戦争の中の正義と悪
第3章 初めての戦いで
「イリア・ハーティルス、入ります。」
「うむ。お前にエンフィールド攻略の初陣を任そうと思う。可能な限り、お前だけでエンフィールドを取ってきてくれ。」
アルベザード国王の部屋の中に入ってきたのは、将軍風の仕官、イリア・ハーティルスと言う名の女性戦士であった。
「兵を2万5千お前に預ける。先程も言ったが、可能な限り、エンフィールドを取ってこい。」
「はっ!」
返事をするやいなや、女将軍は、国王の部屋を出ていった。
「ふふ……イリアならば、おそらく確実に、エンフィールドを取って来てくれますわ……」
「おそらく?いや、100%の確率でエンフィールドを取ってくる。その為に本来の五千兵を増やしたのだからな!」
「そうですわね……」
二人は、声を殺して笑い出した。その表情は勝ちを確信した者の表情だった。
「ルシード君、敵の状態は?」
「まず、敵の兵力ですが、だいたい2万5千に増員していますね。確実にここ(エンフィールド)を取るつもりでしょう。」
「確かにな。だけどさ、その分、飯とか増えるんじゃねえか?」
「!そうか!その手があったか!」
ルシードの言葉を聞いていたトウヤが思わず呟いてしまった言葉に、リカルドは何かを思いついたように顔を上げた。
「どうしたんですか?何かいい手が見つけたんですか?」
「当然だ。敵の数が2万であろうと2万5千であろうと、どちらにしろいつか出てくる問題がある。」
「まさか、食糧問題?」
「そうだ。ルシード君、敵陣の中にある食料が何処にあるか、調べてくれ。」
「あ、はい。」
リカルドの命令で、ルシードはまた魔力を集中させる。
「だけど、俺自身が言ったことだけど、兵糧責めをするなんて手が通用する相手なのかい?」
「何も兵糧責めだけが食料の作戦じゃないさ。要は敵に隙を作らせる作戦をたてれればいいんだよ。」
「成程。頭数より作戦重視で行った方がいいって事?」
「そうさ。アンタだって一応指揮官だったんだろ?だったらアタシの言ってる事ぐらい理解できるだろ?」
「ん。ま、そーだけど」
トウヤとリサが作戦の事を話している内に、ルシードが状況を調べ終えていた。
「とりあえず、敵の食料は3ケ月の間は持ちそうです。」
「そうか。こちらは兵が少ない分かなり持つと言っている場合ではなさそうだな。」
「ならば、こちらが受け身にしか……あいての状況に合わせるしかないか。」
「ところで、敵の指揮官となるのは誰だ?」
「えっと……四天王一慎重派のイリア・ハーティルスですね。」
「成る程。作戦が決まった。」
「イリア将軍。明日にもエンフィールドに付く距離になりました。」
「分かった。とりあえず、ここでキャンプをはれ!」
「はっ!」
イリアの命で、素早く、キャンプが張られる中、一人の男がイリアに近付いていった。
彼の名は、ジュナ・ハーティルス。イリア将軍の弟兼副官であった。
「姉さん。とりあえず俺は、千の編隊を5つ作って、周りの様子を見てくる。姉さんに言う必要はないが、慎重に慎重を重ねて……ね?」
「分かっている。少なくとも頼りとなる副官のお前が戻ってくる前に出撃するなどの下策はとらぬさ。」
「ああ。それじゃあ、行って来る。」
「大隊に気が付かれたら、防戦をしつつ、退却をとれ。一個隊千人ではかなう相手ではないからな。」
「わかってるよ。」
「トウヤ、お帰りなさい。作戦が決まったの?」
トウヤがリーボーフェンに帰ったとき、ユミールが笑顔でそれを出迎えた。
「ああ。それでこっちの人間も当然出すことになった。」
「へぇ!それで、誰を出してくれるんだ?」
「俺の他に、クロビスとフェイン、そしてアーサーだ。他の連中はリーボーフェンの守りについてくれ。」
「分かった。それで、いつ作戦が始まるんだ?」
「エンフィールド時間の明日午前九時三十分出撃開始だ。寝過ごしたヤツは、置いていくからそのつもりで。」
そして、次の日。
エンフィールドから南約5kmに位置する場所で、エンフィールド自警団が陣取っていた。
「2万5千と1万……本当に勝てるんでしょうか……」
「どうしたメルフィ。戦いの前で怖じ気ずいたか?」
