わがままな君
朝から、うっとうしい雨。こんな日に映画にいこうなんて、やっぱり止めておけば良かった。
ましてや、待ち合わせなんて…
思った通り、今日も彼女は遅刻。
いつものことだからもともと、気になんかしていないけどこんなに待たされたんじゃ、
注文したコーヒーはすっかり空っぽになってしまった。
それなのに、彼女はまだ来ない。
灰皿にはもう入りきらないほどの吸殻がたまっている。灰皿を変えてもらいたいけれど
店員は横目で僕を見るだけで、水だって入れに来てはくれない。
そろそろあきらめて、家まで迎えに行ったほうがいいんだろうか。
立ち上がろうとすると、彼女はやっとやってきた。
そして、立ち上がりかけた僕を見つけて彼女は近づいてくる。
「お待たせ。もぉ、すごい雨でしょ。参っちゃうわ。」
そう言って、ハンカチで濡れた服の袖を拭きながら僕の向かいに腰掛けた。
店員はやっと水と替わりの灰皿を持って来てくれた。
「あっ、私アイスコーヒー。」
注文を言うと彼女は話し始める。
「なによ、怒ってるの?そりゃあ、確かに私は遅れたわよ。だけど映画だったら、
この後の時間でもまだ見れるじゃない。」
まだ誰も怒ってるも何もいってない。
「やっぱり、怒ってるんだ。」
僕が黙っているのを、怒っていると思ってるみたいだ。
「怒ってないよ。」
あわてて、返事を返す。
「やっぱり、怒ってるじゃない。」
もう、僕の言葉には聞く耳を持ってくれない。
怒ってるのは彼女の方だと思うんだけど。
しょうがないので、タバコに火をつける。
それがまた、彼女の気に障ったらしい。
「人の話を、聞きなさいよー。」
そう言って彼女は僕からタバコと灰皿を取り上げる。
「悪かったよ。ごめんごめん。」
取り上げた灰皿で僕の吸っていたタバコを消しながら、彼女は言う。
「ごめんは1回!」
結局、どちらが悪いか分からなくなってしまう。
どうして、僕があやまってるんだ?
彼女がコーヒーを飲み終えたので、僕たちは店を出た。
「次の映画まで、時間あるね。」
傘を持つ僕の腕に手を回しながら、彼女は何かを考えているみたいだ。
「そうだ、結構時間あるし、先にお昼食べようよ。ねぇ、そうしよっ。」
だれのせいで、時間が余ったのかなんてすっかり忘れているみたいだ。
「なにがいいかなー。うーん、そうだ!あそこのお店にしよう!」
彼女は、お昼を食べることに決めたようだ。
「もう、遅いよ早くいこ!次の映画に間に合わないよ。」
すっかり彼女のペース。
だけど、そうやって笑いながら僕と腕を組む彼女はとてもかわいい。
ごめんねをいわない君だけど、そんな君が僕はとてもいとおしく思うんだ。
20000706UP