悠久幻想曲3SS 夢の続き

1.2話『オワリノハジマリ<前編>のB面』


1−2

アレクトール広場 16:30

 

「あれ? お姉ちゃん?」

 鮮やかな緑色を基調としたシープクレスト学園の制服を大きく揺らし、バイト先であるクーロンヌへ向かい

元気良く走っていたシェールがアレクトール広場でボンヤリと立ち止まっていた姉を見つけ足を止める。

「お姉ちゃん何してるの?」

「…」

「お姉ちゃん!」

後ろから声をかけても一向に気付かない姉に困惑しながらも耳元でもう一度、先程より大きな声で声をかけた。

「キャ…、っていやだわシェール脅かさないでちょうだい」

「声かけても無視するお姉ちゃんが悪いんでしょ。お店はどうしたの?」

「お店? あらもう四時半だわ、遅刻よシェール」

少し困った顔でシェールを叱るリーゼ。

「いやそうじゃなくて…お姉ちゃんこそ何ボーっと立ってるの?」

「あ、うん。お知り合いを見かけたから挨拶をしたかったのだけど…こういう場合どうすればいいのかしら?って

 躊躇してたのよ」

そう言って広場中央の噴水近くを指差す。

「は? 何を言ってるの? ってルシード君じゃない……ホントだ何してるんだろう?」

数メートル先のルシードとティセを見かけ、『確かに声かけにくいなぁ』と頷くシェール。

何故ならティセがルシードの頭を掴みブンブンを振り回すという不可思議な光景が繰り広げられていたから。

「ああいうの流行ってるのシェール?」

「聞いた事ないけど…あ、ルシード君がティセの手を振り解いた」

「ティセちゃん震えながら後づさりしてるわ。喧嘩だったのかしら?」

「あっ!?」

唐突にティセを羽交い締めにしたルシードを見て思わず声をあげるシェール。

そしてしばらくするとティセはその場でしゃがみこむ。その背中はとても悲しげであった。

「ティセさん、もしかして泣いてるのかしら?」

「そんな感じするね。ちょっとルシード君に文句言ってくる!」

「待ってシェール」

二人に近づこうとしたシェールをリーゼが止める。

「何でよお姉ちゃん! 女の子泣かすなんていくらルシード君でも許せないじゃない!」

「そうじゃなくて…ほら?」

リーゼに促された方向を見るとルシードとティセに近づくフローネの姿があった。

「フローネさんだ。これなら安心…あれ?」

今度はフローネが引きつった顔で二人から後ずさる。

「いったい何が起こってるのかしら?」

事態が飲み込めず様子を伺うリーゼとシェール。

「あ、今度はティセとフローネさんから詰め寄られてるよルシード君」

「…でも何だか急に静かに?」

その直後、ティセ、フローネが同時にルシードに抱き付いた。

「二人共ルシード君に抱き付いちゃった!?」「ルシードさんに抱き付いたわ!?」

「…お姉ちゃんどうしよう? 私達凄いシーンを見ちゃったみたい」

「解るのシェール?」

「うん、多分ルシード君ティセに別れ話をしてたんだよ」

「え? シェールそれはちょっと…」

「解ってる。でも聞いて。別れ話をされたティセが怒ってルシード君の首を絞めようとして

 手が滑って頭を掴みブンブン振り回した」

「…」

「でも殺せず、噴水に身投げしようとしたティセをルシード君が羽交い締めにして止めた」

「…」

「身投げに失敗して嘆き悲しんでいるシーンを見て、ルシード君の浮気相手だったフローネさんが

 影から見てたけど溜まらず二人に近づいた」

「…」

「ティセと別れないと言われ驚くフローネさん。そしてどっちと付き合うのか詰め寄られるルシード君。

 その答えは…」

「…」

「『二人と付き合う!』その答えに満足したティセとフローネさんはルシード君に抱きついた!」

「…」

「どう、お姉ちゃん?」

得意げな表情でリーゼを見るシェール。

「…シェール、アナタ変な漫画の読みすぎよ」

(近頃の少女漫画は過激過ぎるという噂は本当だったのね。と)

