悠久幻想曲3SS 夢の続き


「何を持ってるんですかぁ? ティセにも見せて欲しいですぅ」

(聞いちゃだめですぅ)

「コレ? うんいいよ、これは私の大切なモノ。アナタにとっても無くしてはならない宝物」

「ほえ? ティセの宝物ですかぁ?」

(あうぅ、見ちゃ駄目なんですぅ)

「うん、コレ…羨ましいでしょう」

そういって満面の笑み(ティセにとっては泣き顔)の少女が差し出したモノ。

ティセがご主人様と慕う、ルシード・アトレーの首であった。

 

「ひゃああああああっ!!」

 

 ティセは間の抜けた悲鳴と共に目を覚ました。同じベッドに寝ていた猫のポチたまがゴロンとベッド

から転げ落ちる。

「はうぅ、ポチたまさんゴメンナサイですぅ」

床に落ちたポチたまを拾い上げる。

「またあの夢ですぅ…ティセはもう何回ご主人様の生首を見たか数え切れないですぅ」

 はぁ…と朝から重たい溜息を吐く。ルシードだけではない。ポチたまを飼ってから一月、既にブルー

フェザーのメンバー全員、それに親しいシープクレクトの友人更紗やシェール、リーゼの生首も見ていた。

「あの人は誰なんでしょう? 顔は良く見えないですがティセ何処かであった気がするんですぅ」

2度目の溜息を吐いたティセの頬にポンポンと肉球が当たる。ティセの腕に抱かれたポチたまだった。

「元気付けてくれてるんですかぁ? ポチたまさんいい人ですぅ」(注:人ではない)

そう言ってポチたまを強く抱きしめる。

「…」

ニャーニャー!とポチたまが苦しげに鳴く。

「はうっ! 強すぎでしたかぁ、ゴメンナサイですぅ」

 

 

2話『オワリノハジマリ<中編>』


 

シープクレスト 第二埠頭 15:00

 

ジジッ…

 

『こっちはハズレだ、旧市街方面に逃走中らしい。いいかビセット、俺とバーシアが到着するまで持ちこた

えろ!』

軽いノイズがかかったビセットの通信機からルシードの指示が入る。

「だいじょぶだってルシード、こっちにはルーティとフローネもいるんだ、ルシードが来る前に倒しちゃう

 よ」

『…ゼファーからの魔物の情報は覚えてるな?』

「風だろ? バッチリ任せとけって…って来た! ルシード通信切るぞ」

『あ? おいちょっと待…』

ビセットは通信機のスイッチを切り、ブツン…という音とともにルシードの声も消える。

「ちょ、ちょとビセット、通信切ることなかったじゃない?」

ビセットの隣で通信機越しの会話を聞いていたルーティが声をあげる。

「だって戦闘中に通信機なったら気になって危ないジャン? それよりアイツだろ、真っ直ぐこの橋に逃げて

 きてるな」

「うん。でも足ないんだから橋渡る必要ないと思うんだけど変な魔物」

 ビセットがいうアイツ…全長一メートル程度で全身がオレンジ色、クラゲのようなフォルム、両腕の肘の先

が鋭い鎌。

そして体の中央にある一つ目が不気味に動く。見るからに魔物としか言い様のないモノがビセット達のいる第

2埠頭と旧市街を結ぶ橋へ向かってきていた。

「ヘヘ、久しぶりに腕がなるなあ! フローネ作戦通り頼むよ」

「ええ、風の結界魔法で動きを止めるのよね」

「…フローネ大丈夫? なんか顔色悪いよ?」

ビセットに微笑みながらそう答えるフローネの顔を見てルーティが声をかけた。

「大丈夫よルーティちゃん。いつまでも先輩やバーシアさんに頼ってばかりじゃ駄目だもの。私達で頑張りま

 しょう」

「う…ん、でも…」

「来たぞルーティ!」

 フローネはそう言ったが顔色が悪いのは間違いなく、ルーティはもう一度声をかけようとしたが魔物がその

時間を許さなかった。

ビュン! と魔物が腕の鎌をビセットに振り下ろす。

「うわっと! コイツ早い!」

「え〜いッ!」

ルーティがハンマーで殴りかかるが魔物は難なくかわす。

「フローネ!」

「ええっ! 『風の戦陣結界』」

 

――カキン

 

という音が魔物を中心に響き、風の結界が魔物を覆った。

「やったぜ! 後はオレがっ!!」

結界に動きを封じられた魔物にビセットが懇親の力を込めて殴りかかった!

ピキッ…と微かに空間の欠ける音がルーティの耳に届く。

「!? ビセットだめッ!!」

「えっ?」

パーン!! と派手な音を鳴らし、魔物は風の結界を弾き飛ばしそのままビセットの肩を腕の鎌で切りつ

けた!

