ひとりごと

弱った。本当に困ってしまった。
中秋の名月に、夜景でも観にいこうなんて
ガラにもないこと、するもんじゃない。
「私の、どんなところが好きになったの?」
彼女の一言で僕は、溝にはまった車みたいに
ウンウン唸って、動きが止まってしまった。

元来、積極的な方ではない僕である。
眩しくてまともに視られない太陽よりも
ずっと眺めていられる月が僕の美意識には合っている。
女性の好みも控えめな美しさが好きなのだ。
自分自身、月を照らす太陽の様になりたいのかもしれない。
「ふーん、私のことなんてどうでもいいんだ‥」
なかなか答えない僕に、彼女が口を尖らせる。

さらりと気の利いた台詞が考えつかない。
くさい言い回しだと笑われないか?
どうせ私は地味ですよととられないか?
マザコンだ、ロリコンだと引かれないか?
月を眺めたまま、まだ唸っている。

ちらりと彼女の方をみると、彼女と目があった。
あわてて視線をまた月に戻す。
「ん?‥アレ?んふふふっ」
彼女がいたずらを思いついたような感じで微笑んだ。
黙ってそっと、僕に寄り添ってくる。
月の聡明な光は、太陽の光も届かない
夜道のような僕の心も照らしてしまうようだ。

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