悠久幻想曲3SS 夢の続き


夕焼けが世界を赤く染める。

 

 

 その赤い世界の地上、水溜りの中央で1人の少女が胸に何かを抱いて笑っていた。

「どうして泣いているんですかぁ?」

 その光景を見て、鮮やかなピンクの髪が印象的なエプロンドレスの少女が、足を濡らすのも気にせず

笑っている少女に近づいて声をかけた。

「泣いている? 私笑ってるよ?」

振り向きもせず、そう答える少女。

「そうですかぁ? ティセにはとっても苦しそうに泣いてるようにみえますぅ」

「それは勘違い、私は今とても幸せだもの」

腕に抱いたサッカーボール位の大きさの何かにいとおしむように頬擦りした。

「あうっ、そうでしたか。ところで何を持ってるんですかぁ? ティセにも見せて欲しいですぅ」

自分をティセと名乗った少女は座り込む少女にそう懇願した。

「コレ? うんいいよ、これは私の大切なモノ。アナタにとっても無くしてはならない宝物」

「ほえ? ティセの宝物ですかぁ?」

「うん、コレ…羨ましいでしょう」

 

そういって満面の笑み(ティセにとっては泣き顔)の少女が差し出したモノ。

 

 

ティセがご主人様と慕う、ルシード・アトレーの首であった。

 

 

 

 

 

1話『終わりの始まり<前編>』


 

「ティセ!!」

「は…う…? あれ? ご主人様?」

「ご主人様じゃねーだろ? 何ボーっとしてんだ!」

「ご、ご主人様ッ!?」

 ティセはそう叫ぶと、背伸びをして自分を呼んだ青年、ルシード・アトレーの頭を両手で

しっかりと掴んだ。

「あ?…お前いきなり何を…?」

「ご主人様の首、首がッ!!」

そう言いながらルシードの頭を両手でブンブンと振りまわした。

「なっ!? ティセ、お前何しやがる!!」

ルシードはティセの腕を強引に振り解き、睨みつけた。

「ご主人様の首が…」

「俺の首が何だ?」

「ご主人様の首が…くっついてますぅ」

「……」

ティセの周辺の気温が一気に下がった。

「はうっ、ご主人様怒ってますかぁ?」

殺気を感じてあとづさるティセ。

「おう、あれで怒らない奴がいるならみてみてぇなティセ」

「あうぅ、ごめんなさいですぅ、ご主人様の首がポロッと取れる夢を見て心配したんですぅ」

「あ? なんつー物騒な夢みてんだお前は…って、今立ったまま夢みてたのか?」

「はえ?」

そう言われ周囲を見まわす。公園だった。

 

(ご主人様の散歩に付いていって、歩きながらチョコを食べようとしたら『食べ歩きするな』って

 注意されて、ポケットにしまおうとしたらチョコを落したんですぅ)

 

「ティセのチョコはどこですかぁ!?」

「いきなりそれか、お前は…」

 ルシードは呆れ顔でティセの足元を指差す。そこにはティセの落したチョコをバリバリと食べて

いる一匹の子猫がいた。

「あーっ、ティセのチョコ食べちゃ駄目ですぅ!」

「アホかお前はッ!」

落ちているチョコを拾おうとしたティセを溜まらず止めるルシード。

「落した物食おうとするな!」

「でも3秒ルールですぅ。食べ物落しても3秒以内に拾えばバイキンは付かないんですぅ」

「…誰だ、そのアホな理論をお前に教えた奴は…」

「ビセットさんですぅ、前にリーゼさんの作ったケーキを落したのを食べてたので注意したら泣きながら

 そう説明してくれましたぁ」

「あー解った。それは嘘だ。ビセットには俺が注意しとく。だからそのチョコはネコにくれてやれ」

「はうぅ、解りましたぁ…せめてネコさんおいしく食べてください」

かがんでネコの頭を撫でると嬉しそうにニャーと鳴いた。

「あっ、チョコの匂いがします」

ひょいとネコを抱き上げて顔に近づける。ネコはぺロリとティセの鼻を舐めた。

「あうっ、なんだか美味しそうですぅ」

「…お前今怖い事考えなかったか?」

「センパイ、ティセちゃん、何してるんですか?」

 ネコを前にかがんでいる二人に声をかけたのはブルーフェザーの一員、フローネ・トリーティア

だった。

「おう、フローネか。いやこのネコがな…」

「美味しそうなんですぅ」

「えっ!? センパイまさか!?」

思わず後づさるフローネ。

「いや違ぇ…なんかエサやったらティセに懐いたみてーでな」

「あ、そうなんですか。こんにちはネコさん、お名前はなんて言うんですか?」

そう言ってネコに微笑むフローネ。彼女は動物と会話するという特殊能力を持っていた。

「うん、うん、そう…大変だったのね。うん…えっ!? それは……」

「何て言ってるんだ?」

「えっと…この子名前がないそうなんです。生まれて…気がついたら一人きりで、お腹がすいて

 フラフラしてたら食べ物を貰ったって。だからティセちゃんがお母さんですか?って」

「ええっ! ティセこの子のお母さんなんですかぁ?」

驚愕の事実を告げられてマジマジとネコを見つめるティセ。

「…いや違うから。そろそろ離してやってだな…」

「えっ!? センパイ、まさかこの子を見捨てるんですか?」

信じられないといった表情でルシードを見つめるフローネ。

「酷いですご主人様! ティセとご主人様の子供捨てるんですかぁ」

「ドサクサに変な事言うなッ! だいたいネコなんざいちいち気にしてたら事務所がネコ屋敷になっち

 まうじゃねーか! こいつだけ特別扱いってのはねーだろ?」

「そんな、まだ子猫なんですよセンパイ」

「あのなあ、そんな理由でいちいち拾ってたら…」

「…でも、ティセはご主人様に助けて貰えなかったらきっと死んでたですぅ」

 