「うわぁっ…」

俊敏さを活かし、ギリギリで方向転換して肩を掠める程度の被害に押さえる。

かすり傷…とはいえ焼けるような痛みが一瞬走り、ビセットは溜まらず悲鳴をあげた。

 

 

 

シープクレスト 旧市街 ミッシュベーゼン 15:00

 

 カランカラン…と、準備中の看板を立ててあるにも関わらず扉の開く音にカウンターで洗い物をしていた

ミッシュベーゼンのおかみジラが顔をあげる。

「こんにちはですぅ〜」「ニャー」

 来客者はティセと、ティセのエプロンドレスの腰下にある大きなポケットから顔を出した子猫だった。カン

ガルーの親子のような姿の二人をみてジラは優しい笑みを浮かべる。

(ちなみにエプロンドレスにポケットを付けてあげたのはメルフィ)

「おやティセにポチたまじゃないか? いらっしゃい…といってもランチも終わって今は準備中なんだけどね。

 どうしたんだい?」

「はい、バーシアさんに頼まれてお酒を取りにきました〜」

「おや? バーシアはどうしたんだい?」

「お仕事でこれなくなったそうですぅ。それでティセが頼まれましたぁ」

「ああそうかい。ちょっとまっとくれよ」

そう言って酒を取りに店の奥に向かうジラ。

「ほらこれだよバーシアに頼まれたお酒。重いけど大丈夫かい?」

「はい。ポチたまさんも手伝ってくれるので大丈夫ですぅ」

「そうかい。エライねえ」

どう手伝うのかさっぱり解らなかったがとりあえずポチたまの頭を撫でるジラ。

その時、緊急警報が鳴った。

 

『こちら保安曲。緊急警報を発令します! 現在第一埠頭付近に魔物が逃走中。繰返します。現在第一埠頭

 付近にて魔物が逃走中。ただいま保安曲が魔物捕縛に全力をあげておりますが万一に備えて第一埠頭近辺

 におられる方は緊急にどこか建物の中に避難して下さい。もう一度繰返します。現在〜』

 

ガシャン!!

 

「はうっ! 何ですかぁ?」

ジラは持っていた酒瓶を落していた。

「なんだって! 大変じゃないかい!」

真っ青な顔でジラはひとりごちる。

「ご主人様達がすぐに魔物を捕まえてくれるですぅ」

「ああ、そうだね。それはわかってるけど更紗が…」

「ほえ? そういえば更紗さんみかけないですぅ」

「ちょっとおつかいを頼んでたんだよ。それでそろそろ戻る時間だから…」

「それは危ないですぅ。どこかに避難しないと」

「あの子が知らない建物に避難出来るとは思えないんだよ。あたしゃちょっと迎えに行ってくるよ」

そう言って店を飛び出すジラ。

「ポチたまさん、ティセ達もいくです」

ジラの後を追い、ティセもミッシュベーゼンを飛び出した。

緊急警報は今だ流れつづけていた。

 

 

 

シープクレスト 第二埠頭付近 15:20

 

「逃がしたぁ? 何やってんだ! ちゃんと弱点は解ってた筈だろ!?」

『ご、ごめん。それで橋を渡られちゃって旧市街の方に…』

「ああ? 最悪じゃねーか! それで?」

『うん、それでルーティが後を追ってる。オレもちょっと怪我したくらいだから追っかけたいんだけど

 フローネが…』

「フローネもやられたのか?」

『違う、なんか疲れてたみたいで魔力が空っぽだったんだ。それなのに結界魔法を使って…』

「…あー解った。フローネもつれて病院に行って来い。お前も怪我してんだから一緒に行け。後は俺達

 でなんとかする。あとメルフィに魔物が旧市街方面に逃げた事を報告しとけ」

『うん解った。あの、ルシード…ごめん』

「あ? しょうがねぇだろ。 報告は頼んだからな」

そう言って通信を切る。

「…またフローネ?」

ルシードと共に現場に向かっていたバーシアが声をかける。

「ああ…ったくクタクタになるまで訓練するなって何回言えば解るんだあいつは」

「まあ真面目な子だからねぇ。毎度体力や魔力の限界まで訓練していざ出動の時に体力も魔力も空っぽじゃ

 ねえ…頑張ってるんだからポテンシャルは上がってる筈なんだけどそれが発揮されるのはいつになるやら…」

 当たり前だが事件は決まった日時に発生するものでは無い。その為真面目に訓練しているフローネはいざ出動

の時、決まって体力、魔力共に消耗しきっており、戦闘で役に起つ事はほぼ皆無だった。逆に訓練をサボりまく

り結果体力魔力を温存しているバーシアが戦闘時役に起つのだからなんとも皮肉な話である。

「なあバーシア、お前まさか…」

「なによ?」

「いや何でもねぇ。ありえねェ想像をしちまった」

「なによムカツクわね、言って見なさいよ」

「まさかとは思うが…お前が訓練サボってるのは緊急事件時の体力温存策じゃねーかと」

「そうよ」

しれっとした顔で答えるバーシア。

「あ? 嘘だろ?」

「…あんたねぇ、アタシはブルーフェザー長いのよ? 実際事件が起こった時何が必要か解ってんのよ。あの子

 達の基礎が出来あがるまでアタシが戦闘時持たなきゃダメでしょうが」

「…信じられねぇ」

 が、それが事実かどうかはともかく、魔物との戦闘発生時大抵最後まで残っているのはルシードとバーシアだけ

という結果は常であった。

「だからアタシがサボろうが寝坊しようが文句言うんじゃないわよ」

「それは…って寝坊は関係ねーだろうが! やっぱり嘘だな」

「チッ…あと少しで騙せたのに」

その時、緊急警報が鳴った。

「…対応が早いわね、やるじゃないメルフィ」

「それもあるけどな…こないだの暴走事件で魔法や魔物がらみの事件に対して考えかたが変わったんだろう」

 ほんの2ヶ月前、シープクレスト全体を危機に陥れた魔力暴走事件。ルシードは下水に流されて一時行方不明に

なるなど思い出したくもない事件の話である。

「まあやりやすくはなったがな」

 

そう言ってルシードとバーシアは旧市街に向かった。

 

 


 

…なんか悠久3プレー時の当時の感想話になってますが(汗)

いつかフローネも戦闘で役に立つ日が………くるんですかねぇ?(苦笑)

3話目はほぼ出来てますので来週中?