BTCV, 環境保全

GREEN TEA TIME

原点に戻った! ”正真正銘”砂混みれのマグカップ


BTCVトレーニングコース参加報告(1) 1999年1月〜4月

99年1月から、BTCVエンタープライズ主催のNVQ2という国家資格がとれるかもしれないトレーニングコースに参加しはじめた。前回UP時に予告として掲載した The Paddock というサイトをはじめ、ロンドン内の数箇所(でも一箇所を除いて今のところぜんぶEastEnders方面...)のネイチャー・リザーブで仕事をしている。(写真がそのThe Paddock。)

「仕事をしている」と書いたが、当方を含めて同コースの受講生は月謝も払わないが無報酬。だが、毎回キングス・クロス(東京でいえば新宿か?)のBTCV事務所までの最低往復交通費は支給される。実際には当方たちの労働に対する賃金は、区などの仕事の発注元からBTCVエンタープライズに払われていて、BTCVの運営資金になっており、私たちは報酬がないかわりに、1月から8月まで週二回、真面目に働けば前述の国家資格がかなりの確率でとれることになっている −− と私は理解している。

ちなみにBTCVエンタープライズからは、最低の交通費だけでなく、ドンキー・ジャケットとキャップ・トウ・シューズ、そして軍手まで支給されたのだった。キャップ・トウ・シューズとは、足の甲の部分をプロテクトするために金属板が入っている工事用の靴である。ロンドン地区の環境保全のキー・アイテムであるドンキー・ジャケットについては、その重要性から次回UP時に詳しくご説明したい。

先ほどEastEnders方面と書いたが、ハイド・パークやリージェンツ・パークなど、ロンドン中心部の有名公園はThe Royal Parksという機構に入っていて、聞くからにポッシュ(高級で上流階級っぽい)である。そんな由緒正しい公園はちゃんとしたガーデナーをきちんと雇っているのであろう、BTCVのボランティア部門の活動のサイトには決してならない。

でも、ケンジントンにあるホランド・パークや、前回UP時にご紹介したロンドン中心部からすこし北にあるハムステッド・ヒースあたりになると、BTCVとして保全活動をする日もある。しかしながら、大半のサイトはグレーター・ロンドン(ロンドン中心部から半径25km以内の地域)のなかの、聞いたこともないし行ったこともない、超ローカルな場所にある。特にEast Endは生っ粋の労働者階級の地域。とかく身なりが良く金持ちと思われている日本人が日本のドレスコードそのままにその地域を歩いたら、エルメス、カルチエばかりでなくG−ShockやPro−Treckだって、身の回り品の保証はできないエリアだ。

だが、ロンドンでBTCV歴2年になる当方はそこらへんの機微がつかめるようになっているので、いまのところスリにもひったくりにも遭っていない(いやむしろ、スリやひったくりと同類に見られているかもしれない(^v^)")。

前置きが長くなったが、そんなEast End地域の北部にあるサイトのひとつ、The Paddockは、地下鉄ビクトリア線の北東終点に近いTottenam Hale という駅から歩いて5分のところにある、元ゴミの不法投棄場所だ。そこを地元の区が再開発することになり、各方面から活用案を募ったところ、地元のネイチャー・リザーブ(自然保護地域)にすることが決定し、大規模な整備が行われ始めているのだった。

まず、ダンプやトレーラー、ショベルカーなどが、タイヤなどの大型ゴミや産廃などを取り除き、土地を均す。その脇で我々が、ゴミが不法投棄されていた間に自然に生えてきた植生のエリアで、丸太の小山(log pile)を作ったり、植林をしたりする。丸太の小山を作ると、キノコなど菌類のほかに、クワガタなどの甲虫の幼虫やゲジゲジ、カタツムリ、ナメクジ、ベンジョムシ(って正式名なんていうんだったっけ?コロムシとか言ったりもするよね?でも Oniscus asellus っていう立派な学名があるんだ。英名Woodlouse。)などで賑わうようになり、それらを狙って野鳥や小動物たちが集まってきて、またそれらを狙うハイタカ(Sparrowhawk(Accipiter nisus))やチョウゲンボウ(Kestrel(Falco tinnunculus))などの猛禽類もやってきて、生態系にGOOD!というわけなのだ。(右の写真はその丸太の小山づくり。)

ちなみに、自然に生えてきた植生のメインの構成要素は、ニワトコ属の低木でエルダー(Elder(Sambucus nigra))と呼ばれる在来種、園芸方面でお馴染みのバドレア(Buddleia(Buddleia davidii))という中国原産の低木、そしてイギリスでエコロジーを勉強したり環境保全をしている人なら誰でも知っている日本産のイタドリ(Japanese Knotweed(Reynoutria japonicaの他なぜか学名多数))である。イギリスにおいてこのイタドリがいかに肩身の狭い思いをしているか、そして当方によるイタドリ汚名挽回作戦の顛末については、近日中に別のコーナーで詳しくご説明したい。(左の写真はそのイタドリ。去年の茎が枯れてそのまま立っている。春になると地中から赤っぽい新芽が生えてきます。)

何回も仕事をするうちに、やがて冬から春になり、工事の方も佳境に入ってきた。工事の人たちによって遊歩道も出来てきたころ、我々の仕事も丸太の小山づくりからイギリス在来種の木の苗の植林へと移って行った。植える木はセイヨウサンザシ(Hawthorn(Crategus monogyna))、セイヨウクロウメモドキ(Buckthorn(Rhamnus catharticus))、リンボクの仲間(Blackthorn(Prunus spinosa))、ヨーロッパシラカンバ(Downy Birch(Betula pubescens))、セイヨウトネリコ(Ash(Fraxinus excelsior))、セイヨウヤマハンノキ(Alder(Alnus glutinosa))などのイギリス在来種。

一部公共のアメニティも兼ねるネイチャーリザーブになるため、場所によってはセイヨウバクチノキ(Cherry Laurel(Prunus laurocerasus))やミズキの仲間(Dogwood(Cornus spp.))などの園芸外来種も植えた。これら外来種が、すでに外来種バドレアやイタドリがメインの構成要素になっている同サイト自然の植生に対して、どのようなインパクトを与えていくのか。一見矛盾しているような植林のプランニングは、環境保護だけというわけにはいかない都市計画の難しさを象徴している。

さて、建設工事等に使われる大特車両が走り回るサイトの中では、ヘルメットおよび蛍光イエローのベストの着用が義務づけられている。これら2つのアイテムを装うと、誰でも一応それなりに見えてしまうところがいい。(左の写真は、植林サイトで働く当方。)

残念ながら私は風邪をひいて休んでしまったのだが、The Paddockで我々のチームが作業をしていたある日、地元の新聞が取材にやってきた。新聞記者は、ジャマイカ系イギリス人のデリックとフランスから職を求めてやってきたエリックが仲良く大ノコギリをひいている姿と、BTCVチーム全員の集合写真を撮った。あとから聞いて私は大いに悔しがったのだが、スキー膝が時々痛む50代の女性フランチェスカさんだけは、絶対にカメラに写りたがらなかったという。

フランチェスカさんは自分に支給されたドンキー・ジャケットにその典型的なデティールである肩部分の当て布がついていなかったので、とても喜んでいた。私のジャケットにはその典型的な当て布がついていたので、私は非常に嬉しかった。それはこの国で私が外国人だからだ。

当日の新聞にはデリック・エリックの写真だけが掲載されていた。

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