星空
この村に来たのはかなり久しぶりだ。
叔父の法事の宴をぬけだし、酔い覚ましに畦道をあるく。
新幹線のチケットの時刻まで、まだ少し余裕がある。
子供の頃、夏休みによく遊んだ裏手の小山に登ってみる。
草のうえに腰をおろし、後ろに手をついて空を眺めると
満天の星空が広がっていた。
「あいつも連れてくればよかったなあ」
無数の星のひとつひとつに、願い事をかけてみる。
ばかみたいだけど、宝くじが当たったら何を買おうかと考えてるみたいで
なんだか楽しい気分だ。
虫の音に合わせるように、胸ポケットの携帯が鳴り響いた。
「お疲れさま、こっちに着くのは何時頃になりそう?」
「最終の新幹線の2本前かな」
「じゃあ、駅前の○○ホテルのラウンジでまってるわね」
携帯を切って、空を眺めたまま立ち上がった。
構内からでて、ビルの間の空を眺めてみた。
目を凝らさないとわからないくらい、薄らと数えられるほどの星がでている。
願い事が少ししかかけられないみたいで、寂しい気分になった。
ホテルの最上階のラウンジにはいると、彼女が窓際のカウンター席で手をふっている。
隣に座ってオーダーを頼んで一息つく。
正面の窓には彼女が映っている。その向こうには
天の川のような夜景がひろがっていた。
「なあに、にやにやしちゃって」
ガラスの彼女に独り言みたいに答える。
「なあんだ、願い事はみんな叶えられてたんだ」
天の川の中の彼女の指には星が光っていた。