聖なる夜に

最近の冬は暖かい。今年はまだ一度も雪を見ていない。
私は足早に進む人波をくぐりぬけ、待ち合わせ場所へ向かう。
いつもに増してたくさんの人、人。
この人たちはどこに行くんだろう?ケーキを持って歩く人。
花束を持って歩く人。もうすぐ日が暮れる。

「お待たせ。」
待ち合わせ場所には私たち以外にもたくさんの人たちが誰かを待っていた。
きっと皆、恋人とクリスマスを過ごすんだろう。
不景気だっていってるけど、やっぱりみんなクリスマスは外に出て、お食事とか
してるんだなぁ。
「いこうか。」
彼に促されて、又私は人の流れに流されていく。
「何処に行く?」
歩きながら私は彼に尋ねた。
「どうせ、何処もいっぱいだよ。こういうときこそ、居酒屋とかが空いてるんだよね。」
「大丈夫、今年はちゃんと予約したから。」
へぇー、用意がいいな珍しい…なんて思ってると彼は、どんどん歩いていく。
ついて行くのが大変なくらい早足!
「ちょっと、待ってよ。歩くの速いよ。」
あわてて、腕をつかまえる。
「あぁ、ごめん、ごめん。」
やっと、私に合わせてゆっくり歩き始めた。
「着いたよ。」
そういって立ち止まったのは私が行きたいと言っていたレストランだった。
「憶えててくれたんだ!」
ずっと前にちょっと言っただけだったから私も自分で忘れてたのに。
「今年のクリスマスプレゼントはここ?」
私は彼の目を見た。
「ん、まぁそういうことかな。」
彼が微笑む。
腕を組んで、レストランに入る。
窓際の席、テーブルにはキャンドル。
一体いつくらい前に予約したんだろ?
「すごいね。きれい…」
窓の外のイルミネーションがきらきらと輝いてる。
「うん。そうだね。」
ワインが運ばれてくる。
料理が並ぶ。グラスにワインが注がれる。
「かんぱい。メリークリスマス。」
二人でグラスを重ねる。
カチン、と澄んだ音がした。
「20世紀最後のクリスマスだね。」
彼が窓の外を見ている。
「そうね、今世紀最後のクリスマス。こうやって二人で過ごせて幸せだね。」
二人で食べる料理はいつもよりおいしい。
お酒もすすむ。会話も楽しい。

ふっと昔聞いた話を、思い出した。
「だけどさ、クリスマスって本当は家族と過ごすものなのよね。」
ちょっと意地悪をいってみる。
「いつから日本では恋人と過ごす日になったんだろ?ね、そう思わない?」
いたずらっぽく私は笑ってみせる。
「じゃあ、来年は家族とすごさなくちゃね。」
彼は笑って、答える。
「意地悪ね。あなたといるのが楽しいのに。」
彼は笑ったままグラスに口をつける。
私は少し怒った顔で、窓の外を見た。
「そんな、意地悪言うんだったらもう、プレゼントあげない。」
言い出したのは自分なのにすねてしまった。
「こっちむきなよ。」
彼は笑っている。
「もう、知らないよ。」
ガラスに映った自分に向かっていった。
「そんなにすねるなよ。はい、クリスマスプレゼント。」
彼が手を差し出す。
「え、だってここがプレゼントじゃなかったの?」
思わず彼に向き直る。彼は微笑んだまま。
手のひらには、小さな箱。
「これって…」
少し驚いてる私に、
「結婚しようか。」
彼は優しい目で言った。
「来年は家族でクリスマスするっていっただろ?」
いっきに機嫌が直ってしまった。
我ながらすごくげんきん。そういうことだったんだ。
「うん。」
もう一度二人で乾杯。
20世紀最後のクリスマス。恋人と最後のクリスマス。

そして来年も一緒にいられたらうれしい。
来年は21世紀最初のクリスマス…家族でね。
20001224UP

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