(現地〜M4高速道路に乗るまで):日没のため調査不能
A区間(M4高速道路上〜ロンドン市内):日没のため調査不能

そのほか、97年春よりイギリスに住んで以来路上で見かけた動物の死骸(記憶による):
ウサギ、ハイイロリス、小動物、キジ、カササギ。
(キジは野性化したものの他、ハンティングのために養殖され秋に野に放たれるものが多く、キジの死体を目撃したのはハンティング解禁後の晩秋でした。)

イギリスに住んで以来路上で実際に曳きそうになった動物(記憶による):
ウサギ 1、ハリネズミ 1。(両方とも夜間)

イギリスに住んで以来路上で曳いてしまった、と思われる動物(記憶による):
トリ 1。(ちなみに虫の類は無数。北海道でもそうですね。)

考察:
イギリスにおける小動物の交通事故死を考える際に、同国の地形および農業の歴史と種類を考慮に入れる必要があります。

先進国において農業が脆弱な国は日本だけ、といわれておりますが、イギリスは自国で食料・燃料(化石燃料等)をほぼ自給自足できる、農業大国です。これは、北緯50度〜60度に位置するものの(日本はだいたい北緯25度〜45度)、次のような理由によるものと思われます:

(1)メキシコ湾流や海洋性気候のおかげで気候がそれほど厳しくない。日本ほどではないが雨も比較的多い。だが、台風のような大型の自然災害があまりない(このあいだあったけど)。しかも、北海道や東北北陸地方のような数メートルに積もる大雪もない。(だから、国内にマシなスキー場がほとんどないので、お金持ちはみんなアルプスへ行ってしまう。)つまり、地味だけどジャガイモとか麦とかの作物は作れるし、牧畜もできる。

(2)数億年前には火山活動があったものの、その後大陸プレートの上で安泰なので、激しい地震がない。ちなみに火山もないので、噴火による大規模災害がない。でも、温泉もあまりないので、露天風呂などの風流なものがない。余談だが、露天風呂に入るサルも住んでいない。これに対して、日本は、太平洋プレートがユーラシアプレートの下に沈むことによって出来ている火山列島なので、イギリスに比べるとたいへん地盤が賑やか、というか危険な国なのだ。

(3)よって、太古の火山活動によってできたスコットランド高山地帯(とはいえ最高峰1400m足らず。でもたまに雪崩で人が死ぬ)、湖水地方、ウェールズの一部を覗き、おしなべて地面が平坦である。

(4)だから、石器時代の昔から、遊牧民がどんどんやってきて、どんどん森林を切り開き、牧場や畑にしてしまった。(ちなみにストーンヘンジなんかも作ったりした)

(5)でも、土地が平坦だから、日本のような山崩がないし、土砂災害を引き起こす台風のような雨災害があまりない(でも洪水で床上浸水の被害とかはある)。というわけで、開墾がどんどん進んでAD11世紀に既に森林面積は国土の15%に減っていた(現在は7%。これに対して日本は一応60%強)。

(6)その結果、ロンドンなど大都市郊外に一歩出ると、日本人観光客が「自然」と賞賛するところの「広大な農地」が広がる。作物は羊・牛・競走馬・麦・菜種・ジャガイモ・豆類などなど。地形が平坦なので、うねるような低い丘が続き、パストラルな光景となる。(ちなみにパストラルの語源「pasture」とは「牧場」のこと。)

(7)土地が平坦なので、道路建設に際しても、山の真ん中に穴を空けて何キロメートルもトンネルを掘ったり、ループ橋のような驚異的な建造物をつくらなくても、基本的に楽勝で道路が作れる。そして、そういう道路は牧場等の農地に隣接して作られるのがほとんど。都市を一歩出ればそこは農地なのだから。

というような状況になっています。
農業大国ゆえ、ひとたび都市部を出ると、そこは牧場や畑に覆われることになります。そして、幹線高速道路をはじめ殆どの道路がイギリスのほぼ全土を覆い尽くしている農地に隣接することになります。農地とはいえ、田んぼに覆われた日本の正しい山里にタヌキやキツネが現れるように、イギリスの農地にはピーターラビットやハイイロリス(注:イギリスの在来種ではないアメリカ原産のリス)、ハタネズミなどが住んでおり、それらの哺乳類や小型鳥類を狙って猛禽類やカラス、カササギが集まってきます。

写真でわかるように、イギリスの高速道路には、高い塀や遮音壁がほとんどありません。農地から飛び出してくる人間はあまりいないし、第一、高い塀を張り巡らしていたら膨大なコストがかかります。畑や牧場の中では家もまばらなので、遮音壁も必要ありません。

よって、夜間になると、上記のような小動物が高速道路上に現れることになります。高速道路でも、平均時速100kmでクルマが走行する田舎道でも、ふいに飛び出してきた動物を避けるのは不可能です。そのため、翌朝にはウサギやハタネズミ、リスなどの死骸が路上に残されます。

その死骸を食べようと舞い下りたカラスやカササギも、注意を怠ると、やってきたクルマにはねられてしまいます。また、高速道路上を横切って飛んでいる鳥が、たまに走ってくる背の高い大型トラックやバスにぶつかることもあります。

これに対して、日本の高速道路では小動物の死骸をあまりみかけませんが、ここまでくれば理由は明らかです。日本は:

(1)人が利用可能な平坦な土地に全然恵まれていない火山列島である(森林面積60%強というのは、人が住めない場所が多いことを表している)。

(2)そんなギザギザでデコボコな国に高速道路を作るとなると、トンネル、陸橋、少ない平地に自ずと人口が密集する市街地・住宅地には高架線、もちろん遮音壁つきになる。山肌を削って道を作る場合は、山側をコンクリで固めないと非常に危険。

(3)そんな険しい場所に建設された高速道路には、小動物もなかなか入り込めない。また市街地では鳥も遮音壁の上を飛ぶためトラックなどにぶつかることはない。

という状況になります。ということは、意外にも(不要な高速道路を作るのは問題ですが)、日本の高速道路は人間も動物も遮断するため、ある意味では第三者に安全なのかもしれません。

ところが、昨年10月日本に帰国したとき、高速道路の遮音壁にワイヤーの網が張られており、蔓性の植物が這い上がっている光景を目にしました。これは恐らく、殺風景な高速道路をすこしでも見目麗しくしようという道路公団などの意図によるものと思われますが、蔓性の植物と遮音壁の間に鳥類が営巣したりする可能性があるかもしれません。高速道路は人間にとって殺風景のままにしておいたほうが、鳥や小動物には優しいといえます。

また余談になりますが、私を含めて多くの日本人がイギリスの田舎に感激するのは、どうやらイギリスの田園風景に馴染み深いものを意識の深層に持っており、それを懐かしがっているような気もします。何世紀にもわたって羊飼いの子孫たちによって丹念に維持されてきた牧場や石垣、藁葺き屋根のコテージに優るとも劣らない、急峻な山々の懐に抱かれた素晴らしいカントリーサイドは、私たちが誇るべきヘリテージであるとの思いを、高速道路からイギリスの田園風景を眺めるたびに強く感じます。



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