「そ、そんなんじゃないですけど……」
「だったら、そんな弱気な気を出すな。気持ち負けしていると、一瞬で勝負が付く。こっちの負けという結果がな。」
「は、はい。」
ルシードの言葉に、メルフィの表情も和らぐ。
「どうやら敵さんのお出ましのようだぜ!」
その時、アルベルトの言葉が皆に緊張を与えた。
「よし、全軍前進を開始しろ!」
リカルドの言葉によって、ここにいる全軍が前進を開始した。
「連中、何事もなく出てきたけど、クロビス達、リカルドさんの言った通りの行動をしたようですね。」
「ああ。タイミングが決まれば成功する作戦だ。」
トウヤの言葉通り、ここに自警団の全てがいるわけではない。リカルドの作戦で一部の人間が、別の所に出撃しているのである。
その場所は、敵にとって、コア……要は急所に当たるところに出撃していった。
「それじゃあ、しばらくすれば、敵は勝手に逃げてくれるって言う訳か……」
「そう言うことだ。」
敵の剣と鍔迫り合いをしつつ、トウヤの顔は、リカルドの方向を盗み見る。
(そういえば、ルシードは手先に集中させていたな……)
敵を次々となぎ倒していく内に、トウヤはふとあることを思いついていた。
(そしてここで、方陣を作る……)
剣を地に突き刺し、手を自分のイメージ通りにうごかし、魔法陣が徐々に浮かび上がってきていた。
「まさかトウヤのヤツ……魔法が使えるというのか?ならば……アルベルト!バーシア!トウヤの援護をするぞ!」
「お、オッケ!」
「わかってるよ!」
アルベルトとバーシアは、目の前にいた敵を素早く切り倒し、ルシードの近くに走り出した。
「そして、ここでプラーナを放出する!」
トウヤの言葉と同時に、やや大きな魔法陣から、炎の魔力魂が浮かび上がってきていた。
「トウヤ!それを敵にぶつけるつもりで前に押し出すんだ!そうしなければ、いつまでたっても移動しないぞ!」
「わ、わかった!」
そう言うと、トウヤは手を前に移動させ、炎の魔力塊を押し出した。
しかし、前に移動した物の、敵がその移動を予測していたかのように、次々と炎をかわしていった。
「ひゅぅ〜!やるじゃねえか!」
「アンタがルーン・バレットを使えるなんて、思わなかったよ。」
「まさかさっき俺がやった物を真似したのか?」
「まぁな。ダメモトでやってみた。それより俺が魔法を使えるからって、勝負が決まった訳じゃないんだ。行こうぜ!」
「そうだ。トウヤ君の言う通だぞ。どうやら別働隊がうまくやってくれたようだ。こちらが次々と押して行っている。この隙をついて、さらに押していくぞ!」
「了解!」
そう言って、四人は攻撃を再開していった。
そのころ、イリア達は焦っていた。
各地での連絡が突然になって途絶えたのだ。
前の日にジュナが調べていっても兵士の数が一人もいなかったのである。
途中までイリアには原因が見あたらなかった物の、突然自分たちが進行している町の産物が何が思い出していた。
「ジュナ。どうやら私達は、敵の能力を超過小評価していたようだ。」
「と、いうと?」
「奴ら、魔法でこちらの行動を先読みしていたんだ!だからお前が偵察をしても人っ子一人いなかったんだ!」
「ど、どうりで……戦場で有利に進めるには制空権を得るか魔法で調べるかの二つに1つ。制空権を得られていない場合はどちらかで敵の状態を調べることが出来る。」
そう言ってジュナは、大きなため息を付いて、俯いてしまった。
「これ以上の行動は、傷を深めるだけだ。可能な限り、退却をするんだ!」
その時のイリアの言葉で、全軍が蜘蛛の巣を散らすように、退却をしていった。
最初の戦いは、エンフィールドの大勝に終わっていた。
第四章へ続く
後書き
お久しぶりです。
第3章です。とうとうエンフィールドとアルベザードの交戦が始まりました。
最初の戦いはエンフィールドの大勝で終わらせましたが、これからも同じシチュエーションじゃあね……
さて、話は変わりますが、そろそろティセと更紗とピートを出したいと思っております。(うっわー予告だ!かっちょえー)
この3人の活躍もとりあえず、ご期待を……
では第4章で