第1部:資本の生産過程

第7篇:資本の蓄積過程

第23章:資本主義的蓄積の一般的法則

第4節
相対的過剰人口のさまざまな実存形態。
資本主義的蓄積の一般的法則



相対的過剰人口の3つの実存形態

どの労働者も、なかば就業している期間中またはまったく就業していない期間中は、相対的過剰人口に属する。[670]

このマルクスの指摘は、たいへん重要だ。

わが国では、失業率を算出するさい、「完全失業者」という定義を用いる。この「完全失業者」をめぐって、政府は、

労働力調査で求めている完全失業者は、他の主要先進国と同様、客観的に就業・失業の実態を把握するための定義としてILOの定めた国際基準に準拠したものです。【総務省統計局 統計に関するQ&A「労働力調査に関するQ&A」】

と説明している。しかし、この「他の主要先進国と同様」という説明にはごまかしがある。

総務省統計局の説明では、ILOで定める「失業者」の定義は、つぎのとおりである。

「失業者」は、調査期間中、

  1. 「仕事を持たず」、すなわち、有給就業者でも自営就業者でもなく、
  2. 「現に就業が可能で」、すなわち、有給就業又は自営就業が可能で、
  3. 「仕事を探していた」、すなわち、最近の特定期間に、有給就業又は自営就業のために特別な手だてをした、
一定年齢以上のすべての者から成る。【総務省統計局 統計に関するQ&A「労働力調査に関するQ&A」】

ここで、各国さまざまに定義することのできる「時間的長さ」が、少なくとも、2つある。すなわち、「調査期間」と、仕事を探していた「最近の特定期間」の長さである。この問題については、総務省統計局自身も、つぎのように説明している。

ただし,各国の就業事情に合わせて,完全失業者の細かい定義には,若干の違いがあります。

例えば,日本では,過去1週間以内に仕事を探す活動や事業を始める準備をしていた者のほか,過去の求職活動の結果を待っていた者も含めて「仕事を探していた」者と定義していますが,アメリカでは,過去4週間以内に仕事を探していた者のみとしており,一概にどちらの失業率が低め又は高めに出るというような傾向はありません。【総務省統計局 統計に関するQ&A「労働力調査に関するQ&A」】

1週間4週間との違いがあるにもかかわらず、「一概にどちらの失業率が低め又は高めに出るというような傾向はありません」と言い切っているが、はたしてそう言い切れるだろうか。この行政的基準は、明らかに、欧米など国際的な基準にくらべて、たいへん短く設定されていると言えるだろう。

なおかつ、「就業者」でも「完全失業者」でもないカテゴリーとして、「非労働力人口」が設定されているが、総務省統計局の作成した表【総務省統計局 統計に関するQ&A「労働力調査に関するQ&A」】によれば、「平成16年平均」で、(「就業者」6316万人、「完全失業者」313万人にたいして、「非労働力人口」)4340万人。この「非労働力人口」とくくられた人びとのうち、「就職希望者」529万人、「非求職理由が『適当な仕事がありそうにない』である者」190万人、「仕事があればすぐつける」73万人、「過去1年間に求職活動あり」48万人――これらの人びとの合計数だけでも840万人。「非労働力人口」とされている人口数の19%である――。行政統計で「非労働力人口」とされている人びとの内実は、このようなものなのである。

さらに、わが国では、現在、正規雇用労働者数にくらべ、パート・アルバイトや派遣・契約雇用など、非常に不安定な雇用形態におかれている労働者人口の比率が、たいへん大きくなりつつある。「なかば就業中」である状態というのが、どれほど苦しく、不安なものか。

現代日本の不安定雇用労働者層を考察するうえでも、マルクスの上記引用部分の指摘は重要である。

相対的過剰人口は、……恐慌期に急性的に現われ、ときには事業不振期に慢性的に現われる諸形態を度外視すれば、つねに3つの形態――流動的形態、潜在的形態、および停滞的形態をもつ。[670]

流動的過剰人口

近代的産業の中心――工場、マニュファクチュア、冶金工場、鉱山など――では、……生産規模との比率ではつねに低下していくとはいえ、就業者数は一般に増加する。この場合には、過剰人口は流動的形態で実存する。[670]

はたして、なぜ、「流動的」形態とよぶのか。

本来的工場においても、また機械が要因としてはいったり、また近代的分業が行なわれているにすぎないようなあらゆる大作業場においても、成年期前の男子労働者が大量に必要とされる。ひとたび成年期に達すると、きわめて少数しか同じ事業部門で使用され続けることはできず、通常は多数の者が解雇される。……資本は若年の労働者をより多く、大人の労働者をより少なく必要とする。[670]

資本による労働力の消費はきわめて急激なので、中年の労働者はおおかた、すでに多かれ少なかれ老衰している。彼は、過剰者の隊列に落ち込むか、高い等級から低い等級に突き落とされる。……。こうした事情のもとでは、プロレタリアートのこの部分の絶対的増大は、その構成分子が急速に消耗するにもかかわらずその数が膨脹するという形態を必要とする。すなわち労働者世代の急速な交替。[671]

