BTCV, 環境保全

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イタドリと環境保全

写真:ロンドンのイタドリ

私はイギリスに来て1ヶ月ほどして、ロンドンのBTCVの環境保全プロジェクトに参加しはじめました。

初日はロンドンの西の郊外にあるネイチャー・リザーブで、草地を守るため、茂ってきた高木や低木の若木を駆除するという作業でした。

到着してBTCVのバンから降りると、ボランティアの一人が背後に茂った草の茂みを指差して、「これって日本の草でしょ?ここではinvasive(← invade=侵略する)な草なんだよね」と私に話かけてきました。これが私がイギリスでの環境保全活動で受けた歓迎の挨拶でした。

現在、アメリカ英語で「alien」というと、いわゆる「宇宙人」を指すと思うのですが、イギリスではいまだに、外国から来た人や物を示すことが多いです。テレビで「スタートレック」の再放送を見ていると、「alien」という言葉が頻繁に出てきますが、もちろんこの場合は「宇宙人」を指しますね(アメリカのSFドラマですからねぇ)。また、「エイリアン」という題名のこわ〜い映画もありましたね。

イギリスのエコロジーの授業で「エイリアン」の例として必ず挙げられる動植物が数種あります。たとえば動物界の「エイリアン」として悪評高いのは、ロンドンの公園の人気者、北米産のハイイロリスです。「ピーターラビット」で有名なウサギも、約1000年前に人間によってもたらされた「元エイリアン」です。

植物界の2大悪役は、ヨーロッパ大陸産のセイヨウカジカエデと地中海産のシャクナゲです。もともと園芸植物として渡来したセイヨウカジカエデは、イギリスでは繁殖力が強く、放置しておくと林がセイヨウカジカエデに占領されてしまうので、BTCVの環境保全活動などで、セイヨウカジカエデの若木を切ったり、農薬で駆除したりします。

地中海産のシャクナゲも林にはびこってしまうため、プロなどによる駆除が行われます。ロンドンの環境保全関係の人の中には、この植物を「Far Eastから来た」と説明する人もいますが、まったくの間違いです。

この2大スターに続くのが日本産のイタドリです。その名も Japanese Knotweed (ジャパニーズ・ノットウィード)と呼ばれるイタドリは、ロンドン周辺部のおもに水辺に生えます。地下茎でどんどん増えるので、BTCVロンドン地区での活動にはイタドリだけを引っこ抜くという日もあります(わたしも一度参加したことがあります)。

ロンドンの環境保全関係の人たちは、私が知る限り一人の植物専門家をのぞいて、口をそろえてイタドリについて否定的なことを言います。でも、どうして日本のイタドリがこんなにロンドンにはびこってしまったのでしょうか?イタドリは植物。足があるわけではないので、人間の誰かがイギリスに持ってきたことになります。

実は、イタドリを日本からヨーロッパに持って行った張本人は、あのシーボルトです。シーボルトは長崎から日本の植物を密かにヨーロッパに送っていたのでした。そのなかにイタドリがはいっており、ヨーロッパ大陸を経て19世紀のイギリスの園芸界に歓迎されたのです。(詳しくはRobert Stevenson氏のサイト掲載のJennifer Forman氏によるリサーチをどうぞ。)

ところが、日本では富士山の中腹にも生えるほど生命力の旺盛なイタドリが、気候が温暖なイギリスに馴染まないはずはありません。ヴィクトリア時代の人々の庭から飛び出して野性化し、在来の生態系を脅かす存在になっていきました。(富士山のイタドリについては、山梨県環境科学研究所(サイト http://www.yies.pref.yamanashi.jp/)の中野隆志氏、阿部良子氏、鞠子茂氏によるリサーチ(http://www.yies.pref.yamanashi.jp/nl/2-2/topic.htm)を参考にさせていただきました)

気候のせいで、いささか華のない控えめな在来種の植物にかこまれたイギリス人は、海外の華やかで派手な植物に憧れ、植民地政策とそれによる富を背景に、日本を含めて世界中で珍しい植物を「発見し」、かき集めてきました。その代償が、イタドリやセイヨウカジカエデという「園芸植物」、北米産のハイイロリスなどによる、昔ながらのイングリッシュ・カントリーサイドへの「侵略」なのです。

でも、こういった帰化動植物に罪はあるのでしょうか。彼らは、人間の欲望によって連れてこられたわけで、彼らを「エイリアン」という不名誉な名前で呼ぶのは、はたして適当でしょうか。責任は帰化動植物にも、彼らの原産国にもなく、実際に彼らを持ってきた人々にあります。

最近日本でも、タイワンリスやチョウセンシマリス、ブルーギル(北米産のサカナ)、セイタカアワダチソウなど、帰化動植物の問題がクローズアップされてきました。これらの動植物を海を越えて連れてきた人の多くは、ほかならぬ日本人だったのではないかとおもいます。

海外からもたらされた園芸植物や美しく珍しい動物を日本で見ることができるのは、とても素晴らしいことです。それらを「きれいだなぁ」「すごいなぁ」と感動する気持ちはとても純粋で健康的で、必要な感情だとおもいます。

私たちは、日本で野性化し、迷惑な存在になってしまった帰化動植物に対する歴史的背景を知り、フェアで公平な視点を持ち、正しい対策を講ずる必要があります。台湾や韓国の人に初対面で「これは日本の生態系を脅かす「エイリアン」なんだよね」と言うような非礼を決してしないためにも。

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