リーゼは溜息をついた。

「挨拶に行きましょうシェール」

「え? ちょっとお姉ちゃん!?」

スタスタとルシード達がいる噴水側に近づいていったリーゼに慌てて続くシェール。

「こんにちはルシードさん、ティセちゃん、フローネさん」

 

リーゼは笑顔で店のお得意様に声をかけた。

 

 

1−3

 

「な〜んだ! そんなことだったんだ」

そう言って子猫を抱き上げて苦笑するシェール。

「もう、シェールがおかしな事言うから…」

「あ? なんだと思ってたんだシェール?」

「ええ、それが…」

「ちょ、ちょっと止めてよお姉ちゃん!」

笑いながらルシードに答えようとするリーゼを慌てて止めるシェール。

「…あれ? この子チョコレートの匂いがするね?」

「はいティセのチョコをあげましたぁ」

「…」(落しただけだろう?)と思ったがルシードは何も言わなかった。

「偉いわティセちゃん、大好きなチョコをあげるなんて」

「えへへですぅ」

フローネに誉められて照れるティセ。

「へ〜ティセがチョコをあげるなんて珍しいね!…へ? チョコ?」

「どうした?」

「ねえお姉ちゃん、猫にチョコってたしか?」

おそるおそるといった顔でリーゼの顔を見上げるシェール。予想通りリーゼは真っ青な顔をしていた。

「ダメよ! 猫にチョコレートなんて、猫に玉ねぎあげるのと同じ位毒なのよ!」

「そうなのかフローネ?」

「は、はい。たしかそうだったような…」

「ティセ、早く吐き出させろ!」

「は、はいですぅ!」

シェールから受け取った子猫の足を掴み、逆さまにしてブンブンと猫を振り回すティセ。

「ええっ!?」

「ダメよティセちゃんそんな乱暴に…」

あまりの方法に目を向くシェールとフローネ。

「はうぅ、でもどうすればいいんですかぁ?」

オロオロとするティセ。

「猫の喉に指を突っ込め!」

「はいですぅ!……ひゃああ! 噛まれましたぁ!!」

 

そして子猫の命は救われた…たぶん。

 

 

1−4

ブルーフェザー事務所 17:30

 

「みんなお帰り」

前庭で花壇に水をやっていたルーティは散歩から事務所に帰ってきた3人を見かけ声をかけた。

「あっ子猫だ。何々、その子どうしたの? アタシにも抱かせて」

ティセの手に抱かれた猫を見つけ好奇心いっぱいの顔でティセから猫を受け取る。

「うわぁカワイイ!…ってどうしてこの子こんなグッタリしてるの?」

「あ、あーっと、何でだっけなフローネ?」

説明するのも面倒くさいといった顔でフローネに話を振るルシード。

「え、ええっと何だか体調も悪いし身寄りもないみたいだからウチで預かろうって」

「ふ〜ん、体調が悪かったんだ。よしよし、何かあったかいものでも食べようね〜」

優しく猫を撫でるルーティ。

「それで飼ってもいいってメルフィさんにお願いするんですぅ。ルーティさんも手伝ってください」

「うん任せて! でもこんな病弱な子メルフィもほっておけるわけないって」

明るく答えるルーティ。

「…ああ、そうだな」

何故猫に元気がないのか? その説明はルシードには出来なかった。(アホ臭くて)

 

 

 

この後ビセットも加わりメルフィに飼っても良いという了承を得る為の説得が入ったが

「こんな病弱な子猫メルフィはほっておけるの?」

というルーティの一言が決め手となった事は言うまでも無い。

 

 

 


と、いうワケでフォローSS。

猫にチョコレートは毒!という

情報を下さった方(名前はあかんかな?)感謝です。

1話の1と2の間に入る話なので1−2〜1−4です。

 

スミマセン、3or4話くらいまで本編というか書きたい話始まりません(涙:今回のは番外であり2話ではない)

見限るのは本編に入るまで待っていただきたいなあ…と。