おどろくべきことに、19世紀後半のイギリス工場地域における労働者の平均寿命は、なんと、17歳であったという(もっと驚くのは、富裕階級でさえ、平均寿命が38歳であったことだが)。([671]注(85a)『マンチェスター・ガーディアン』、1875年1月15日付)

潜在的過剰人口

資本主義的生産が農業を征服するやいなや、またはこの征服の程度に応じて、農業で機能する資本の蓄積につれて、農村労働者人口にたいする需要は絶対的に減少するのであり、この場合には、非農業的産業におけるとは異なり、労働者の反発がより多くの吸引によって補われることはないであろう。[671]

ここに、都市への人口の絶え間ない流入の「源泉」があり、いわゆる「潜在的過剰人口」が存在する。同時に、この潜在的過剰人口の絶え間ない都市への流入は、都市と農村部との人口格差を広げる。

停滞的過剰人口

停滞的過剰人口は、現役労働者軍の一部分をなすが、しかしまったく不規則な就業のもとにある。……彼らの生活状態は労働階級の平均的な標準的水準以下に低下し、まさにこのために、彼らは資本の独自的搾取部門の広大な基礎となる。最大限の労働時間と最小限の賃銀が彼らの特徴をなす。[672]

ここでマルクスが参照を促しているのは、第13章第8節d項「近代的家内工業」。参照を促されている小節の「主人公」は、若年・女性労働者である。現代日本における若年労働者の年齢は、マルクスが告発した当時よりも上がっているとはいえ、きわめて「不規則な就業」時間のもとにおかれている実態は、現代の女性・青年労働者層と重なり合う一面をもっている。

彼らは、大工業および大農業の過剰労働者から絶えず補充され、ことにまた、没落しつつある産業諸部門……から絶えず補充される。[672]

「貧乏の子沢山」というのを、まさか、こういうカタチで定式化しているとは、知らなかった。つぎの叙述部分である。

彼らは、労働者階級のうち、自己自身を再生産し永久化しつつある一要素をなしており、労働者階級の総数増大にあずかる力は他の諸要素よりも比率的に大きい。実際には、出生数および死亡数だけでなく、家族の絶対的大きさも、労賃の高さに、すなわち労働者のさまざまな部類が使用できる生活諸手段の総量に、反比例する。[672]

しかし、はたして、この指摘が、現代日本にそのまま当てはまるかどうか。現代日本においては、「少子化」が社会問題となっている。それは何より、子どもを生み育てる社会的条件が、きわめて悪化しつつあるからである。しかしまた、一方では、飢餓と貧困に苦しんでいる諸国において、乳幼児の死亡率の高さとともに、総人口増大傾向が指摘されている。

注(87)……「飢餓と疫病という極限にまでいたる窮乏は、人口を抑制するどころか増加させる傾向がある」(S.ラング『国民的困窮』、1844年、69ページ)。[672]

この、傾向の二極化を、どう捉えればよいのだろうか。

受救貧民

相対的過剰人口の最深の沈殿物は、受救貧民の場に住みつく。……この社会層は3つの部類からなる。第1は労働能力ある者。……第2は――孤児および受救貧民の子供。……第3は――零落者、ルンペン、労働無能力者。これはことに、分業のおかげで転業能力がないために没落する人々、労働者の標準年齢を超えている人々、最後に、……産業の犠牲者、すなわち傷害者、病人、寡婦などである。[673]

この「受救」という言葉は、当時のイギリスにおける、社会保障をめぐる法的措置のあり方を、反映しているものと思われる。

現代日本で、はたして、この貧民層は、どのような現われ方をしているのだろうか。

資本主義的蓄積の絶対的・一般的法則

社会の富、機能資本、機能資本の増大の範囲と活力、したがってまたプロレタリアートの絶対的大きさおよび彼らの労働の生産力、これらが大きくなればなるほど、それだけ産業予備軍が大きくなる。……産業予備軍の相対的大きさは、富の力能につれて増大する。……労働者階級中の貧民層と産業予備軍とが大きくなればなるほど、公認の受救貧民がそれだけ大きくなる。これこそが資本主義的蓄積の絶対的・一般的な法則である。[673-4]

資本主義的な生産と蓄積との機構が、この〔労働者諸層の〕数を絶えずこの増殖欲求に適合させるのである。この適合の最初の言葉は、相対的過剰人口または産業予備軍の創出であり、その最後の言葉は、現役労働者軍中の絶えず増大する層の貧困と、受救貧民の死重とである。[674]

資本が蓄積されるのにつれて、労働者の報酬がどうであろうと――高かろうと低かろうと――労働者の状態は悪化せざるをえない……。……相対的過剰人口または産業予備軍を蓄積の範囲と活力とに絶えず均衡させる法則は、……資本の蓄積に照応する貧困の蓄積を条件づける。したがって、一方の極における富の蓄積は、同時に、その対極における、すなわち自分自身の生産物を資本として生産する階級の側における、貧困、労働苦、奴隷状態、無知、野蛮化、および道徳的堕落の蓄積である。資本主義的蓄積のこの敵対的性格……。[675]



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