一瞬、三人が沈黙する。

 

「…ネコと人間は違うだろ」

「ティセ人間じゃないです。この子と一緒ですぅ」

「…」

「…センパイ、私も面倒をみます。だから今回だけは…」

 ティセの泣きそうな顔と必死に懇願するフローネ。この二つに抗うことが出来る人間などいるはず

もなかった。

「ったく、勝手にしろ。俺は面倒をみねーし、メルフィにはお前らが説得しろよ?」

「センパイ!」「ご主人様ッ!!」

「だあっ、抱きつくなッ!」

そしてティセの腕の中でネコが嬉しそうにニャーと鳴いた。

 

 

 ――ブルーフェザー事務所。食堂兼会議室(PM21:00)

 

 食後の反省会議ではある議題によって白熱した議論が繰り広げられていた。

「やっぱりジェイミーちゃんがいいよ!」

「え〜、そんなのダサいじゃん! もっと強そうな名前にしよーゼ」

「どんなのよ?」

「えっと、そうだな、サンダードラゴンとか」

「この子ネコなんだけど?」

議題は『拾ってきた子猫の名前』。

上記の会話は当然ルーティ・ワイエスとビセット・マーシュである。

「ネコなんだからネコでいいじゃない」

「そんな…それじゃ可哀想ですよ」

「なあに? じゃフローネなんかいい名前あるの?」

「えっ? そうですね…『ゾンビちゃん』なんてどうですか?」

さも名案が浮んだ!という表情でバーシアに答えるフローネ。

「フローネ…あんた……」

場がシーンと静まり返る。

「えっ? あっ…その…だってゾンビってもう死なないじゃないですか! だから怪我とか

 病気とかしないで健康に長生きできるようにっていう意味でですね…」

「だからゾンビって…ねえフローネさん、将来子供を産んだら名前決める時は私達に相談してね」

「ど、どーいう意味なんですかメルフィさん! それじゃメルフィさんだったらどんな名前つける

 んですか?」

「私? そうね…ウチにはもう犬の所長がいるんだから、『室長』なんてどうかしら?」

 楽しげに答えるメルフィ。ちなみにネコを飼う事に付いてはティセ、ルーティ、ビセット、フローネの

泣き落としで陥落していた。

「それは俺の役職なんだが…」

「えっ!? あっ、イヤだわ冗談よルシードさん」

ぎこちない笑みを浮かべてメルフィは答えた。

「今の『えっ!?』とか『あっ』ってのが妙に気になるがな…どうだティセ、気に入ったのあったか?」

「そうですねぇ、どれが良かったですかネコさん?」

会議中ずっとネコと戯れていたティセが話しけ、ネコはニャーと答えた。

「『どれも嫌』ですって」

フローネが通訳する。

「む、子猫の分際で生意気ねえ」

「でもバーシアさん、ネコに『ネコ』って名前はあんまりだわ。バーシアさんのこと『人間』って名前に

 されたら嫌でしょう?」

「そのネコに役職名つけようとしたの誰だっけねー?」

「わ、私のは冗談です!」

「とにかく早い所名前を決めたらどうだ? かれこれ2時間近くたっているぞ」

不毛な会議を終わらせるべく、今まで黙っていたゼファーが口を開いた。

「じゃゼファー決めちゃってよ」

バーシアが面倒臭そうに手をひらひらと動かす。

「む、そうだな、覚えやすい名前がよかろう。『松』『竹』『梅』どれがいい?」

 

またも場がシンと静まり返る。

 

「セ、センパイはどんな名前がいいと思いますか?」

「そうだよ!ルシードも意見言えよ」

「ティセも聞きたいですぅ」

「あ? そんなの『ポチ』とか『タマ』でいいじゃねーか」

「…『松・竹・梅』では駄目だったか? それなら…」

「駄目ですよセンパイ! 『ポチ』は犬の名前ですよ?」

「そうね、それに『タマ』はフジテレビからクレームが来るわ」(来ません)

「ったく某ネズミじゃあるまいし…ってかティセ、お前が決めろ」

誰かの発言は無視されているようだが、最終決定権はティセにゆだねられた。

「う〜ん、それじゃ『ポチたま』にしますぅ」

ルシードがあげた『ポチ』と『たま』をくっつけた名前に決まったらしい。

「あ? おいネコ、それでいいのか?」

「『お母さんが決めたならそれでいい』って言ってます。ポチたまちゃんで決まりですね。

 よろしく、ポチたまちゃん」

 

フローネがティセの腕に抱かれた子猫を撫でる。

 

 

こうしてブルーフェザーに新しい居候子猫の『ポチたま』が加わることになった。

 

 

 

 


あとがき

1話半分しか終わってないです(汗:だから前編)最初はチョットつまらないと思いますので(この後面白くなる保証もありませんが:苦笑)

3話くらいまで読んで判断していただけると嬉しいなあ…とw。

いままでと同じで後日談SSとなってます。予定では6話だったんだけど…早くも1話分割してるんで8話予定の中篇SSかなー?

ってか風邪ひいてヘロヘロデス。

戻るで帰って下され。後日整えます。

つーかネコってチョコ食べるの? さあ? ウチのネコが食ってるのは見たことない。